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被扶養者の認定は審査請求の対象!?

2024年、筆者一発目のコラムはありがたくもお恥ずかしい内容となります。

 

前々回の私のコラムにおいて、社会保険審査請求制度の概要について説明しましたが、その中で社会保険関連の処分における審査請求の対象をまとめていました。

https://www.ohno-jimusho.co.jp/2023/11/01/20231101/

 

法令において審査請求の対象は、「被保険者の資格、標準報酬、保険給付、保険料」と定めていて、「被扶養者」の認定に関しては、この中のいずれにも該当しないことから審査請求の対象外になっていると、コラムの中で述べていました。このことは、社会保険審査請求の手引きにも記載がされており、何の疑いもなく掲載していました。

 

そんな中、2024年の年始早々、ある読者の方から、「被扶養者の認定については最高裁の判決により審査請求の対象外とする見解が見直されている」とご指摘をいただき、さらに当該最高裁の関連サイトをご紹介いただきました。判決の内容はまさに、ご指摘いただいた通り、被扶養者の認定については審査請求の対象外とする見解が覆っており、当初愕然としたことを記憶しています。ただ、少しすると今回のご指摘と最高裁の関連サイトをご紹介いただいたご配慮に本当に感謝の念を抱くことになりました。おそらく、HP上でコラムを書くということは、今回のようなご指摘を適宜受けることになるのだろうという考えに至り、このようなご指摘を糧に日々学んでいければという前向きな考えを持つことができました。

 

今回のコラムはまさにこのご指摘を糧に当該判決の内容のご紹介とさせていただきます。また、そこに付帯する形で、なぜ社会保険審査請求制度の中で、被扶養者の認定は対象外として解されていたのか、この部分に触れていきたいと思います。

 

※前回のコラムの最後に、「次回は労働保険審査請求の裁決に挑戦します」と言っておきながらいきなり違う題材となってしまいました。申し訳ございません・・・

 

処分取消等請求事件  令和4年12月13日 判決/最高裁判所第三小法廷

 

【事件の概要】

日本輸送健康保険組合(本件組合)の被保険者Xの妻は、被扶養者に該当していたが、Xの収入が本件組合の定める基準を満たさなくなったことを理由として平成2611日時点で被扶養者に該当しない旨の通知(本件通知)を平成27910日に受けた。被保険者Xはこれを不服として平成28728日付で本件通知について、審査請求をしたが、本件通知は処分に該当しないことを理由に、近畿厚生局社会保険審査官は、これを却下する決定をした。さらに被保険者Xは、当該決定について再審査請求をしたが同様の理由から社会保険審査会は、これを却下する裁決をした。そこで被保険者Xは本件訴訟を提起した。被保険者Xは本件組合(実際は権利義務を継承した組合)を相手に妻は被扶養者に該当すると主張して本件通知の取り消しを求める(請求①)とともに、国を相手に、社会保険審査会が下した裁決の取り消し等を求めた(請求②)。一審(地方裁判所での裁判)および原審(高等裁判所での裁判)は、本件通知の処分性は認めたものの、本件組合が被保険者Xの妻を被扶養者に該当しないと認定したことは裁量権の逸脱・濫用には当たらず違法とは言えないとして請求①を棄却し、請求②についても、本件通知に対しては、健康保険法189条1項に基づく不服申し立てはできないとの理由から上記裁決は適法と認めてこれを棄却した。それに対して、被保険者Xは上告受理申し立てをした。

 

それではまず、社会保険審査官および社会保険審査会(審査会等)がどのような理由から、被扶養者の認定を審査請求の対象としないと判断したのでしょうか。この点から解説していきたいと思います。

 

審査会等が被扶養者の認定を審査請求の対象としないと判断した理由

 

審査会等は「被扶養者認定の処分性」と、本件通知が健康保険法189条1項に規定される不服申し立ての対象となるのかどうか「本件通知に対する不服申し立て」という2つの観点から判断をしていきました。

 

【審査会等が判断した「被扶養者認定の処分性」について】

審査請求の対象となる「処分」とは、行政事件訴訟法に定められた処分であり、これによると行政庁の法令に基づく行為の全てを意味するものではなく、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものと解することができる。健康保険において被保険者についての資格及び喪失は保険者等が確認を行うことにより、その効力が生じ、権利義務が形成されるが、この「確認」はまさしく行政の行う処分に該当する。これに対して被扶養者については健康保険法、健康保険法施行規則上は、被扶養者の「資格」に関する定めはなく、また、被扶養者の「認定」あるいは被扶養者資格の「確認」という文言もないので、被扶養者の認定については法律上、権利義務を形成し、その範囲を確定する根拠がない。よって被扶養者の認定については処分性はない。

 

【審査会等が判断した「本件通知に対する不服申し立て」について】

被扶養者の不該当の通知が被保険者本人の資格について何らかの影響が出れば、それを理由に不服申し立てができるが、不該当の通知は被保険者としての法的地位に何ら影響も及ぼさない。また、本件通知は被保険者Xの妻の具体的な保険給付に関する処分にも該当しない。

 

以上を理由に、審査会等は被扶養者の不該当については不服の対象となる処分を欠くことから、当該審査請求を却下しました。

 

これに対して、一審、原審ともに、被扶養者の認定の処分性は認めましたが、審査請求の対象にはあたらないとして、棄却したこととなります。紙幅の都合上、今回はこちらの詳細の解説は割愛させていただきます。(実際問題、詳細が記載されている判決内容を見つけることができませんでした・・・)

 

では、最高裁がどのような見解を基に、審査請求の対象となると判断したのでしょうか。最高裁も審査会等の観点と同様、「被扶養者認定の処分性」「本件通知に対する不服申し立て」から判断していきました。

 

【最高裁が判断した「被扶養者認定の処分性」について】

・被保険者の親族等であっても被扶養者に該当しないものは、原則として国民健康保険の被保険者に該当し、その資格取得の届出が必要となり、国民健康保険の保険料が徴収される。

 ・いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては健康保険等を利用しないで医療機関を受診するものはほとんどないため、健康保険組合から、被保険者の親族が被扶養者に該当しないと判断された場合には、当該扶養親族について、国民健康保険の被保険者の資格取得の届出をしない限り、適時に適切な診療を受けられないおそれがある。

 以上のことから、被保険者の親族等が被扶養者に該当することは被扶養者に係る保険給付が行われるための資格としての性格を有し、その該当性の有無によっては当該扶養親族に適用される医療保険が健康保険なのか国民健康保険なのか等の医療保険の種類が決せられるということができる。また、被扶養者に該当しないと判断された場合には被保険者の親族等に生活上の相当の不利益が生ずることとなる。こうした点に照らすと、被扶養者の該当性についての健康保険組合の判断は、被保険者およびその親族の法律上の地位を規律するものであり、被保険者の資格の得喪について健康保険組合の確認という処分をもって早期に確定させるものとされているのと同様、被扶養者の該当性判断は早期に確定させ、適正公平な保険給付の実現や実効的な権利救済等を図る必要性が高いものということができる。そうすると、被扶養者の該当性の結果通知(本件通知)は処分に該当すると解するのが相当である。

 

本件通知が処分であるならば、次に問題となるのはこれが健康保険法189条1項に規定する不服申し立ての対象となるかどうかですが、最高裁は以下のように判断しました。

 

【最高裁が判断した「本件通知への不服申し立て」について】

健康保険法1891項が被保険者等に関する処分について、審査会等への審査請求という特別の不服申し立てを設けている趣旨は、これらの処分が多数の被保険者等の生活に影響することが大きいこと等にかんがみ、専門の審査機関による簡易迅速な手続きによって被保険者等の権利利益の救済を図ることにあるものと解されるが、その趣旨は、健康保険組合による被扶養者に係る認定判断の結果の通知にも妥当するというべきである。 

 

以上のことから、最高裁は健康保険組合が被保険者に対して行う、被扶養者の該当結果の通知は、健康保険法189条1項の所定の被保険者に関する処分に該当すると解するのが相当であるとの結論を導き出しました。

一審、原審が排他的に捉えた、被扶養者の認定と健康保険法189条の対応関係を、最高裁は審査請求制度の趣旨に着目して、被扶養者の認定が審査請求の対象とするのが妥当であると判断したことになります。

 

ただし、本判決では最終的には本審査請求を不適法なものと断じて訴えを却下する判断となりました。これは原審まででは争点とされていなかった審査請求期間の徒過(請求期限を過ぎてしまったこと)が理由となります。本件通知を受けたのが平成27910日で、審査請求をしたのが平成28728日ですので、通知がきてから審査請求をするまで約10ヵ月が過ぎています。現在は処分があったことを知った日(通知日)の翌日から起算して3ヵ月以内が審査請求期間ですが、当時は法改正前であり60日が審査請求期間となっています。いずれにせよ、大きく審査請求期間を過ぎていることになります。

 

最後に

 

今回ご紹介した判決は、被扶養者の認定に関する通知に処分性を認めたうえで、これに不服がある場合は社会保険審査請求が可能であることを初めて示した点で、非常に意義があるものと言えます。なお、冒頭の方で述べた通り、本裁判は「妻は被扶養者に該当すると主張して本件通知の取り消しを求める(請求①)」と「社会保険審査会が下した裁決の取り消し等を求めた(請求②)」の2つの訴えで構成されていますが、審査請求等の裁決内容においても、最高裁の判決内容においても、(請求①)の論点である「そもそも被扶養者に該当するのか否か」というある意味本質的な論点については考察されませんでした。一審や原審においてはこの点が争点となっているようですが、残念ながら裁判内容が詳しく掲載された資料を見つけることができませんでしたので、今回はご紹介することができません。実務をする上では、被扶養者認定の可否についての考察部分も知りたいところなので、一審、原審の判決内容をご存じの方、ご連絡いただければ幸いです。

 

執筆者 岩澤

岩澤 健

岩澤 健 特定社会保険労務士

渋谷第1事業部 グループリーダー

社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。

数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
押忍!!

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