育児時短就業をしても手取りが殆ど減らない!?
こんにちは。大野事務所の高田です。
今年(2025年)4月に、雇用保険の給付金制度の1つとして育児時短就業給付金が新設されました。こちらは、文字通り、育児のために時短就業(短時間勤務)を行う労働者に対する給付であり、なかなか手厚い内容となっています。
今回は、育児時短就業を行った場合に、当給付金が手取り収入にどの程度の影響をもたらすのかを検証してみます。
1.育児時短就業給付金とは
育児時短就業給付金とは、2歳未満の子を養育する雇用保険の被保険者が、1週間当たりの所定労働時間数を短縮して就業する場合に支給される給付金です。支給額は、時短就業後に支給された賃金額の10%(※)です。
(※)育児時短就業後の賃金額が、育児時短就業開始時賃金月額の90%以下の場合
ざっくりといえば、時短就業後の賃金額の10%が給付金として支給されますので、時短後に30万円の賃金を受け取る人には3万円が、20万円の賃金を受け取る人には2万円が、それぞれ支給されるという制度です。
なお、支給申請手続き等の詳細については、行政のパンフレット等をご確認ください。
2.手取り額への影響
「たったの10%か」と思われるかもしれませんが、雇用保険の給付金は、所得税が非課税であり、また社会保険料や雇用保険料の賦課の対象にもなりませんので、給付金が丸々手取り収入になるというのは大きな要素です。また、多くの企業においては、時短就業を行うと時短相応分の賃金がカットされますので、これがすなわち収入減に繋がるわけですが、一方で、賃金支給額が少なくなれば所得税や社会保険料も下がりますので、支給額が減るほどには手取り額(差引支給額)は減らないという結果になります。
※ 育児時短就業を行う場合の賃金の減額方法については、過去のコラムで採り上げています。
育児短時間勤務時の給与の減額方法について
定額残業代と短時間勤務、管理監督者と短時間勤務
それでは、ここからは、実際に育児時短就業によって2時間の時短を行う場合と1時間の時短を行う場合とで、手取り収入額がそれぞれどのように変化するのかを試算してみます。
なお、所得税、社会保険料、雇用保険料は、2025年8月1日現在の制度に基づいて計算し、税法上の扶養人数は0人、健康保険は協会けんぽ東京支部に加入、介護保険は対象外とします。また、住民税は、前年の所得額に基づいて月額1万円が特別徴収されているものとします。
3.手取り額の試算
① 育児時短就業を開始する前の賃金額
まずは育児時短就業を開始する前の賃金額ですが、便宜上、残業手当や通勤手当等の諸手当はないものとして、シンプルに月額30万円であったとします。
この場合の差引支給額は【図1】のとおりとなります。
試算の結果、手取り額は239,265円となりました。
② 2時間の時短を行う場合の賃金額と給付金額
次に、2時間の時短就業を行う場合の賃金額を試算します。今回の試算では、時短就業前の所定労働時間である8時間を6時間に短縮することにより、基本給の8分の2の額が控除されるものとします。
この場合の差引支給額と給付金額は【図2】のとおりとなります。
※ 健康保険料と厚生年金保険料は、随時改定後(時短就業を開始した月から起算して4ヶ月後に随時改定に該当)を想定しています。
試算の結果、賃金手取り額は178,231円、給付金額は22,500円となりますので、両方を合わせた手取り収入額は200,731円となりました。時短就業する前と比較して、38,534円の収入減となっています。随分減るなというイメージを持たれるかもしれませんが、賃金支給額が75,000円も減った割には、手取り収入額への影響は半分程度に抑えられたともいえます。
③ 1時間の時短を行う場合の賃金額と給付金額
最後に、1時間の時短就業を行う場合の賃金額を試算します。今回の試算では、時短就業前の所定労働時間である8時間を7時間に短縮することにより、基本給の8分の1の額が控除されるものとします。
この場合の差引支給額と給付金額は【図3】のとおりとなります。
※ 健康保険料と厚生年金保険料は、随時改定後(時短就業を開始した月から起算して4ヶ月後に随時改定に該当)を想定しています。
試算の結果、賃金手取り額は208,743円、給付金額は26,250円となりますので、両方を合わせた手取り収入額は234,993円となりました。時短就業する前と比較して4,272円の収入減となりますが、賃金支給額が37,500円も減った割には、手取り収入額は殆ど減っていないといえるのではないでしょうか。
4.まとめ
今回の試算はあくまでも一例であって、すべてのケースにおいて同様の結論が当てはまるとは限りませんが、育児時短就業による賃金の減額が育児時短就業給付金によって大きく補われるのは間違いありません。特に1時間の時短就業のケースでは、時短前と比べて手取り収入額に殆ど差が生じないという試算結果になりました。
手取り収入額への影響のみでどうこう論じるものではありませんが、実際に2歳までの子を養育する労働者にとって、当給付金は時短就業の後押しとなる心強い味方であるのは確かです。
執筆者:高田

高田 弘人 特定社会保険労務士
パートナー社員
岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。
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