TOP大野事務所コラム出向契約(在籍型出向)の目的を考える

出向契約(在籍型出向)の目的を考える

代表社員の野田です。

 

コロナ禍において、一時的に事業を休止・縮小せざるを得なかった企業では、人手不足で悩んでいるような企業との間で「在籍型出向(在籍出向)」を活用して従業員の雇用維持を図りました。政府の方でも、助成金制度などで在籍出向を支援する取り組みを行っていたことは記憶に新しいところです。一方、大企業等では以前から在籍出向が行われていますが、どのような場合に在籍型の出向契約が成立するのか、法的に認められるのかについて考えます。

 

私が知る限りでは、出向について直接規定している法令はありませんが、在籍出向の形態が「労働者供給」に該当することから、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」の中に出向に関する記載があり、以下のとおりとなっています。

 

<労働者派遣事業関係業務取扱要領より抜粋>

在籍型出向は労働者派遣に該当するものではないが、その形態は、労働者供給に該当するので、その在籍型出向が「業として行われる」ことにより、職業安定法第 44 条により禁止される労働者供給事業に該当するようなケースが生ずることもあるので、注意が必要である。

ただし、在籍型出向と呼ばれているものは、通常、①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する②経営指導、技術指導の実施、③職業能力開発の一環として行う、④企業グループ内の人事交流の一環として行う等の目的を有しており、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ないと考えられるので、その旨留意すること。

 

当該要領を整理すると、在籍出向は形態としては労働者供給事業に該当しますが、①~④の目的で行われることが通常であり「業として行う」ものではないため、労働者供給(職安法第44条違反)には当たらないということになります。なお、「業として行う」について、同要領では以下としています。

 

○「業として行う」の意義

「業として行う」とは、一定の目的をもって同種の行為を反復継続的に遂行することをいい、1回限りの行為であったとしても反復継続の意思をもって行えば事業性があるが、形式的に繰り返し行われていたとしても、全て受動的、偶発的行為が継続した結果であって反復継続の意思をもって行われていなければ、事業性は認められない。

具体的には、一定の目的と計画に基づいて経営する経済的活動として行われるか否かによって判断され、必ずしも営利を目的とする場合に限らず(例えば、社会事業団体や宗教団体が行う継続的活動も「事業」に該当することがある。)、また、他の事業と兼業して行われるか否かを問わない。

しかしながら、この判断も一般的な社会通念に則して個別のケースごとに行われるものであり、営利を目的とするか否か、事業としての独立性があるか否かが反復継続の意思の判定の上で重要な要素となる。例えば、①労働者の派遣を行う旨宣伝、広告をしている場合、②店を構え、労働者派遣を行う旨看板を掲げている場合等については、原則として、事業性ありと判断されるものであること。

 

<職業安定法第4条7項(定義)>

この法律において「労働者供給」とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第一号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。

 

 

コロナ禍で行われた在籍出向は一時的なものであり、そのほとんどは「①の雇用維持・雇用機会の確保」を目的としたものと思われます。また、60歳定年後に他社へ在籍出向しているケースを耳にしますが、これは雇用維持の目的もあるでしょうし、セカンドキャリア支援ということであれば「③能力開発の一環」ということにもなります。大企業等で行われている在籍出向については事案ごとに目的は異なるでしょうが、広い意味では「④グループ企業内の人事交流」とされます。

 

ホットな話題として、中古車販売会社に損害保険会社の社員が出向している事実が報道されました。両社はビジネス上の利害関係があるわけですが、どのような目的に該当するものとして出向を行っているのでしょうか。実情は不明ですが、人手不足を補うなど得意先に便宜を図る目的で出向を行っていたとすれば、いかがなものかと考えます。

 

出向に関しては、出向命令(人事権)の濫用などでトラブルになることがありますが、労働者供給との兼ね合いで違法性が問題になったり、行政指導を受けたりすることはほとんどありません。基準が明確でないことや監督行政(労働局需給調整室)が出向契約に関し積極的に調査・指導を実施していないことから問題となり難い状況ですが、この際行政には、話題の企業に対し踏み込んだ調査を行って頂きたいものです。そうでなければ在籍出向という雇用形態が都合よく活用されてしまうのではないでしょうか。

 

以上となります。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.05.01 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応
2024.04.30 これまでの情報配信メール
令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
所得税、個人住民税の定額減税について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
現物給与価額(食事)の改正、障害者の法定雇用率引上等について
2024.04.24 大野事務所コラム
懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
2024.04.17 大野事務所コラム
「場」がもたらすもの
2024.04.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられています】【2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは】
2024.04.10 大野事務所コラム
取締役の労働者性
2024.04.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
2024.04.03 大野事務所コラム
兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
2024.03.27 大野事務所コラム
小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
2024.03.21 ニュース
春季大野事務所定例セミナーを開催しました
2024.03.20 大野事務所コラム
退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
2024.03.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
2024.03.21 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
2024.03.26 これまでの情報配信メール
「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
2024.03.13 大野事務所コラム
雇用保険法の改正動向
2024.03.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
2024.03.06 大野事務所コラム
有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
2024.02.28 これまでの情報配信メール
建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
2024.02.28 大野事務所コラム
バトンタッチ
2024.02.21 大野事務所コラム
被扶養者の認定は審査請求の対象!?
2024.02.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
2024.02.14 大野事務所コラム
フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
2024.02.16 これまでの情報配信メール
令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等
2024.02.09 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【固定残業代の計算方法と運用上の留意点】
2024.02.07 大野事務所コラム
ラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛
2024.01.31 大野事務所コラム
歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?
2024.01.24 大野事務所コラム
育児・介護休業法の改正動向
2024.01.19 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈前編〉】
2024.01.17 大野事務所コラム
労働保険の対象となる賃金を考える
2024.01.10 大野事務所コラム
なぜ学ぶのか?
2023.12.21 ニュース
年末年始休業のお知らせ
2023.12.20 大野事務所コラム
審査請求制度の概説③
2023.12.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【テレワークと事業場外みなし労働時間制】
2024.01.17 これまでの情報配信メール
令和6年4月からの労働条件明示事項の改正  改正に応じた募集時等に明示すべき事項の追加について
2023.12.13 これまでの情報配信メール
裁量労働制の省令・告示の改正、人手不足に対する企業の動向調査について
2023.12.13 大野事務所コラム
在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?
2023.12.12 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?】
2023.12.06 大野事務所コラム
そもそも行動とは??―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉚
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop