TOP大野事務所コラム通勤災害から業務災害へ

通勤災害から業務災害へ

 ~次なる焦点は「業務上の疾病」の認定の難しさ~

■はじめに

前回は裁決とは関連がない箸休め的なコラムでしたが、それまでは数回にわたって、通勤災害に関する裁決事例をご紹介してきました。「寄り道や私用が混在する通勤経路での事故」「第三者とのトラブル」など、判断が分かれる事案を通じて、通勤災害の認定における実務上のポイントを整理してきました。そして今回からは、いよいよもうひとつの労災の柱である「業務災害」特に判断が難しい「業務上の疾病」に焦点を移してまいります。

 

業務災害とは? 改めて押さえておきたい基本

労災保険制度では、労働者が業務中または通勤途中に被災した場合、その損害を補償する制度が設けられています。そのうち「業務災害」とは、業務に起因して負傷・疾病・障害・死亡した場合を指します。

 

具体的には、以下の2要件を満たすことが必要です。

 1.業務遂行性

   ⇒被災が、事業主の支配下で行われていた業務中に起きたこと

 2.業務起因性

   ⇒その負傷・疾病などが業務そのものに起因していること

 

負傷、すなわち明確なケガを伴う事案では、この2要件の判断は比較的明快で、企業にとっても対応の方向性は立てやすいといえます。

 

■ 認定が難しい「業務上の疾病」

それに対し「業務災害」の中でも特に判断が難しいのが「業務上の疾病」です。

たとえば以下のようなケースが挙げられます。

 長時間残業の末に発症した脳梗塞・心筋梗塞

 ・職場でのハラスメントや過度な業務負荷によるうつ病・適応障害

 ・化学物質・粉塵などへの長期曝露に起因する呼吸器疾患・皮膚疾患

これらの疾病は、発症の直接的な瞬間が明確でないことが多く、かつ、業務以外の要因(生活習慣・家庭環境など)との区別がつきにくいため、労災として認定されるか否かはきわめて慎重な判断が求められます。実際、労災保険審査会の裁決例をみても、多様で複雑な事案が数多く取り扱われていることがわかります。

 

■ 労働保険審査会で争われる「業務上の疾病」

業務上疾病の認定を分けるポイントとは?

業務上の疾病が労災と認定されるか否かの分かれ目となる要素には、次のようなものがあります:

 長時間労働や異常な勤務状況があったか(過労性)

 ・心理的負荷(ハラスメント、トラブルなど)の内容と強度

 ・医学的見地に基づく因果関係の評価

 ・業務記録、医師の意見書、第三者証言等の証拠の有無

 

増加傾向にある「業務上の疾病」

以下のような社会的背景が、業務上疾病の労災申請や紛争の増加につながっていると考えられています。

 働き方改革による長時間労働是正の流れと裏腹に、過重労働の温存

 ・ハラスメント防止法制化による精神障害労災の申請増加

 ・コロナ禍での在宅勤務普及による勤務状況の可視化困難化

    つまり、目に見えない労災リスクが多様化し、企業にも「予見しにくい災害」への備えが求められる時代になっているのです。

     

    ■次回予告

    業務上疾病に関する裁決事例を詳しく紹介

    次回からは、実際に労働保険審査会で判断が分かれた業務上の疾病に関する裁決事例を紹介してまいります。企業の労務管理の現場で活かせる具体的な教訓をお伝えする予定ですので、ぜひご期待ください。

     

    執筆者 岩澤

    岩澤 健

    岩澤 健 特定社会保険労務士

    第1事業部 グループリーダー

    社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
    入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。

    数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
    押忍!!

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