年収の壁を考える②
代表社員の野田です。今回は6月1日に続き「年収の壁」について考えたいと思います。
年収の壁を考える(6/1掲載)
年収の壁を考える | 「社会保険労務士法人 大野事務所」:労務監査をはじめ人事・労務制度の設計、運用をトータルサポート
- ●社会保険に関わる壁の変更
以前のコラムでは社会保険の壁は変わらないと紹介しましたが、税制改正(勤労学生控除額の変更)を受けて一部改正されました。
内容としては、2025年10月1日以降に扶養認定を受ける方が19歳以上23歳未満の場合(学生か否かを問わない、被保険者の配偶者を除く)の年収要件が「130万円未満」から「150万円未満」に変更となります。変更前の勤労学生控除額は130万円となっており社会保険の扶養要件である130万円と同額となっていたところ、税制改正に合わせるかたちで150万円に引き上げられました。こちらに関する詳細は、以下のサイトよりご確認ください。
【日本年金機構HP:19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります】
19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります|日本年金機構
- ●最低賃金額の変更に伴う影響
今年の最低賃金額の引き上げは例年になく大きなものとなっています。東京都では10月3日より1,226円(63円増)となりますが、最低賃金額と年収の壁との関係は以下のようになります。
- ①年収123万円の壁(税)との関係
扶養控除に関する壁が「年収103万円以下」から「年収123万円以下」に引き上げられましたが、時給額が東京都の最低賃金額1,226円である場合、年間労働時間数1,003時間で約123万円(月平均約83時間)の年収となります。令和6年の年収の壁103万円および最低賃金額1,163円と比較した場合、月平均で約10時間多く勤務することが可能です。
・令和7年:1,230,000円÷1,226円(東京都)=約1,003時間/年間(月平均83時間)
・令和6年:1,030,000円÷1,163円(東京都)=約885時間/年間(月平均73時間)
- ②年収130万円等の壁(社会保険)との関係
税の壁を考える際には、非課税通勤費を考慮する必要はありませんが、社会保険の年収の壁『130万円、150万円(19歳~22歳)、180万円(60歳以上、障害者)』を考える際には、通勤交通費(非課税)を加味する必要があります。
仮に月6,000円の通勤交通費であれば年間72,000円となりますが、年収130万円未満に抑えたい場合、実質的な年収基準は122.8万円未満となります。東京都の最低賃金額1,226円で勤務した場合、以下となります。
・年収要件130万円で年間通勤交通費7.2万円の場合 ➡ 1,228,000円÷1,226円=約1,001時間/年間(月平均83時間)
・年収要件150万円で年間通勤交通費7.2万円の場合 ➡ 1,428,000円÷1,226円=約1,164時間/年間(月平均97時間)
・年収要件180万円で年間通勤交通費7.2万円の場合 ➡ 1,728,000円÷1,226円=約1,409時間/年間(月平均117時間)
このように、年間1,001時間(月平均83時間)を超えて勤務すると、扶養要件である年収130万円を超えてしまいます。19歳~22歳の被扶養者については、年間1,164時間を超えて勤務すると、扶養要件の年収150万円を超えてしまいます。
いずれも扶養に関する年収基準ではありますが、税(123万円)と社会保険(130万円)では対象となる賃金の範囲が異なることから、通勤交通費(非課税)を考慮した場合、事例では実質的な年収基準は税(123万円)と社会保険(122.8万円)でほぼ同額となります。
- ③短時間労働者(社会保険)との関係
厚生年金被保険者数51人以上の企業等で勤務し、週の所定労働時間数が20時間以上となる場合には、社会保険の「短時間労働者」として健康保険・厚生年金保険に加入する必要がありますが、時給1,226円で週20時間勤務した場合、以下となります。
・週20時間×52.14週/年=約1,042時間/年間(月平均86時間)
・1,042時間×1,226円=年収1,277,492円(交通費除く)
なお、学生については、週20時間以上で勤務した場合でも「短時間労働者」にはなりませんが、年収額にかかわらず、同一企業等で週30時間以上勤務するなど、社会保険加入基準(4分の3基準)を超えて勤務する場合には社会保険の加入対象となります。
・週30時間×52.14週/年=約1,564時間/年間(月平均130時間)
・1,564時間×1,226円=年収1,917,464円(交通費除く)
- ●おわりに
東京都の最低賃金額1,226円でみても、税・社会保険共に扶養の範囲内で勤務するためには、年間労働時間数を1,000時間程度(月平均83時間)にしておく必要がありそうです。19歳~22歳までの学生に関しては、税扶養が年収150万円以下(通勤交通費除く)、社会保険扶養が年収150万円未満(通勤交通費含む)となることから、時給1,226円とした場合、年間1,150時間(月平均95時間)を超えて勤務することが可能です。
繰り返しになりますが、社会保険の年収要件には通勤交通費(非課税通勤費)が含まれますので、年収試算、勤務調整をする際はご注意ください。以上となります。
執筆者:野田

野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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