ワーク・エンゲージメントを高める―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑭
こんにちは。大野事務所の今泉です。秋ですね。
前回予告させていただいたように、今回はワーク・エンゲージメントについて取り上げたいと思います。人と仕事との関係性とでもいうべき話題といえます。
まずワーク・エンゲージメントとは、次の3要素を満たした状態とされます。
(1)仕事から活力を得ていきいきとしている(活力)
(2)仕事に誇りややりがいを感じている(熱意)
(3)仕事に熱心に取り組んでいる(没頭)
このような図表(フレームワーク)を見たこともある方も多いことでしょう。
これは「活動水準」「仕事への態度・認知」といった軸を用いて、「バーンアウト(燃え尽き)」「ワーカホリズム」「リラックス(職務満足感)」といったワーク・エンゲージメントに関連する概念を整理したものです。それぞれ見ていきましょう。
【バーンアウト(燃え尽き)】
「仕事に対して過度のエネルギーを費やした結果、疲弊的に抑うつ状態に至り、仕事への興味・関心や自信を低下させた状態」とされており、
「仕事への態度・認知」についてネガティブな状態で、「活動水準」が低い状態。
【ワーカホリズム】
「過度に一生懸命に強迫的に働く傾向」とされており、「活動水準」が高い点がワーク・エンゲージメントと共通しているが、
「仕事への態度・認知」がネガティブな状態。
【リラックス(職務満足感)】
「自分の仕事を評価してみた結果として生じる、ポジティブな情動状態」とされており、ワーク・エンゲージメントが仕事を「している時」の
感情や認知を指す一方で、リラックス(職務満足感)は仕事「そのものに対する」感情や認知を指す。どちらも「仕事への態度・認知」について
ポジティブな状態であるが、リラックス(職務満足感)は仕事に没頭している訳ではないため、「活動水準」が低い状態。
ワーク・エンゲージメントは、「仕事への態度・認知」についてポジティブな状態であり、「活動水準」が高い状態で、バーンアウト(燃え尽き)の対極に位置づけられていることになります。
では、具体的にワーク・エンゲージメントが高い状態を維持することでどういう効果があるかといえば、上記3つの要素からも推し量ることができるように労働者本人が前向きにかついきいきといわば楽しく仕事に取り組める、ということはもちろんあるでしょう。加えて、それにより生産性の向上や顧客満足度の上昇、離職率の抑制といった効果がいわれているのは十分納得のいくところです。
ところで、統計的な資料によると、加齢または職位・職責の高まりに伴って、ワーク・エンゲージメントが高まる傾向がみられるそうです(年収の高まりとの関連も相関性が見られるようです。)。また、「教育関連専門職」「管理職(リーダー職を含む)」「接客・サービス職」などの比較的、非定型的業務の割合が高いといえる職種ではこれが高い傾向にあるということです。
さて、ワーク・エンゲージメントを高める方法としては、様々な研究がなされており、『CREWプログラム』という一定のテーマに沿った対話(CREWセッション)を積み重ね、お互いのことを知る、尊重するという手法や、社員一人ひとりが仕事に対する認知や行動を自ら修正していくことで、「やらされ感」のある仕事を「やりがいのある仕事」へと変えていく『ジョブ・クラフティング』等がありますが、まず第一歩としては、その人がかかわっている仕事の重要性、平たくいえば自分の仕事がどんな風に役に立っているのか実感することが大事なのではないか、と思います。
例えば、「もの」を製造する仕事の場合、その製品の最初から最後までたった一人で完結する、ということは稀有でしょう。もしかしたらひとつの「部品」の製造に従事しているのかもしれません。そんなとき、その部品がその製品のどんな機能に必要なのか、ひいてはその製品はどんな風に人の役に立っているのか、そういったことに思いを巡らすことはあまりないのではないでしょうか。けれども、仕事がある、ということは何かしら有益なことがあるから成立しているはずです。そのことを忘れてしまい、目の前にある作業だけに囚われてしまうと、熱意も冷め、没頭できなくなり、活力も失われるような気がします。
ですので、自分の仕事の(必ず存在する)意義を見直す機会を与える、ということから始めてみるのが良いのではないかと考えます。例えば製品に対しては、実際にそれが活用されている現場を見に行くのでも良いでしょうし、管理部門の仕事であれば、自分の仕事の意義について振り返る場を設ける等といったことです。そのような特別なことでなくとも、経営陣や上司が繰り返し話し、伝え続けるだけでも違うかもしれません。
次に、「職位、職責の高まり」「非定型的業務」というワードを前掲していますが、仕事に対する裁量性やクリエイティビティないしは自己効力感(第7回で説明させていただきました。)が存在しているとワーク・エンゲージメントが高まるように思えます。そうだとすると、仕事を与える側としては、そのようなことを念頭に置き、例えば新しい仕事を「任せる」とか、プロジェクトメンバーに「選ぶ」といったことを行い、その上で社員自らがやりがいのある働き方を工夫する(上述のジョブ・クラフティング)ことができれば。より一層効果的なのではないでしょうか。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

今泉 叔徳 特定社会保険労務士
渋谷第1事業部 事業部長/ 執行役員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
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