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健康診断での聴力検査

こんにちは。大野事務所の深田です。

 

「会社の健康診断を受診するクリニックが今までとは別のところに変わって、そこでは聴力検査がなかったのに結果表には「異常なし」と書かれていたんだけど・・・」という話を友人から聞かされたことがあります。これはどういうことなのでしょうか。

 

健康診断についての詳細を定める労働安全衛生規則を見てみましょう。第43条が雇入れ時健康診断の条文で、検査項目の一つとして聴力が定められています。更に、その聴力については「1,000ヘルツ及び4,000ヘルツの音に係る聴力をいう。次条第1項第3号において同じ。」とも書かれています。「次条第1項第3号」というのは、定期健康診断の検査項目として聴力を定めている箇所です。「1,000ヘルツおよび4,000ヘルツの音に係る聴力」は、オージオメーターを使用して検査します(ヘッドホンを着けて行う検査)。

 

健康診断では一定の条件下で検査項目を省略できる場合がありますが、雇入れ時健康診断では検査項目の省略ということが認められていません(※健康診断結果証明(受診日から雇入れ日まで3か月を経過していない場合に限ります)を本人が会社へ提出した場合に、それをもって雇入れ時健康診断の受診に代えられるというのはあります。)。定期健康診断では、厚生労働大臣が定める基準に基づいて医師が必要でないと認めたときに省略できる検査項目がありますが(労働安全衛生規則第44条第2項)、聴力検査はその対象にはなっていません。ただ、「第1項第3号に掲げる項目(聴力の検査に限る。)は、45歳未満の者(35歳及び40歳の者を除く。)については、同項の規定にかかわらず、医師が適当と認める聴力(1,000ヘルツ又は4,000ヘルツの音に係る聴力を除く。)の検査をもって代えることができる。」(同第44条第4項)との定めがあります。

 

同規定はやや読みづらいかもしれませんが、検査すべき聴力(先に触れたとおり、「1,000ヘルツ及び4,000ヘルツの音に係る聴力」が、検査項目としての聴力の定義です)を医師が適当と認めるものに代えても良いとし、その適当と認める聴力から「1,000ヘルツ又は4,000ヘルツの音に係る聴力」を除外しているので、結果としてオージオメーターによる検査を行わなくても良いということになります。

 

このように、聴力検査自体を省略できるということではないわけでして、オージオメーターによる検査の代替として一般的に行われるのが、「会話法」と呼ばれるものです。これは医師の問診時に行われるもので、問診での通常会話に支障がなければ「異常なし」と判断されるものです。問診を受ける側としては、聴力の確認も行っていることを言われなければ、聴力検査を受けているとは思わないことが多いのではないでしょうか。というわけで、私の友人が疑問を感じたのも無理もないことだと思います。

 

さて、働き方改革関連法の施行から5年目となる20244月を控える中、「新しい時代の働き方に関する研究会」が本年3月から開催されており、報告書の公表が進められようとしています(報告書(骨子案)が831日に公開され、パブリックコメントを920日まで募集)。

 

<参考>新しい時代の働き方に関する研究会 開催要項

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001074773.pdf

 

<参考>報告書(骨子案)

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001140586.pdf

 

同研究会における議論の過程では、東京大学の水町先生が「労働基準法制の改革の視点」と題する資料を提示されています。

 

<参考>労働基準法制の改革の視点

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/001096731.pdf

 

同資料では、労働安全衛生法についても言及されており、「健康確保のための規制(上限規制、医師の面接指導等)については罰則等を背景に規制を行うことが今後も必要ではないか。この観点からの規制は、管理監督者等の労働時間規制適用除外者、裁量労働制度の適用者、高度プロフェッショナル制度の適用者についても、同様に及ぼすべきものと考えられ、労働安全衛生法の規制の整理・強化を通じて実現することが考えられるのではないか。」とあります。

 

今回のコラムで取り上げた健康診断は、会社の実施義務のみならず労働者の受診義務も課せられています。会社の実施義務は罰則付きではありますが、100%の受診率が果たされていないケースも少なからずあるものと考えられます。労働者の健康確保という観点は、今後更に重視していく必要があるでしょう。

 

執筆者:深田

深田 俊彦

深田 俊彦 特定社会保険労務士

労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員

社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。

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