人権方針の公開―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊶
こんにちは。
大野事務所の今泉です。
熱中症にはくれぐれも気を付けましょう(前々回のコラムは熱中症対策でしたね!)!
企業活動をしていく上で、関係各所においても人権侵害がないよう働きかけ、取り組んでいく、つまり自社を取り巻く周囲の状況にも思いを馳せること、これが「ビジネスと人権」の中核をなすマインドです。
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さて、これは第38回でお伝えした記述です。
そもそも人権は尊重されなければならない、というのは感覚的には理解できても、企業として何をしていけばいいのか、具体的にどう取り組んでいけばいいのか、ということになると、詰まってしまいます。
では、企業のことを考える前に個人としてはどうでしょうか?
人権問題といわれて個人レベルでまず想起されるものとして差別の問題があるのではないかと思います。また最近では個人の名誉やプライバシーの問題も比較的身近なものといえるかもしれません。
そのようなことに対して個人が向き合うには、まず現状を知ることから始まります。
現状を知れば、何らかの感情を抱くことになるはずです。侵害の実態に対しては率直に「嫌だな」、「こういうことが無くなればいいな」と思うでしょう。この「現状を知ろう」というモチベーションが重要であり、きっかけは人それぞれだと思いますが、それがあってはじめてその問題について知ることになり、場合によっては関与していくことになります。
企業においても同じで、取り組むにはまず、自社を取り巻く環境においてどういったことがあるのか知ろうとすることから始める必要があります。
第38回で例示したサッカーボールについても、現状を知ろうとした動きから具体的な取組に移行しています。
その上で、人権侵害そのものだけでなく直接的または間接的に人権侵害を助長したり、何らかの形で関連している人権侵害に対する影響(負の影響といいます。)がないか、あるとすれば、それらを排除あるいは軽減していくことを考えていかなければなりません。もちろん、そのような事態にならないように予防していくことが最も重要といえます。
このように「人権を尊重していくという約束を表明する」こと、それが企業の「取組」としての第一歩である「人権方針の策定」というフェーズになります。
ここで、人権方針策定に必要とされる要素として国連指導原則16.に示されているのが次の5つです。
a 企業の最上級レベルで承認されている。 b 社内及び/または社外から関連する専門的助言を得ている。 c 社員、取引先、及び企業の事業、製品またはサービスに直接関わる他の関係者に対して企業が持つ人権についての期待を明記している。 d 一般に公開されており、全ての社員、取引先、他の関係者にむけて社内外にわたり知らされている。 e 企業全体にこれを定着させるために必要な事業方針及び手続のなかに反映されている。
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企業は事業の種類や規模等は様々ですから、自ずから掲げるべき方針も様々なものとなるはずですが、上記5つの要素(経済産業省の「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」では要件といっています。)については漏れなく入れ込んでおく必要があります。
そして、経済産業省のガイドラインにおいては、策定の際の留意点(3.1・3.2)を提示しており、それを踏まえた上での策定の流れを次のようにまとめてくれています。
(出典:経済産業省 責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料)
重要なのは、対外的に公開している、ということではないでしょうか。
現在、大企業を中心に策定された人権方針を自社サイトにアップし公開しているケースが多く見られます。
人権尊重への取組は、人権侵害を理由とした製品・サービスの不買運動、投資先としての評価のランクダウン、投資候補先からの除外や人権侵害を理由に取引先から取引を停止される可能性などの経営リスクをヘッジすることになりますが、そうした取組を行っていると示すものとして、人権方針の公開が一役買っていると思います。
ただ、人権方針は策定・公開することで終わりではないことには留意すべきでしょう。
企業全体に人権方針を定着させること、その活動の中で人権方針を具体的に実践していくことができていないと意味がありませんし、「人権方針を社内に周知し、行動指針や調達指針等に人権方針の内容を反映することなどが重要である。」と同ガイドラインでは念を押しています。
単なる形式ではなく、実際に行動して初めて意味を成す、ということです。
ちなみに、弊所の人権方針もサイトにて公開しています(大野事務所人権方針)。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
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