TOP大野事務所コラムラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛

ラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛

こんにちは。大野事務所の今泉です。今年もよろしくお願いたします。

 

唐突ですが、スタッフの成果が出なかったり、期待された役割を果たしてもらえない、といった場合に、我々はその原因をどこに求めているでしょうか。

例えば、「やる気がない」「能力が足りない」「意識が低い」「向上心がない」というような、その人の内面、個人的な弱さ、マイナス面にあると捉えたりすることが往々にしてあるように思えます。

とすると、解決の糸口は「やる気を出させる」「能力を上げる」「意識を高める」「向上心を持ってもらう」ということになりそうですが、そもそも満足な仕事をしない原因として、なぜ「やる気がない」などと断定できるのでしょうか。よくよく考えると、原因と結果に因果関係がないように思えます。

 

さらに悪いことに、このような捉え方は結局のところ個人攻撃になってしまうおそれがあります。「彼にはやる気がない」とこぼしただけでは何も変わることはありませんし、かえって不信感を抱かれるかもしれません。そうならないためには、結果に繋がる行動に着目し、その行動を変えるための働きかけをする必要があります。人材を育成するためのポイントといえると思います。

 

人材育成ということでいえば日本で最もポピュラーな方法はOJTOn the Job Training)でしょう。OJTとは、上司や先輩が若手や後輩に対して必要な知識やスキルを、実際の業務を通じて身に付けさせるトレーニング方法ですが、これをうまく機能させるための工夫として、成功体験を積ませる、ということが挙げられます。

 

失敗経験から学ぶことも重要なのですが、いつも失敗ばかりでは自信を失ってしまう、いわゆる負け癖がついてしまうこともあります。そうするとチャレンジをすることが億劫となり、「まずはやってみよう」という気持ちが萎んでしまうことになります。

 

一方で、成功体験は自信に繋がり、学習意欲も高め、行動が強化されることになります。小さくてもいいから成功体験を積み重ねていくことで、達成感や充実感を得ることもできるでしょう。

 

ですので、OJTにより成功体験を効果的にするための仕掛けが重要となります。

 

ところで、仕事は一つの行動で終わることがありません。複数の行動が繋がることによって、ある仕事が完遂されます。これは日常行動でも同様であり、例えば、食券を先に購入するラーメン屋さんで食事をするためには、自動券売機にお金を入れる、食べたいメニューのボタンを押す⇒食券を受け取る⇒空いている席に座る⇒カウンターで食券を渡す⇒ラーメンを受け取る(⇒食べる)、というようにいくつかの行動の繋がりによって成立します。仕事の例でいえば、「営業が受注する」という行動には、訪問する⇒担当者と会話する⇒先方のニーズを確認する⇒見積もりを作成する⇒プレゼンする⇒成約する(⇒リピート受注を獲得する)といった経過を辿ります。

 

この繋がりをチェイニング(連鎖化)といいます。そして、チェイニングには行動を手前から順番に繋げていく方法(フォワード・チェイニング)と行動の連鎖を最後から逆順に完成させていく方法(バックワード・チェイニング)があります。

 

ここで、仕事においてより成功体験を積ませるのに効果的なのは、後者の方法だとされています。ゴールから遡って仕事を経験させる、ということですね。ゴールを経験する、ということは「最後までやり抜いた」という充実感を得ること、つまり成功体験を得ることが可能になる、ということになるからです。

 

「成功を積み重ね、成長を実感させる」アプローチといえるでしょう。まずは、ハードルの低い検収や入金などを任せ、成功を体験させます。それから徐々にハードルの高い前半へと仕事の範囲を広げてゆく、というわけです。

 

ちなみに、多くの会社でのOJTは「先輩のアシスタント。あとは本人次第」というアプローチがとられているような印象です。先輩の仕事の一部を任せる形で、ランダムにいろいろな仕事を体験させることになりますが(ランダム・チェイニング)、この方法は広く浅く全体を見渡すことができる一方で、結局のところ「運任せ」になってしまうリスクがあります。

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

今泉 叔徳

今泉 叔徳 特定社会保険労務士

パートナー社員

群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.07.24 大野事務所コラム
ナレッジは共有してこそ価値がある
2024.07.19 これまでの情報配信メール
仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
2024.07.17 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは①
2024.07.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
2024.07.10 大野事務所コラム
これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
2024.07.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
2024.07.03 大野事務所コラム
CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
2024.06.26 大野事務所コラム
出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?
2024.06.19 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応(規程・労使協定編)
2024.06.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社員への貸付金や立替金を給与で相殺できるか】
2024.06.12 大野事務所コラム
株式報酬制度を考える
2024.06.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【振替休日と代休の違い】
2024.06.05 大野事務所コラム
As is – To beは切り離せない
2024.05.29 大野事務所コラム
取締役の労働者性②
2024.05.22 大野事務所コラム
兼務出向時に出向元・先で異なる労働時間制度の場合、36協定上の時間外労働はどう考える?
2024.05.21 これまでの情報配信メール
社会保険適用拡大特設サイトのリニューアル・企業の配偶者手当の在り方の検討について
2024.05.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【法的に有効となる定額残業制とは】
2024.05.15 大野事務所コラム
カーネーションと飴(アメ)―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉝
2024.05.10 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)】
2024.05.08 大野事務所コラム
在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外したい
2024.05.01 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応
2024.05.11 これまでの情報配信メール
労働保険年度更新に係るお知らせ、高年齢者・障害者雇用状況報告、労働者派遣事業報告等について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
所得税、個人住民税の定額減税について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
現物給与価額(食事)の改正、障害者の法定雇用率引上等について
2024.04.24 大野事務所コラム
懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
2024.04.17 大野事務所コラム
「場」がもたらすもの
2024.04.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられています】【2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは】
2024.04.10 大野事務所コラム
取締役の労働者性
2024.04.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
2024.04.03 大野事務所コラム
兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
2024.03.27 大野事務所コラム
小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
2024.03.21 ニュース
春季大野事務所定例セミナーを開催しました
2024.03.20 大野事務所コラム
退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
2024.03.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
2024.03.21 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
2024.03.26 これまでの情報配信メール
「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
2024.03.13 大野事務所コラム
雇用保険法の改正動向
2024.03.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
2024.03.06 大野事務所コラム
有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop