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定額残業代と短時間勤務、管理監督者と短時間勤務

こんにちは。大野事務所の高田です。

 

今回は、定額残業代の支給対象者が育児・介護等による短時間勤務を申し出た場合に、定額残業代も同様に減額すべきなのかどうかについて考察します。関連して、管理監督者が短時間勤務を申し出た場合の給与減額の考え方についても触れてみたいと思います。

 

1.定額残業代の減額方法について

 

以前(2020.7.9)のコラムでは、育児・介護等による短時間勤務措置を講じる場合の給与の減額方法としては主に3つの方法があること、その中では、支給額自体は改定せずに、時短相応分を固定控除する方法がお勧めである旨を述べました。たとえば、8時間の所定労働時間を6時間に短縮する場合に、8分の2相当額を減額するのは感覚的にも特段難しい話ではないのですが、定額残業代を支給している場合には、この定額残業代の扱いが意外に厄介だと感じます。

 

とはいえ、選択肢は大きく次の2つしかありません。
① 定額残業代の支給を停止する
② 定額残業代も時間短縮比率に応じて減額する

 

2.いずれの方法が合理的か

 

定額残業代の本来の支給趣旨に照らせば、①の方が合理性の点では分があるように思われます。定額残業代とは、残業が恒常的に一定時間数見込まれる場合において、その見込まれる部分を予め支給するものといえますので、短時間勤務者は基本的に残業が見込まれないとなれば、これを支給する必然性は乏しいということです。

 

理屈の上では以上の通りなのですが、なかなか理屈通りにいかないのが実務の世界です。特に、支給されていた定額残業代の金額が大きければ(つまり、含まれる残業時間が多ければ)その分実質的な減額幅が大きくなりますので、当事者の立場で考えると、理屈の上では理解できたとしても、心情的には納得できないということは大いにあり得るのではないでしょうか。また、定額残業代の成立事情(過去に基本給から切り出した場合など)や申出者の時短前の勤務実態(元々殆ど残業がなかった場合など)等によっても定額残業代を全額控除することの合理性や納得感は変わってきますので、会社によっては②の方法を採った方が妥当、無難、安全といった場合もあると思います。もう1つ、①だとシビアすぎるけれども②だと払いすぎなので、①と②の折衷案として、②よりも少額の定額残業代を支給するという方法もあるかと思いますが、こうなってくると、定額残業代はもはや調整給的な位置付けでしかなく、単に金額的な折り合いを付けるためのものと化しているかのように感じられてしまいます。

 

ということで前半をまとめますと、本来の支給趣旨に照らせば①の方法が合理的。実態によっては、加えて本人の納得感を引き出すためには②の方法もあり、との結論になりますでしょうか。なお、②の方法により定額残業代を減額する場合には、そこに含まれる残業時間数も減ることになりますので、この点には注意が必要です。(定額残業代の内訳について、あらためて明示が必要でしょう。)


 

3.管理監督者の短時間勤務について

 

さて、後半は、管理監督者が短時間勤務を申し出た場合の給与減額に話を移したいと思います。

 

管理監督者には労働基準法上の労働時間の規定が適用されない(第41条)ことから、「そもそも管理監督者は短時間勤務を申し出る余地がないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。この点、育児介護休業法の改正通達(令和元.12.27雇均発1227第2号)においても、管理監督者は「所定労働時間の短縮措置の義務の対象外である」と一旦整理された上で、「同措置に準じた制度を導入することは可能であり、こうした者の仕事と子育ての両立を図る観点からはむしろ望ましい」との見解が示されているところです。このような行政の見解を受け、殆どの企業が管理監督者にも短時間勤務の申出を認めているのが実状ですが、この場合に管理監督者の給与をどのように減額するのか、あるいは減額しないのかを考察したいと思います。

 

顧問先様からは、「管理監督者は、時短分の給与の減額はできませんよね?」というご質問をよく受けます。確かに、管理監督者に対して、遅刻・早退等による労働時間の不足を理由とする欠務控除を行うことは馴染みませんが、問題となるのは不足時間に応じて減額控除することであって、業務上の役割や成果等の低下に応じて減額することまでもが禁止されているわけではありません。

 

4.対応方法について

 

ということで、採りうる選択肢としては概ね次の2つに集約されます。
① 減額しない
② 業務上の役割や成果等の低下に応じて減額する

 

①は、管理監督者は時間に縛られて業務遂行しているわけではないので、短時間勤務は給与を減額する理由にならないとの考え方に基づいているものと思われます。理想論としては納得できる部分もありますし、現に短時間勤務でも他のフルタイム勤務者を凌ぐパフォーマンスを発揮できる方がいらっしゃることは私も認めるところですが、それでもやはり、一個人の役割や成果等がフルタイム勤務時と短時間勤務時とで常に変わらないというのは、いささか現実離れしているのではないでしょうか。もし本当に変わらない方がいるとすれば、育児・介護等を終えてフルタイム勤務ができる状況になったとしても、フルタイムに戻す理由がないということになります。

 

以上を踏まえると、やはり②が妥当な措置なのではないかと考えます。問題は、どの程度減額すべきかという点ですが、減額は、短時間勤務によって役割や成果等が一定程度低下することを見込んでのものですので、その低下の度合いと給与の減額とのバランスが重要だということになります。これは、口で言うのは簡単ですが、実際にはなかなか難しい話です。制度利用者が出るたびに個別に減額率を設定するわけにもいきませんので、今後、同制度の別の利用者に適用する際にも納得が得られるものでなければなりません。そのように考えていくと、結局のところ、所定労働時間の短縮割合に応じて減額するという措置が、労使双方から最も異議の出ない方法なのではないかという気がします。勿論、必ずしも労働時間の短縮率と給与の減額率を一致させる必要はありませんので、労働時間の8分の2の短縮に対して給与の減額は8分の1とするといった形でも結構です。ただし、時短の率よりも給与減額率の方を高くするのは、さすがに従業員の理解が得られにくいという点で、制度化は難しいのではないかと考えます。

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

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