シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第1回)
新年 明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。
2022年(令和4年)最初のコラムはシリーズ「経営労務とコンプライアンス」の第1回となります。本コラムは全15回を予定しており、3週間のサイクルでアップさせて頂きます。なお、こちらは代表社員の大野が2012年に労働新聞に連載寄稿した記事を同社の了解を得て転載するものですが、転載にあたり適宜原文の加筆・修正を行ってまいります。
〇はじめに
多くの経営者は、いわゆる会社の管理分野はコストセンターであり、例えばコンプライアンスと聞くだけで、経営の自由度を拘束する法的な規制としてイメージし、受動的な対応に終始しているのではないだろうか。実際にも、会社の成長を促進するための管理ではなく、「管理のための管理」に留まっているのがいまだに多くの実態であるかもしれない。
ところで、会社は成長なくして存続できない。成長には量的側面と質的側面があるが、いずれにせよ成長のためには絶えざるイノベーションが必要である。中国語ではイノベーションを「創新」と書くそうだが、字義通り新しい価値を創りだすことであり、このことなくして企業活力は維持できない。
残念ながらそのための成功の方程式はない。しかし、成功例も失敗例も教訓として多くのケースに広く共通する要因を生かすことで、成功の確率を上げることはできる。そのための基本が「属人的経営から組織的経営」へと変革し、持続可能な経営の仕組みを作り上げることだ。持続するとは世代を超えて存続することであり、そのためには多種多様な属人的要素を受け継いで活かすための仕組み、会社の構成員とは独立した組織基盤が不可欠なのである。
その具体的な実践には、財務・会計・総務・人事労務・製造・研究開発・営業などの組織機能の整備と、これを支える「内部統制」の仕組み造りが鍵となる。このような組織的経営を確立することで、企業価値を向上させていくことも可能となる。「コンプライアンス(法令順守)」とは、この内部統制の基礎となるものなのである。
「経営労務とコンプライアンス」と題した今シリーズを通して、「経営と労務」の原点に帰って、ガバナンスと内部統制およびコンプライアンスの意味と位置づけを確認し、会社の成長、価値の向上に貢献する「経営労務」を考えてみたい。それは、単なる法令遵守のチェックリストを超えた、会社の成長に不可欠な経営のツールであり、労務監査や労務診断、ひいては持続的に成長する会社であるのための戦略的人材マネジメントにもつながるものだと確信している。なお、ここでは会社を、業として商品あるいはサービスを提供する法人格を付与された営利法人と想定している。経営形態の具体的な姿には、オーナー会社、株式会社、合同会社、持株会社等があり、法的構成や利害関係者が異なる側面もあるが、特段の区別はしていない。
〇成長する会社
セミやトンボは脱皮する。子供の乳歯は永久歯に生え変わる。生き物は絶えざる変身を遂げなければ成長を望めないどころか生存すら危うくなる。「会社は生き物である」と言われる。会社も持続的に成長していくためには、その時々のステージに合わせて経営システムを変化していく必要がある。変化は環境への適応であり同時に絶えざる体質の強化でもある。変化は変革に、成長は発展へと次元を上げていく努力が必要であるが、その前提にはまず変化を受け入れなければならない。その意味では、変化こそが唯一不変の真実かもしれない。
会社は、一般論として、少人数の創業期に競争力のある製品やサービスを開発することで売上が増大し、それに伴う組織・人員を拡大し大きく変貌していく。しかし、急速な変貌期には事業拡大に追われて、定例的人事ローテーションまでは手が回らないことが多い。
また、退社等で人員の補充はなされても、入社以来同じ部署に在籍したままや、取引先の担当もほとんど入れ替えがなされていないケースも多い。実務能力やノウハウが蓄積され専門化することで、より大きなパフォーマンスをあげられるという側面もあるが、無駄の削減やリスクの回避などの組織面からの更なる効率性の追求については、見逃される点もよくある。また何よりも次世代の人材育成ができず、やがて組織が慣れと惰性に陥り、革新的な活力を持続することが困難になる。
経営者は、創業時から、競争力のある製品の開発、新規顧客の開拓、販売・購買・外注管理、資金回収、組織整備、人事管理、銀行交渉等の資金調達など、企業経営に関する事項の全てにわたって目配りしている。売上が減ればどこに問題があるのか、利益の低下要因がどこにあるのか、製品クレームがあった時の対応の仕方など、様々な問題について、直感的に問題の所在を絞り込む能力が身についている。経営者だけでなく、多くのベテラン社員も能力の差はあれ、これと同じことが言える。ここに属人的経営の限界、いやほとんどの企業が避けて通れないジレンマがある。経営者やベテラン社員が、病気や急な理由で退社や引退していなくなった場合、多くの企業においてパフォーマンスが低下してしまう要因がここにある。だからこそ、持続的な成長のためには経営の組織力を養い、この最大のリスクに備える必要がある。「属人的経営から組織的経営」へ脱皮、これが持続的な成長を目指す企業経営のキーワードである。
以上

シリーズ
本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに、同社の了解を得て転載したものです。
ガバナンスと内部統制およびコンプライアンスの意味と位置づけを確認し、会社の成長、価値の向上に貢献する「経営労務」について、15回にわたり本コラムにて連載させていただきました。
なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2025.06.23 ニュース
- 【急募!正規職員】 リクルート情報
- 2025.08.30 これまでの情報配信メール
- 「スポットワーク」の労務管理 /令和8年度より「子ども・子育て支援金」が始まります
- 2025.09.01 大野事務所コラム
- 負の影響を特定する―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊷
- 2025.08.21 大野事務所コラム
- 育児時短就業をしても手取りが殆ど減らない!?
- 2025.08.20 これまでの情報配信メール
- 改正育児・介護休業法 柔軟な働き方を実現するための措置への対応について
- 2025.08.13 これまでの情報配信メール
- 雇用保険基本手当日額および高年齢雇用継続給付等の支給限度額変更について
- 2025.08.11 大野事務所コラム
- 無期転換ルールのおさらい
- 2025.08.04 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【有期労働者の雇止めと無期転換権】
- 2025.08.01 大野事務所コラム
- 学卒者初任給の現状を見る
- 2025.07.21 大野事務所コラム
- 「持株会奨励金は賃金か?」
- 2025.07.14 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【リファラル採用とは?紹介インセンティブの留意点について】
- 2025.07.11 大野事務所コラム
- 事業所の移転等により労基署の管轄が変わる場合に、36協定届の再度の届け出が必要か?
- 2025.07.01 大野事務所コラム
- 人権方針の公開―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊶
- 2025.06.30 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【ハラスメント対策と企業が講ずべき措置】
- 2025.06.30 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【男性の育児休業と休業期間の経済的支援】
- 2025.07.31 これまでの情報配信メール
- 19歳以上23歳未満の被扶養者に係る認定について/大野事務所モデル規程・書式集 一部改定のお知らせ
- 2025.07.23 これまでの情報配信メール
- 特別休暇制度導入事例集について
- 2025.07.10 これまでの情報配信メール
- 令和7年度の算定基礎届の提出について ・障害者のテレワーク雇用企業向け相談支援窓口について
- 2025.07.10 これまでの情報配信メール
- 年金制度改正法の概要について
- 2025.07.10 これまでの情報配信メール
- 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
- 2025.06.21 大野事務所コラム
- 管理職昇格時の随時改定(月額変更届)
- 2025.06.11 大野事務所コラム
- 職場における熱中症対策の強化
- 2025.06.01 大野事務所コラム
- 年収の壁を考える
- 2025.05.21 大野事務所コラム
- 通勤中のけんかによる被災
- 2025.05.14 大野事務所コラム
- 【令和7年度地方労働行政運営方針】
- 2025.05.07 大野事務所コラム
- JASTIの策定―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊵
- 2025.05.28 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【出向者の社会保険、労働保険の適用について】
- 2025.04.30 大野事務所コラム
- 産後パパ育休(出生時育児休業)のススメ
- 2025.07.10 これまでの情報配信メール
- 2025年度 新⼊社員の初任給調査 ・2024年度 賃上げと労使交渉に関する実態調査 について
- 2025.07.10 これまでの情報配信メール
- 令和6年度テレワーク人口実態調査について
- 2025.07.10 これまでの情報配信メール
- フリーランス法に基づく指導について ・令和7年度「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーンについて
- 2025.05.14 これまでの情報配信メール
- 労働保険年度更新に係るお知らせについて ・職場における熱中症対策の強化について
- 2025.05.12 これまでの情報配信メール
- 健康経営ガイドブックについて ・健康経営における女性の健康課題に対する取り組み事例集について
- 2025.04.16 大野事務所コラム
- 社員の転勤拒否を考える
- 2025.04.23 大野事務所コラム
- 「経過措置」について
- 2025.04.24 これまでの情報配信メール
- 働きがいのある職場づくりのための支援ハンドブック、2025年度の雇用動向に関する企業の意識調査について
- 2025.05.07 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【フレックスタイム制の導入のポイントと運用上の留意点(後編)】
- 2025.04.11 これまでの情報配信メール
- 現物給与価額(食事)の改正、育児休業給付金の支給単位期間途中の退職、令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について
- 2025.04.08 これまでの情報配信メール
- 教育訓練等を受ける場合の基本手当給付制限解除・「教育訓練休暇給付金」の創設について
- 2025.04.02 大野事務所コラム
- 「通勤遂行性」と「通勤起因性」について
- 2025.03.26 大野事務所コラム
- 労働時間制度等に関する実態調査結果(速報値)