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労働基準関係法制研究会の報告書が公表されました

こんにちは、大野事務所の土岐です。

 

今回は、先月(202518日)公表されました「労働基準関係法制研究会報告書」について採り上げます。

 

労働基準関係法制研究会とは

 

厚労省のホームページにて「今後の労働基準関係法制について包括的かつ中長期的な検討を行うとともに、『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律』(平成30年法律第71号)附則第12 条に基づく労働基準法等の見直しについて、具体的な検討を行うことを目的として開催された研究会」と紹介されており、メンバーは学識経験者で構成されています。

 

労働基準関係法制研究会報告書について

 

2024年123日~1224日の計16回にわたり開催された研究会において検討がなされた内容を、「労働基準関係法制研究会報告書(以下、報告書)」としてまとめ、公表したものです。

 

報告書では、次の2つの視点が重要であるとしています。

「守る」の視点

全ての働く人が心身の健康を維持しながら幸せに働き続けることのできる社会を目指すということ

「支える」の視点

働く人の求める働き方の多様な希望に応えることのできる制度を整備すること(様々な働き方に対応した規制))

 

こうした視点から、次の点を議論の柱として検討・考察しています。

 

Ⅰ 労働基準関係法制に共通する総論的課題

1 労働基準法における「労働者」について

2 労働基準法における「事業」について

3 労使コミュニケーションの在り方について

 

Ⅱ 労働時間法制の具体的課題

1 最長労働時間規制

2 労働からの解放に関する規制

3 割増賃金規制

 

以下、特に筆者が気になった点について、概要を紹介します。

 

Ⅰ-2 労働基準法における「事業」について

<概要>

■労働基準法の事業の概念は、行政解釈上、次の通りとされている。

・工場、鉱山、事務所、店舗等の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって、必ずしもいわゆる経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものではないこと

・したがって一の事業であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として分割することなく一個の事業とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業とすること

・また、場所的に分散しているものであっても、出張所、支所等で、規模が著しく小さく、組織的関連ないし事務能力等を勘案して一の事業という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業として取り扱うこと

 

■本研究会における議論の結果、労働基準法において、事業場を単位として法を適用することについて、現時点では、引き続き、事業場単位を原則として維持しつつ、企業単位や複数事業場単位で同一の労働条件が定められるような場合であって、企業単位や複数事業場単位で適切な労使コミュニケーションが行われるときは、労使の合意により、手続を企業単位や複数事業場単位で行うことも選択肢になることを明らかにすることが考えられる。

 

一の事業と考えるか否かについてご相談いただくことがあります。

人数によって明確な線引きがあるものではなく、その実態に基づいて、上記の解釈を基に個別に検討することになるわけですが、判断が悩ましい場合には労働基準監督署に確認することがあり、担当官によって見解がわかれることもしばしばあります。このような場合、特に一の事業と考えない場合に関しては、その理由について検討の過程を含め、しっかりと説明できるように考え方を整理しておくことが肝要です。報告書では「引き続き事業場単位を原則として維持しつつ…労使の合意により、手続を企業単位や複数事業場単位で行うことも選択肢になることを明らかにすることが考えられる」とあるものの、実務上はこれまでと同様に対応していくことになりそうです。

 

また、これまでは一定の場所に労働者が出向いて仕事をする前提であったところ、現在はテレワーク等の様々な働き方が拡がっている中、報告書で述べられている「テレワークが浸透するなど場所にとらわれない働き方が広がり、また更なる技術の発展・高度化に伴い、例えば仮想空間においてのみ事業活動が行われる場合等においては、労働者が労務を提供する場と、事業場が所在する場との間に乖離が生じる場合や、そもそも事業場が所在する場をどこに観念するかなど、物理的な空間・場所を基礎とする既存の『事業』の概念によって規制の対象を捉えることが困難である又は合理的ではない場合が生じ、法適用に影響することも考えられる。さらには、仮想空間上で国境をも越えて事業活動が行われている場合における労働者への法適用の問題等にもつながってくる。」との点に関しては、是非整理して頂きたいところです。

 

Ⅰ-3 労使コミュニケーションの在り方について

<概要>

■現行法においては、過半数代表者は原則として手続ごとにその都度選出されるのが基本であるが、任期を定めて選出することは否定されていない。任期を定めて過半数代表者を選出する選択肢もあることを明らかにしていくことが考えられる。

 

■ただし、あまりにも長期の任期を設定することは問題であることや、任期を定めて選出する場合に当該過半数代表者が権限を持つ手続の範囲の定め方、任期を定めて選出された過半数代表者が異動・退職等した場合の取扱いなど、実施に当たって注意すべき点についても整理し、周知することが必要である。

 

■労働基準法において、「過半数代表」、「過半数労働組合」、「過半数代表者」の法律上の位置付け、役割、過半数代表者に対する使用者からの関与や支援等を明確に定める規定を設ける法改正を行うことが必要と考える。

 

労働者の過半数代表者について、任期制を採用している会社様は多いと思います。数年の任期としてよいかといったご質問を頂くことがありますが、1年程度が妥当と筆者は考えます。例えば36協定は1年ごとに締結する必要がありますが、このタイミングで適正に労働者の過半数代表者を選出することで、労使協定の締結当事者としての有効性が担保されることになりますところ、任期が数年となりますと、労使協定の締結時に、果たして過半数代表者の要件を満たしているのかといった疑義が生じるおそれがあります。労使協定の有効に疑義が生じないよう、報告書で述べられているように任期制を採用する場合の注意点等について整理し周知することは重要と考えます。

 

Ⅱ-1 最長労働時間規制-(3)テレワーク等の柔軟な働き方

<概要>

■仕事と家庭生活が混在し得るテレワークについて、実労働時間を問題としないみなし労働時間がより望ましいと考える労働者が選択できる制度として、実効的な健康確保措置を設けた上で、在宅勤務に限定した新たなみなし労働時間制を設けることが考えられる。この場合、その導入については集団的合意に加えて個別の本人同意を要件とすること、そして、制度の適用後も本人同意の撤回も認めることを要件とすること等が考えられる。

 

■これに対し、みなし労働時間制が適用されると、単月100 時間未満、複数月平均80時間以内といった時間外・休日労働時間の上限規制も事実上外れることになり、長時間労働の懸念等が強まってしまう。新たなみなし労働時間制を適用したとしても、労働時間の上限や労働からの解放時間を決めるといった一定の規制を導入すること、その場合の労働時間の把握や管理の在り方を具体的に検討することも必要ではないか。といった懸念や意見も示されている。

 

テレワークの継続・廃止については判断が分かれてきているところ、筆者の関与先様におかれましても、管理の難しさやコミュニケーションの問題などの様々な要素を総合的に考慮した結果、テレワークを原則として廃止とされた例があります。最終的には会社様の考え方・判断となりますところ、テレワークを継続する場合に、報告書で示されている新たなみなし労働時間制等が設けられれば、テレワーク時の労務管理の選択肢が増えることになります。

 

Ⅱ-2 労働からの解放に関する規制-(2)休日 

<概要>

36 協定に休日労働の条項を設けることにより、割増賃金を支払うことで法定休日に労働させることが労働基準法上可能となるが、現行法ではこの回数に制限はなく、労使協定を締結することが前提とはなるが、割増賃金を支払えば、協定の範囲内で理論上無制限に連続勤務させることが可能である。労使協定を経るとはいえ、このような連続勤務は健康上望ましくなく、時間外労働の上限と同様、休日労働にも一定の制限をかけるべきではないかと考えられる。

 

36 協定に休日労働の条項を設けた場合も含め、精神障害の労災認定基準も踏まえると、2週間以上の連続勤務を防ぐという観点から、「13 日を超える連続勤務をさせてはならない」旨の規定を労働基準法上に設けるべきであると考えられる。

 

労基法上の連続勤務可能日数についてもご質問を受けることがよくあります。

回答は上記<概要>の一点目の通り、割増賃金を支払えば理論上は協定の範囲内で連続勤務が可能ということになります。ただ、健康管理の観点からは連続勤務を避けるべきことはいうまでもありませんので、精神障害の労災認定基準を踏まえての13日を超える連続勤務の禁止の明確化の改正は、実現の可能性が高いものと筆者は考えます。

 

Ⅱ-3 割増賃金規制-(2)副業・兼業の場合の割増賃金

<概要>

■割増賃金の計算のために本業先と副業・兼業先の労働時間を1日単位で細かく管理しなければならないこと(その過程で、労働者自身も細かく自己申告する等の負担が生じること)など、複雑な制度運用が日々求められるものとなっている。

 

■欧州諸国の半数以上の国で実労働時間の通算は行う仕組みとなっているものの、それらの国でも、フランス、ドイツ、オランダ、イギリス等では、副業・兼業を行う場合の割増賃金の支払いについては労働時間の通算を行う仕組みとはなっていない。

 

■副業・兼業が使用者の命令ではなく労働者の自発的な選択・判断により行われるものであることからすると、使用者が労働者に時間外労働をさせることに伴う労働者への補償や、時間外労働の抑制といった割増賃金の趣旨は、副業・兼業の場合に、労働時間を通算した上で本業先と副業・兼業先の使用者にそれぞれ及ぶというものではないという整理が可能であると考えられる。

 

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に示される労働時間の通算については、その煩雑さから実務的には非常に難しいものといえます。また、こちらのガイドラインでは簡便な労働時間管理の方法として「管理モデル」による管理方法が示されていますが、副業先の労働時間を時間外労働として取り扱うことが前提となっていることから、特殊な技能等があるなど相当の理由がない限り、副業先において時間外労働のコストを支払ってまで採用するのは難しいものと思われます。副業・兼業を推し進めるならば、労働時間の通算の考え方を修正することは必須と筆者は考えます。

 

おわりに

 

筆者が気になった点は以上です。

報告書は50ページほどの内容になりますが、ご興味のある方は以下URLより全文をご確認いただけたらと思います。

この報告書を踏まえて厚生労働省の労働政策審議会の分科会では法改正の検討が始まっていますので、今後の動向に引き続き注目したいと思います。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

<参考URL

■厚生労働省 「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表します

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_48220.html

 

執筆者:土岐

 

土岐 紀文

土岐 紀文 特定社会保険労務士

第3事業部 部長

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。

現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

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