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残業を削減したら報奨金を支給?

こんにちは。大野事務所の高田です。

 

昨今は、「働き方改革」という言葉がすっかり定着した感があります。
ここ1年余りのコロナ渦中においては、テレワークやDX(デジタルトランスフォーメーション)に特に注目が集まっていますが、依然として多くの企業にとっては長時間労働対策が喫緊の課題であり、どうすれば従業員の残業時間を削減できるのかといったテーマに日々頭を悩ませている企業は多いのではないでしょうか。

 

1.残業時間の削減に対して報奨金を支給

 

少し前に、とある顧問先の会社様より、残業時間が削減された場合に、その見返りとして報奨金を支給したいとのご相談がありました。その会社様では、いくら上司が残業の削減を働きかけてもなかなか効果が得られず、一部には残業代を得るためのいわゆる生活残業も定着しているとのことで、どうせ多額の残業代を支給するくらいであれば、同程度の報奨金を支給することになったとしても、残業が減る方が好ましいということでの発案でした。会社様が特に気にしていたのは、そもそも、このような報奨金を支給すること自体が制度として合理的なのか(矛盾はないのか)という点と、他社さんで同様、類似の導入事例があるのかという点の2点でした。

 

1点目の、制度として合理的かどうかについては、正直なところ、賛否両論あるのではないかと思います。少なくとも、残業それ自体が悪いわけではなく、必要のない残業やダラダラと効率の低い残業に問題があるわけですので、やみくもに残業時間の削減実績のみを指標として報奨金を支給するというのは、会社内に様々な歪みを生じさせそうです。したがって、制度設計上考慮しなければならないポイントは幾つかあるものの、現にその会社様が残業の削減に価値を見出しているのであれば、その成果に対して報奨金を支給してはならない理由も特にはないのではないでしょうか。

 

2点目の他社事例については、実は、以前にも別の2、3の顧問先の会社様から同様のアイデアをお聞きしたことはあったのですが、実際に導入にまで至った例は私の身近にはありません。ですが、インターネットで調べると、同様の報奨金、手当を支給している事例が実企業名入りで数多く紹介されています。割合としてはごく僅かかもしれませんが、実際に導入している会社様があるのは確かなようです。

 

2.報奨金を割増賃金の算定基礎に含める必要があるか

 

さて、それでは、実際に導入してみようということになった場合に、もう1つ気になるのは、この報奨金は残業代等の割増賃金の算定基礎に含める必要があるのかどうかという点です。

 

割増賃金の算定基礎から除外する賃金については、労働基準法第37条第5項および同法施行規則第21条に定めがあります。具体的には、①家族手当、②通勤手当、③別居手当、④子女教育手当、⑤住宅手当、⑥臨時に支払われた賃金、⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金の計7つであり、これらは例示ではなく限定列挙だという点、多くの方がご理解されていることと思います。余談ですが、私が社労士試験の勉強を始めた当時は住宅手当がまだ含まれておらず、これらの頭を取って「勝つべしリーチ」といった語呂合わせで憶えたものでした。

 

話を元に戻しますが、残業削減報奨金は上記7つのいずれにも該当しませんので、一見、算定基礎に含めなければならないとの結論になりそうな気がします。これが、いわゆる一般的な報奨金(高業績者に支給されるもの)であれば、算定期間が1か月を超えるか、臨時のものかでない限り、算入を免れないのは間違いないところです。私自身も、最初はそのように考えました。ただし、よくよく考えてみると、当該報奨金は、残業代の減少による実質的な手取り額の減少を補填する目的も備えており、それ自体が残業代の一部と考えられなくもないのではないかという点に思い至りました。つまり、【例1】のような残業代の計算方法のイメージです。

このように、残業代を法定の割増率である1.25より上回る形で、定額で加算してはならない理由はありませんので、この場合の定額加算部分は、それ自体が残業代の一部だと捉える余地があるのではないかということです。

 

もし、上記でもまだ除外することに違和感があるという方は、【例2】のような割増賃金率を設定する例をイメージして頂きたいと思います。

 

【例1】と【例2】とを比較してみると、いずれも残業時間が少なければ少ないほど有利になるようにとの狙いである点で大差はなく、これを単なる手法の違いであると捉えるのは少々乱暴でしょうか?

 

結局のところは、賃金規程において、当該報奨金の支給趣旨、要領をどのように定めるか次第であるといえます。ご相談を頂いた会社様には、残業削減報奨金として別建てにするよりも、残業代の定額加算部分として定めるのがよいのではとお伝えしたところです。なお、【例1】【例2】のいずれの方法を採ったとしても、残業時間が0時間の場合に支給する手当は残業代の一部として位置付けることができませんので、一旦、算定基礎に含めなければなりません。ですが、皆様もお気付きのとおり、そもそも残業時間が0時間の場合には残業代の支給そのものがありませんので、算定基礎に含めることによる実質的な影響は生じないということになります。

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

幕張第2事業部 事業部長/パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

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