TOP大野事務所コラム歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?

歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?

こんにちは。大野事務所の高田です。

 

弊所の顧問先様の中にも、いわゆる歩合給(出来高払給、請負給ともいいます)を採用している企業様があります。歩合給とは、仕事の出来高や業績に応じて支払われる賃金のことで、営業職やドライバー職など、個人業績の指標を数値化しやすい職種において主に採用されています。

 

1.歩合給は割増賃金の対象

 

この歩合給が時間外手当等の割増賃金の対象となることについては、以前、別のコラムニストが採り上げていますので、そちらも併せてご覧ください。
「出来高払制(歩合給制、請負給制)給与における割増賃金を考える」

 

まず、歩合給の割増賃金の具体的な計算方法について確認しておきます。

【例1】支給月の歩合給額:100,000円、総労働時間:200時間、時間外労働:40時間の場合

    歩合給に対する割増賃金額 = 100,000円÷200時間×0.25(割増率)×40時間 = 5,000円

 

以上のように、100,000円の歩合給を獲得するために200時間の労働を費やしたと捉え、100,000円を200時間で割って1時間当たりの獲得歩合給を算出し(500円)、その額に割増率(0.25)を乗じた額(125円)に対して、時間外労働に相当する40時間を乗じているわけです。

 

筆者個人の意見としては、出来高や業績という結果に対する褒賞に対して、労働時間の要素(プロセス)を介入させる意図がよく分からないのですが、そのような議論を今ここで展開したところで、この考え方は既に確立されているわけですので、企業様としては従うしかありません。

 

2.実際に計算するのは面倒

 

計算方法は上記【例1】の通りですが、実際に計算してみると、意外に面倒だということに気付かれると思います。
まず、労働者各人のその月の総労働時間を把握しなければなりません。労働時間数というのは、賃金台帳の記載事項にも挙げられているくらいですので、本来把握されていて然るべきものではあるですが、総労働時間となると意外とざっくりとしか集計されていない会社様をよく目にします。

 

仮に総労働時間の把握は可能であるとしても、やはり、労働者ごとに異なる時間数で割るという作業自体が面倒だという感覚もあるかと思います。今どきの給与計算システムであれば、歩合給をその月の総労働時間数で割るといった計算式の設定くらいは何でもないと思いますが、万が一システムがそのような設定に対応していなければ、この計算を人の手で行うのはかなり辛いものがあります。

 

3.固定残業代方式を採れないのか

 

上記【例1】において、100,000円の歩合給に対する40時間分の割増賃金が5,000円と計算されたように、歩合給に対する割増賃金は、いわゆる基本給等に対する割増賃金と比較すれば、金額的なインパクトはそれほど大きくありません。ですので、多くの企業様にとっては、これを支払うことが財政的な意味で辛いというよりは、その計算にかかる事務負担の方が痛いのではないでしょうか。そこで、計算事務を簡便化するために、固定残業代方式を採れないのか?との発想に繋がるわけです。

 

もっとも、実際の残業時間数が固定残業代に含まれる残業時間数を超過した場合には、不足する分の追加支給が当然必要ですので、事務負担の軽減を目的とする以上は、なるべくこのような精算が生じないように残業時間数は多めに設定しておくべきです。その結果、固定残業代が歩合給の原資を圧迫するのであれば、歩合給の支給基準そのものを見直せばよいだけのことです。

 

4.固定残業代の時間数の設定

 

それでは、実際に固定残業代の設定方法を考えてみましょう。
ポイントとなるのは、総労働時間を何時間とするのか、また、そのうち時間外労働を何時間とするのかです。
上記の【例1】では、所定労働時間の合計を160時間と想定し、これに時間外労働の40時間を加え、総労働時間が200時間であったものと仮定しました。ただし、実際の総労働時間がこれよりも少なかった場合(たとえば160時間)は、1時間当たりの歩合給獲得金額が高くなる分、同じ40時間分の割増賃金は高くなります。【例2】

【例2】支給月の歩合給額:100,000円、総労働時間:160時間、時間外労働:40時間の場合

    歩合給に対する割増賃金額 = 100,000円÷160時間×0.25(割増率)×40時間 = 6,250円

 

以上のとおり、総労働時間を少なくすればするほど割増賃金額は高く算出され、不足が回避できることになりますが、これについては、たとえば、1ヶ月の所定労働日数が最少となる月の所定労働時間(それが16日であれば、8時間×16日=128時間)を基準として、あとは多少の遅刻・早退・欠勤による控除が生じる可能性を見込んでおけば充分なのではないかと考えます。ということで、今回は、所定労働時間を120時間とし、これに時間外労働が40時間加わる想定で、総労働時間を160時間で設定することにしたいと思います。つまり、【例2】と同じ設定です。

 

5.実際の設定方法

 

時間数が定まってしまえば、あとは簡単です。歩合給に対する割増賃金の比率は、常に同じ率で固定されるからです。今回の想定では、100,000円の歩合給に対する割増賃金額は6,250円ですので、割増賃金額は歩合給の6.25%と導き出すことができます。つまり、歩合給を支払う場合、その6.25%の額を歩合給に対する割増賃金として支払えばよいということです。

 

参考までに、歩合給と歩合給に対する割増賃金(固定残業代)との対比関係を表にしてみます。

歩合給 歩合給に対する割増賃金(固定残業代)

50,000円

100,000円

150,000円

200,000円

250,000円

300,000円

3,125円

6,250円

9,375円

12,500円

15,625円

18,750円

 

以上のように、表の左側の歩合給を支払う場合には、右側の固定残業代をセットにして支払えばよいということになり、この方法であれば、事務負担はかなり軽減するのではないかと思われます。もっとも、当該固定残業代が、本来の計算方法に則って算出した歩合給割増賃金よりも不足するケースにおいては、不足分を追加支給しなければならないことは言うまでもありません。その観点でいえば、総労働時間数はなるべく少なめに、残業時間数はなるべく多めに設定しておくのがよいでしょう。

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

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