所定6時間以下の労働者を適用除外できない?
こんにちは。大野事務所の高田です。
今月(2025年10月)1日より、育児介護休業法が改正施行されました。
本改正の目玉は、何といっても「柔軟な働き方を実現するための措置」だったかと思います。当措置の整備をめぐっては、筆者のもとにも多くの顧問先様からご相談やご質問が寄せられました。それだけ、この制度の趣旨・内容が理解しづらく、各企業とも対応に苦慮していたということだと思います。
今回は、先に結論からお伝えすると、この措置として「短時間勤務制度」を選択した場合において、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者を適用除外してはならないという話です。
1.柔軟な働き方を実現するための措置とは
これは、育児介護休業法の第23条の3として新設された規定です。
事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に関して、以下5つの措置の中から2つ以上の措置を選択して講じなければならないというものです。
① 始業時刻等の変更
② テレワーク等
③ 保育施設の設置運営等
④ 養育両立支援休暇の付与
⑤ 短時間勤務制度
本稿は各措置の内容を解説することが目的ではありませんので、詳細は割愛します。
2.2つの措置の選択について
各企業は、①~⑤の選択肢の中から最低2つを自社の措置として掲げなければならないというものであり、従来の育児介護休業法の各制度とは異なって、多くのバリエーション(措置の内容の自由さや選択の組み合わせ)が存在するだけに、余計に頭を悩まされることになったともいえます。もっとも、法律上(第23条の3第4項)は、過半数組合等からの意見聴取の機会を設けて、つまり労働者側のニーズを踏まえて選択することが求められています。ですが、実際問題としては、企業側にとって実現が容易なものと困難なものがあるわけですので、企業側の意向がある程度優先されるのは致し方ないものと思われます。
法改正前に労務行政研究所が実施したアンケート調査(労政時報第4101号)では、「いずれの措置を選択する予定か」の設問について、「①始業時刻等の変更」と「⑤短時間勤務制度」の組み合わせパターンが全体の約4割を占めるとの途中経過が報告されていました。この結果は実は筆者も予想していた通りでしたが、つまり、多くの企業にとって、この2つが現実的に対応しやすいということが如実に表れていたように思います。
3.「短時間勤務制度」は3歳未満を対象とした制度と同じ
実際、2つのうちの1つに「⑤短時間勤務制度」を選択した企業は多いと思いますが、この制度が一体どういった制度なのかについては、本年(2025年)1月20日付の通達には、「3歳に満たない子を養育する労働者に関する所定労働時間の短縮措置と同様であること」とのみ書かれています。つまり、既に施行済の短時間勤務制度と同じであるため、あらためて説明不要というわけです。
ここで筆者は罠にはまってしまったのですが、既に施行済の短時間勤務制度と同じだということは、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者については、当制度の適用を除外されていると考えてしまったわけです。何故なら、3歳未満を対象とした短時間勤務制度では、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者への適用は除外されているからです。この点について疑問を抱いた人は多かったらしく、この「1日の所定が6時間以下の労働者は適用除外してよいか?」といった質問は、労働局にも多く寄せられていたそうです。
4.所定6時間以下の労働者を適用除外できない
ここで、ようやく本稿で筆者が述べたかったことに行き着くわけですが、柔軟な働き方を実現するための措置において短時間勤務制度を選択した場合に、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者は、適用除外「できない」というのが結論です。
何故その結論になるのかは、答えが分かってしまえば簡単だったわけですが、実は、育児介護休業法の条文そのものに答えがあります。以下、3歳未満の短時間勤務制度を定めた条文(第23条)と、柔軟な働き方を実現するための措置を定めた条文(第23条の3)の、それぞれの書き出しの部分を比較してみます。
(所定労働時間の短縮措置等)
第23条 事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるものを除く。)に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつその子を養育することを容易にするための措置(以下この条及び第二十三条の三第一項第三号において「育児のための所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならない。
(三歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置)
第23条の3 事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育するものに関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づく次に掲げる措置のうち二以上の措置を講じなければならない。
まさに赤字の部分が関係しているのですが、3歳未満の子を対象とした短時間勤務制度においては、「一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるもの」、すなわち「一日の所定労働時間が六時間以下の労働者」(同法施行規則第72条)が当措置の対象者から除かれています。一方、柔軟な働き方を実現するための措置については、その対象者のところに、第23条の赤字部分がありません。つまり、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者を除いていないということです。
5.実質的には短時間勤務制度を選択する意味はない
要するに、柔軟な働き方を実現するための措置として、「短時間勤務制度」と「それ以外の4つの選択肢のうちいずれかの措置」の2つを掲げた場合においては、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者に対しても、両方の制度を選択肢として一旦提示しなければならないということです。
もっとも、「短時間勤務制度」というのは、1日の所定労働時間を少なくとも6時間に短縮することを含む制度のことですので、6時間よりも短い時間への短縮にも応じている制度でない限り、1日の所定労働時間が既に6時間以下の労働者にとって、この短時間勤務制度を選択する意味(効果)はありません。それにもかかわらず、とにかく、1日の所定労働時間が6時間以下の労働者を「はなから」除外するのはダメだというわけです。なんとも不思議な法律です。
ということで、もし皆様の企業が「柔軟な働き方を実現するための措置」の1つとして短時間勤務制度を掲げている場合において、育児介護休業規程等で「1日の所定労働時間が6時間以下の労働者」への適用を除外してしまっていないかどうか、是非再確認して頂きたいと思います。
執筆者:高田

高田 弘人 特定社会保険労務士
パートナー社員
岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。
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