介護休業給付金を93日分受給したい
こんにちは。大野事務所の高田です。
筆者の複数の顧問先様より過去にお問い合わせ頂いたことがあるのですが、雇用保険の介護休業給付金を93日分受給するにはどうすればよいのか?というトピックになります。このようにお伝えすると、多くの方が「介護休業を93日取得すれば、普通に93日分支給されるのでは?」と思われるかもしれませんが、雇用保険の支給日数の計算の特性上、実は93日分支給されることの方が稀なのです。今回はこの辺りのお話です。
1.介護休業給付金について
雇用保険の介護休業給付金は、文字通り、介護休業を取得した被保険者に支給される給付金です。育児介護休業法において、介護休業は最長93日まで、かつ最大3回まで分割して取得することができます。これを受けて、雇用保険の介護休業給付金も、最大93日分まで、かつ3回に分割して受給することができる制度になっています。なお、支給要件や支給額等の詳細については、本稿では割愛します。
2.なぜ3ヶ月ではなく93日なのか
育児介護休業法上、介護休業を取得できる期間の上限は、同一の対象家族に対して「93日」です。「3ヶ月」とした方が区切りが良いように個人的には思うのですが、あくまでも「93日」となっています。
この点、育児介護休業法の改正通達の最新のもの(令和7.1.20発出)にも一応説明がありまして、『なお、その日数については、平成7年の介護休業制度導入の際に、同一の対象家族について最低基準として保障されていた最長の介護休業期間(「介護休業開始予定日とされた日の翌日から起算して三月を経過する日」まで介護休業をすると、最大で初日+31日×2+30日×1の場合93日)を勘案し、93日としたものであること。』と書かれています。とにかく、3ヶ月の暦日数が最大となるパターンである92日に、何故か1日を加えて、合計93日となったのだそうです。(何とも、分かったような、分からないような説明に感じますが)
3.介護休業給付金の支給申請
介護休業給付金の支給申請において、1回で93日の介護休業を取得した場合には、休業終了後に一括で支給申請することになります。この場合、休業開始日から1ヶ月ごとに区切った期間が支給対象期間となります。介護休業給付金の支給申請書では、支給対象期間について「その1」から「その3」までの3つの記入欄が設けられていますが、93日の介護休業を取得した場合には3つの記入欄には収まりませんので(数日はみ出ます)、支給申請書の2枚目を使って足りない日数分を申請することとなっています。
4.支給日数のカウント方法
以上の支給申請に基づいて給付が行われるわけですが、当給付金が93日分支給されないことが多い原因は、当給付金特有の支給日数のカウント方法にあります。すなわち、支給対象期間の「その1」と「その2」の支給日数については、休業終了日を含まない場合には、暦日数にかかわらず常に30日となります(暦日数が31日や28日であっても30日となります)。一方、支給対象期間の「その3」の支給日数は、実際の暦日数となります。この影響により、介護休業を同じ93日取得した場合であっても、取得した時期(暦の巡り)によって、支給日数が91日~93日の幅で変動してしまうというわけです。
5.具体例
3つのパターンそれぞれを具体例で示します。
① 支給日数合計が93日分となるパターン
介護休業開始日を1月1日として93日取得すると、4月3日(うるう年の場合は4月2日)が終了日となります。この場合に支給される介護休業給付金は、93日分となります。

② 支給日数合計が92日分となるパターン
介護休業開始日を4月1日として93日取得すると、7月2日が終了日となります。この場合に支給される介護休業給付金は、92日分となります。

③ 支給日数合計が91日分となるパターン
介護休業開始日を7月1日として93日取得すると、10月1日が終了日となります。この場合に支給される介護休業給付金は、91日分となります。

6.どうすれば93日分支給されるのか
以上のように、介護休業期間は同じ93日であるにもかかわらず、介護休業給付金の支給日数は、取得した時期によって91日分~93日分と幅が生じてしまうことが分かりました。わずか1日分、2日分とはいえ、不公平といえば不公平です。どうにかして、全員93日分受給することはできないものでしょうか。
この点についてハローワークの担当課の方へ尋ねたところでは、93日分に満たずに支給終了になってしまった場合には、今後同一の対象家族について再度介護休業を取得すれば、93日に達するまで支給が受けられるとのことでした。とはいうものの、法律上および制度上の介護休業は上限である93日を取得しきってしまったわけですので、再度介護休業を取得しようにも、殆どの企業では認められないのではないでしょうか。
以上のような背景から、筆者のとある顧問先様では、介護休業を最長95日まで取得できるように制度を改定されました。介護休業を93日取得した場合の給付金の支給日数が91日分~93日分になるわけですので、休業をあと2日多く取得できるようにすれば、支給日数は必ず93日に到達するという算段です。個人的には、なるほどと腑に落ちたところです。
執筆者:高田
高田 弘人 特定社会保険労務士
パートナー社員
岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。
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