【令和8年度地方労働行政運営方針】
こんにちは、大野事務所の土岐です。
今回は、厚生労働省より毎年4月に公表される「地方労働行政運営方針」について採り上げます。令和7年度版と令和8年度版を比較しながら、変更がある点は何が変わったか、変更がない点はどの項目かを確認していきたいと思います。
「地方労働行政運営方針」とは
地方労働行政運営方針(以下、方針)は、厚生労働省が都道府県労働局長宛てに毎年発出する通達であり、その年の労働行政の重点課題を示したものといえます。各都道府県労働局においては、「この運営方針を踏まえつつ、各局内の管内事情に即した重点課題・対応方針などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、計画的な行政運営を図ること」とされており、労働基準監督署による調査や是正指導の現場にも影響を与えるものといえます。例えば、ある年に「長時間労働の是正」が重点課題に掲げられていれば、これに関連する調査や指導が強化される傾向にあります。
令和8年度の方針
令和8年度のテーマは令和7年度と同様に次の通りとなっており、それぞれについて課題と取組が述べられています。
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第1 労働行政を取り巻く情勢 第2 総合労働行政機関としての施策の推進 第3 最低賃金・賃金の引上げに向けた支援、非正規雇用労働者への支援 第4 リ・スキリング、ジョブ型人事(職務給)の導入、労働移動の円滑化 第5 人手不足対策 第6 多様な人材の活躍促進と職場環境改善に向けた取組 |
以下に令和7年度と令和8年度の内容を比較しながら、各テーマの内容をいくつかご紹介します。
- ■第3 最低賃金・賃金の引上げに向けた支援、非正規雇用労働者への支援
~賃金引上げ支援については「1,500円」目標から「環境整備」へ方向性が変化~
令和7年度版では、「2020年代に全国平均1,500円」という閣議決定の高い目標の達成に向けた取組を強調し、「業務改善助成金を含む『賃上げ支援助成金パッケージ』」の周知を明示していました。また、中小企業庁との連携強化や、よろず支援拠点の活用なども具体的に盛り込まれていました。
一方、令和8年度版では、令和7年11月の閣議決定(「「強い経済」を実現する総合経済対策」)を根拠に示しつつ、最低賃金引上げへの対応を含めた「賃上げを行いやすい環境整備」を主眼に置いた記述に改められています。特徴的なのは、経済産業省等の関係省庁が行う支援や、令和7年度補正予算において措置された「重点支援地方交付金」を活用した地方公共団体による支援策など、厚生労働省以外の施策も含めた幅広い活用を促している点です。各省庁・地方公共団体との連携強化が前面に出ており、「1,500円」という数値目標の文言は消えています。この変化からは、政府全体で賃上げを下支えする環境づくりをより現実的に進める方向への転換が読み取れます。
- ■第4 リ・スキリング、ジョブ型人事(職務給)の導入、労働移動の円滑化
- ~リ・スキリング施策の充実~
令和7年度版では、「教育訓練給付制度」の給付率引上げ(令和6年10月施行)の周知に加え、令和7年10月に創設・施行予定であった「教育訓練休暇給付金」と「リ・スキリング等教育訓練支援融資」の円滑な施行に向けた周知が課題として示されていました。
令和8年度版では、これらの新制度はすでに令和7年10月に施行されたことを受けて「引き続き周知を図る」という表現に変わっています。新たな点として、「(6)非正規雇用労働者等が働きながら学びやすい職業訓練の本格実施」という項目が加えられたことが挙げられます。正社員と比べて能力開発機会に乏しい非正規雇用労働者等が、オンラインを活用しながら働き続けつつ学びキャリアアップを目指せる職業訓練について、令和8年度から本格実施する旨が盛り込まれました。また、「(8)全世代型リ・スキリングを促進する国民運動の実施」という新たな項目も設けられており、リ・スキリングの重要性・必要性の認知・理解を促進するための全国的な周知広報キャンペーンを令和8年度から新たに実施するとされています。
さらに、「3 成長分野等への労働移動の円滑化」の項では、令和8年度版に新たに「(5)賃金上昇を伴う中途採用者の雇用拡大を図る事業主への支援」という項目が加わっています。諸外国に比べて賃金が上昇する転職の割合が低い日本の現状を踏まえ、「早期再就職支援等助成金(中途採用拡大コース)」の見直しと周知活用促進が盛り込まれました。賃金が上昇する形での転職を後押しする姿勢が明確になっているといえます。
- ■第6 多様な人材の活躍促進と職場環境改善に向けた取組
~女性活躍推進に向けた取組促進等(改正女性活躍推進法による情報公表義務の拡大)~
令和7年度版では、常時雇用する労働者数301人以上の事業主に義務付けられている男女の賃金差異に係る情報公表等について記載されており、また、女性活躍推進法の改正法案が成立した場合の円滑な施行に向けた周知を行う旨が盛り込まれていました。
令和8年度版では、令和7年6月に改正女性活躍推進法が成立し、常時雇用する労働者数101人以上の事業主に対して、男女間賃金差異および女性管理職比率の情報公表が令和8年4月1日から義務付けられた旨が盛り込まれています。対象が「301人以上」から「101人以上」に大幅に拡大されており、中堅規模の企業においても対応が求められることになりました。あわせて、新設された「えるぼしプラス」認定制度の周知・取得勧奨や、「不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース」の活用促進も新たに明記されており、女性の健康課題への対応が一段と強化されています。
~総合的なハラスメント対策の推進(法改正による義務化の動き)~
令和7年度版では、カスタマーハラスメント対策や就職活動中の学生等に対するハラスメントへの対応が「望ましい取組」としての周知にとどまっていました。
令和8年度版では、令和7年6月に改正労働施策総合推進法等が成立し、カスタマーハラスメントや求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止のための雇用管理上の措置が事業主に対して令和8年10月1日から義務付けられることとなった旨が盛り込まれています。また、令和7年度版で取り上げられていた「就職活動中の学生等に対するハラスメント対策」という表現が、令和8年度版では「求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策」という法律上の概念に即した記述に改められています。2026年10月1日の義務化を控えて、使用者側としては対応が求められます。
~安全で健康に働くことができる環境づくり(長時間労働対策等)~
(1)長時間労働の抑制と(2)労働条件の確保・改善の項目では、労働基準監督署の調査動向に繋がってくることが予想されるところです。ただ、この2項目については、いずれも基本的な内容・構成に大きな変更はなく、大部分が前年度からの継続事項です。
変更点として挙げられますのは、建設業について、令和7年12月施行の改正建設業法により受注者にも著しく短い工期での契約締結が禁止される「工期ダンピング対策」が追記されました。トラック運転者については改正物流法の令和8年4月全面施行を踏まえた記述が加わり、荷待ち時間削減等に取り組む事業主を支援する「働き方改革推進支援助成金・取引環境改善コース(新設予定)」の活用促進も盛り込まれています。令和7年度版にあった「長時間労働につながる取引環境の見直し」という独立項目は令和8年度版では姿を消し、「しわ寄せ防止キャンペーン月間」等への言及もなくなっています。
その他、法定労働条件の確保等、、裁量労働制の適正運用、労働契約関係の明確化といった項目については、令和7年度とほぼ同じ内容とされており、実質的な変更はありません。
おわりに
以上、令和7年度と令和8年度の「地方労働行政運営方針」の変更点等の一部をご紹介しました。
ハラスメント防止措置の義務化が迫っていること、女性活躍推進の情報公表義務が中堅規模の企業にも広がったことなどが実務上の対応を要する箇所となりますところ、その他の点に関しましても方針を読み解くヒントになりましたら幸いです。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
厚生労働省 「令和8年度地方労働行政運営方針」の策定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72345.html
執筆者:土岐
土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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