「パパ・ママ育休プラス」の使い方
こんにちは。大野事務所の深田です。
法律の構成のみならずサンプル規程も非常に難解なのが育児休業ではないでしょうか。昨年から段階的に施行された大きな法改正については私のコラムでも何度か取り上げてまいりましたが、改正後の規程はますます読みづらくなってしまった感が否めません。
さて、そのような中、子が1歳に達するまでの育休の期間の特例であるいわゆる「パパ・ママ育休プラス」については、今回の法改正を経ても特に変わることなく残っています。
この「パパ・ママ育休プラス」は、配偶者(仮にママとします)の育休開始と同時か後日に育休をパパが開始した場合に、パパは最長で子が1歳2か月に達するまで育休を取得できる(取得できる育休の期間自体は最長で1年間)というものです。「両親ともに育児休業をする場合」という言い方がされますが、次のパターン図(厚生労働省資料)からも分かるように、「ともに」というのは必ずしも「同時に」ということではありません。
本制度がスタートしたのは2010年6月30日のことです。当時の法改正に向けた検討過程における資料を振り返ってみますと、「男性の育児休業取得が進んでいない現状を踏まえれば、官民をあげて男性が育児休業を取得しにくい職場の雰囲気の改善等に取り組んでいくことに加え、父親の子育て参加をより一層強力に促進する観点から、ドイツ、ノルウェー、スウェーデンなど諸外国におけるパパ・クオータ制度を参考にしつつ、父親も母親もともに育児休業を取得した場合に何らかのメリットが生じる仕組みを設け、男性の育児休業取得促進の起爆剤とするべきである。」との記述があります。
そうした考えの下で導入されたわけですが、「令和3年度雇用均等基本調査」(厚生労働省)によれば、パパ・ママ育休プラスの利用状況は次の図表のとおり数パーセントの利用状況となっており、現実にはあまり活用されていないようです。
では、どのような利用方法が適しているのでしょうか。一つには、「子が1歳に達するまでに保育所への入所が決まっている場合」というケースが挙げられるかと思います。例えば、産休から引き続いて育休を取得していたママが、子が1歳に達するまでに保育所が決まって復職することになったとします。そこで、パパがママと入れ替わりにパパ・ママ育休プラスという形で1歳2か月に達するまで育休を取得し、慣らし保育などに対応するといった具合です。
最後に、育児・介護休業法の改正動向を確認しておきたいと思います。去る6月19日に、「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」が厚生労働省から公表されました。同報告書では、育児・介護を取り巻く現状を把握した上で、それらを踏まえた制度的な課題を指摘しています。また、“具体的な対応方針”として育児については次の点を掲げつつ、以下のようなイメージ図が示されています。
(1)子が3歳になるまでの両立支援の拡充 ・テレワークの活用促進 ・現行の短時間勤務制度の見直し ・子の看護休暇制度の見直し (2)子が3歳以降小学校就学前までの両立支援の拡充 ・柔軟な働き方を実現するための措置 ・残業免除(所定外労働の制限)の延長 ・子の看護休暇制度の見直し |
以上のとおり、実務に影響のある内容が多々含まれています。来年の通常国会への改正法案提出を目指しているとの報道もありますので、今後の動向を注視してまいりましょう。
執筆者:深田
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
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