社会保険の「賞与に係る報酬」を考える
代表社員の野田です。今回は実務上非常にやっかいな社会保険の「賞与に係る報酬」について取り上げます。
●社会保険の報酬区分(通常の報酬、賞与に係る報酬、賞与)
標準報酬月額のもとになる「通常の報酬(月次報酬)」とは、事業主から労働の対償として毎月支給される基本給、諸手当、割増賃金、通勤交通費などとなります。また、年3回以内の支給とされているものは「賞与」とし「賞与支払届」の対象となります。更に、毎月支給される訳ではありませんが年4回以上支給されることが明確であるものを「賞与に係る報酬」とし、3つに区分されます。
- ●「賞与に係る報酬」とは
給与規程等により、年間を通じ4回以上支給されていることが客観的に定められているときには「賞与」ではなく「賞与に係る報酬」として扱う必要がありますが、年4回以上の支給という点で誤解されていることが多いようです。これについて行政通達では、「年間3回以下の支給か年間4回以上の支給かを見るうえで、同一の性質を有すると認められるものごとに判断する」としています。つまり、同一性質のもので年4回以上となることが明らかな場合に「賞与に係る報酬」となり、異なる性質の賞与・一時金等が支給され年4回の支給となった場合は「賞与」となります。
例えば、毎年の夏季・冬季賞与(年2回)のほかに決算賞与(3回目)が支給されたとします。ここまでは同一性質のものとして年3回のカウントとなりますが、これに加え、臨時的にインフレ手当を一時金(4回目)で支給したり、社長賞(5回目)が支給されたりする場合です。この場合、インフレ手当と社長賞はそれぞれ異なる性質のものとしてカウントしますので、結果として5回の「賞与支払届」の提出となります。
これに対し「算定期間を3か月として年4回支給されるインセンティブ」や「算定期間を2か月として年6回支給される歩合給」については、それぞれ「賞与に係る報酬」となります。なお、「賞与に係る報酬」は、算定期間が1か月を超えるものとされていることから、算定期間が1か月・各月となる月次インセンティブは「通常の報酬(月次報酬)」に該当します。
参考通達:「 健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」 の一部改正について
- ●実務上の留意点
制度上は年4回以上支給されるものであっても「支給される場合がある」「1回につき上位3割の者に支給する」など、支給されないことがある場合や支給対象者が一部に限られる場合には、前年度の支給実績をもとに「賞与に係る報酬」か「賞与」かを、判断するものとなります。
同一性質の賞与等の支給が7月1日前の1年間(前年7月1日~6月30日)を通じて4回以上行われているときには「賞与に係る報酬」として取り扱いますので、7月1日を基準として、前1年間に4回以上の支給実績がある場合には、賞与の合計額を「12」で割って1か月分を算出し、この額を各月の報酬に算入します。
賞与合計額:840,000円=(9月:100,000円)+(12月:350,000円)+(3月:150,000円)+(6月:240,000円)
各月に算入する額:70,000円(840,000円÷12)
上記方法により各月に算入する額を算出しますが、実務上やっかいなのはここからです。
「賞与に係る報酬」の年度が7月1日前の1年間(前年7月1日~6月30日)とされているところ、対象となる報酬導入時の初年度については、支給回数にかかわらず「賞与」として扱い、賞与支払届を提出するものとされています。そのうえで年4回以上の支給が確認された場合は「賞与に係る報酬」として翌年度の標準報酬月額に加算するものとなります。前述のとおり、制度上は年4回支給とされるものであっても実際の支給回数が年3回以下である場合、翌年度も引き続き「賞与」扱いになります。
この状況は、被保険者ごと同一性質を有するものごとに確認する必要があることから、支給対象者ごと、支給項目ごとに「賞与」に該当したり「賞与に係る報酬」に該当したりと様々で、一元的な取扱いが出来ない点で実務家泣かせといえます。
参考通達:「「健康保険法及び厚生年金保険法における賞与に係る報酬の取扱いについて」 の一部改正について」にかかる留意点について
- ●「賞与」とは
夏季・冬季賞与、決算賞与などを支給した際、「賞与支払届」を提出することは広く認識されているところですが、以下のような場合、どのようにされておりますでしょうか。
- ①社内規程に則り、家族の健康診断補助金(上限3万円/年)を年1回支給する
- ②前年4月~3月までの1年間に対象となる資格を取得した者に対し、規定に従い資格取得補助金(資格ごとに1万円~5万円)を支給する
- ③毎年、忘年会開催時に社長賞10万円を3名の者に現金で手渡す
福利厚生的に支給する補助金や社長賞・部門賞などの表彰金について、月次給与と合わせて支給したり、現金支給したりすることがありますが、社会保険上は労働の対償として「報酬」に該当します。①~③は性質が異なるため、いずれも賞与に該当し「賞与支払届」を提出するものとなります。なお、同一被保険者が①~③全ての支給対象となった場合も同様です。
繰り返しますが、賞与の支給回数をカウントする際は、「夏季・冬季賞与、決算賞与で年3回までの支給」、「寒冷地・燃料手当を2カ月おきに年3回に分けて支給」など、同一性質を有するものごとに区分してカウントします。
- ●おわりに
年4回以上の支給を前提とした手当やインセンティブを設けた場合、実務上煩わしい作業が発生しますし、当該仕組みを対象となる被保険者に説明し理解して頂くことも困難です。実際、私がアドバイザリーとして担当している企業様では、5年以上前の「賞与に係る報酬」の処理について、支給対象者から「インセンティブの支給があったにもかかわらず、賞与として年金記録に反映されていない」というクレームが入りました。私の方で当時の賃金台帳を確認したところ、月次給与支給額と標準報酬月額に差が生じていたことから「賞与に係る報酬」分が各月に算入されていることを説明し、ご理解頂けましたが、このような複雑な仕組みについて個別に説明しているわけもなく、当時の企業担当者様は問題が解決するまで落ち着かないご様子でした。このケースのように、正しい処理をしているにもかかわらずクレームを受けてしまうこともありますので、該当者に対し「賞与に係る報酬」について周知・説明しておくことが肝要と考えます。
執筆者:野田
野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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