学卒者初任給の現状を見る
代表社員の野田です。
春先に大手総合商社や金融業界で大卒初任給を30万円台に引き上げるといったニュースが取り上げられたことから、私の担当する企業様からも「賃上げの実態はどうなのか」といった問い合わせをお受けしました。また、依然として毎月のように物価高騰、価格の再値上げといった報道を耳にしますが、中小企業における2025年度の賃上げの実情はどうだったのでしょうか。7月に「2025年度 決定初任給調査(産労総合研究所)」結果が公表されましたので、今回は学卒初任給について公表されているデータを見ていきます。
- ●2025年度 決定初任給調査(産労総合研究所)
7月7日付で出された「2025年度 決定初任給調査」結果では、大学卒で23万9,280円(対前年度比5.00%増)、高校卒で19万8,173円(同5.37%増)とのことです。
また、2025年4月入社者の初任給を「引き上げた」と回答した企業は72.0%となり、調査開始以来2番目に高い割合となっています(2024年が75.6%で過去最高)。なお、「据え置いた」企業は23.8%、「引き下げた」企業は0社だったようです。
初任給額の水準を規模別に見ると、大学卒は「1,000人以上」が25万9,285円(対前年増減率6.52%)と最も高く、「300~999人」が23万9,624円(同4.63%)、「299人以下」は23万1,657円(同4.63%)、高校卒も「1,000人以上」が20万8,505円(同7.52%)、「300~999人」が20万923円(同5.44%)、「299人以下」が19万450円(同4.08%)となっており、大企業ほどではありませんが、中小企業でも引き上げの動きが確認できます。
また、新入社員に「何らかの夏季賞与を支給する」と回答した企業は81.8%で、支給方法は「一定額(寸志等)を支給」が最多の67.6%、平均支給額は大学卒が10万107円、高校卒が7万9,983円となっており、支給額の分布では「5万~10万円未満」が最も多かったようです。
【2025年度 決定初任給調査】
産労総合研究所では、1961年(昭和36年)より毎年、学卒者の初任給調査を実施していますが、2025年度は、産労総合研究所会員企業および上場企業3000社のうち、回答のあった336社の集計結果となっています。
なお、2005年、2015年当時の初任給額と上昇率は以下のとおりです。
|
大学卒 |
高校卒 |
2005年 |
200,524円 |
159,489円 |
2015年 |
204,634円(2005年比2.04%増) |
165,772円(2005年比3.93%増) |
2025年 |
239,280円(2015年比16.93%増) |
198,173円(2015年比19.54%増) |
- ●2025年度 新入社員の初任給調査(労務行政研究所)
⼀般財団法⼈労務⾏政研究所が実施している「2025年度 新入社員の初任給調査」結果では、⼤学卒で25万5,115円(対前年度比6.3%増)、短⼤卒で22万円1,640円(同7.0%)、⾼校卒で20万6,523円(同6.7%)とのことです。
また、2025年度の初任給を前年度から「全学歴引き上げた」企業は83.2%となり、2年連続で8割超となっています。なお、「全学歴据え置いた」企業の割合は14.2%となっています。
【2025年度 新入社員の初任給調査】
東証プライム上場企業1586社のうち、回答のあった197社の集計結果となっています。
- ●令和6年版 中小企業の賃金・退職金事情(東京都産業労働局)
民間調査会社や研究機関等で賃金に関する調査が実施されているものの、企業数の大半を占める中小企業については必ずしも十分ではないことから東京都では、従業員が10~299人規模の都内中小企業を対象とした賃金に関する調査を毎年行っており「中小企業の賃金・退職金事情」として公表しています。
本調査結果では、大学卒で22万9,507円、高校卒で20万5,900円とのことです。規模別に見ると、「10~49人規模」では、大学卒で22万9,233円、高校卒で20万6,762円、「50~99人規模」では、大学卒で23万2,101円、高校卒で20万8,990円、「100~299人規模」では、大学卒で22万5,798円、高校卒で19万3,301円となっており、調査結果は下表のとおりですが、「50~99人規模」が全てにおいて最高額となっている点は意外でした。
|
大学卒 |
高専・短大卒 |
専門学校卒 |
高校卒 |
10~49人 |
229,233円 |
216,031円 |
211,011円 |
206,762円 |
50~99人 |
232,101円 |
222,307円 |
222,465円 |
208,990円 |
100~299人 |
225,798円 |
211,477円 |
211,130円 |
193,301円 |
また本調査では、年齢区分で年間給与支給額(源泉徴収票の支払金額:月次給与、賞与、残業代等を含む、非課税通勤費を除く)を公表しておりますが、令和5年の「22~24歳」の年間給与支給額は、男性が324万8,640円、女性が314万3,682円とのことで、年収で約320万円となっています。
- ●30万円を超える初任給設定企業は⁈
日本経済新聞社が公表している「初任給ランキング2025年」を見ると、およそ130の企業で初任給を30万円以上に設定しています。1位と2位はGMOグループ企業で60万円弱となっており、3位の企業50万円と比べても10万円ほどの差があります。初任給を25万円以上に設定している企業数だけも700社にのぼるようですが、初任給額を高額に設定している企業の中には、固定的な「みなし残業代(月30時間相当など)」を含んだ月額初任給を提示している場合もあり、一様ではありません。
トップ100に含まれる企業の多くが、情報通信業、不動産業、金融・保険業、建設業、製薬業等となっておりますが、運輸・郵便業、卸売・小売業、宿泊業・飲食サービス、医療・福祉では、初任給が低く設定されており、業界・業種による偏りが見て取れます。
新卒採用を行っていない中小企業も多いでしょうが、大企業との格差、業種による格差が生じることで、若手人材の確保がこれまで以上に困難になるものと思われます。弊所も他人事ではありません。
- ●おわりに
2021年当時、自民党総裁選に立候補していた岸田文雄氏が「令和版所得倍増計画」と称した政策案を掲げていました。また、先の参院選でも国民民主党が「初任給倍増」を公約に盛り込むなど、現役世代の給与アップに言及しています。現在の日本の平均年収は、OECD(経済協力開発機構)加盟国38ヶ国中25位という位置にありますが、これは2000年に17位だったものが2020年に22位に下がり、更に低下している状況です。
日本経済は世界上位であるにもかかわらず、平均年収ランキングでは他の先進諸国と比較しても低いものとなっています。ある経済専門家が「日本の物価は高水準ではあるものの、購買力平価でみると他の先進国に劣る場面が多く、これが相対的に「生活コストが高いが収入が低い」という問題を浮き彫りにしている」と言及していることからしても、物価上昇に負けない賃金上昇が必要不可欠と言えそうです。以上となります。
執筆者:野田

野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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