対話と議論の違い―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊻
こんにちは。
大野事務所の今泉です。
連休ですね。
先日といっても3月のことですが、サッカーのコーチライセンスを取得するにあたり、八王子市サッカー協会主催の講習に参加してきました。
内容は午前中が実技、午後が座学等というプログラムで、午後の内容では特にセーフガーディングについて多くの時間を割いていました。
セーフガーディングというのは、子どもたちがサッカー、スポーツを安心、安全に楽しむ権利とその環境を守るための取り組みです。簡単にいえば、暴力はもちろんのこと、暴言や差別などを許さないとすることを指し、人事労務でいうハラスメントの防止と同様の意味合いです。
ちなみに、日本サッカー協会では、以下のようなポスターを作成し、セーフガーディングの周知啓発をしています。

講習というからには、講義を聴くものだとばかり思っていたのですが、中身はディスカッション形式のものが多く取り入れられていて、近くに座っている他チームのコーチたちと特定の話題について意見を出し合う、といったコンテンツが用意されていました。同じチームのコーチからは「今風ですね」と言われましたが、確かに講習あるいは研修といわれるものの多くに、グループワーキングやディスカッションが取り入れられるようになってきていると思います。
前回までお話ししてきた「ビジネスと人権」を広めていくことを目的とした全国社会保険労務士会連合会による「ビジネスと人権推進社労士」の講習においても、リアルで開催されたパートは、ほぼグループワーキングでした。受講したのは昨年でしたが、今年もカリキュラムは同様だったようです。
では、なぜこのような形式の研修等が多くなっているかというと、お互いに話し合い、聞き合う、あるいは取り組むという行為・行動をすることで、より高い学習効果が得られることを狙いにしているからだと思います。普段思っていることを言葉に出したり、相手の言葉を聞いて共感したり、一つのものを作ったりすることで、ただ講義を聞くよりも実感を伴った感覚・手応えを獲得することができるためです。
そのような中、少々気になったのが、「ディスカッション」(議論)という言葉の使われ方でした。ここでは、これまで幾度も登場してきた「対話」(ダイアローグ)という言葉と比較して、「ディスカッション」(議論)とはどういうことなのか探ってみたいと思います(以下、議論と対話という言葉を使用します。なお、対話と会話の違いは第4回を参照ください。)。
そもそも議論する目的とは何でしょうか。
それは自分の意見を主張することによって、合意を形成したり結論を出すことでしょう。
つまり、物事を進めていく段階で必ず判断しなければならないわけですが、その際の方向性を確定させること、それが議論の最終目的となります。
一方で、対話は「人となり」を知ることがその目的であり、信頼関係を醸成することに重きが置かれ、結論を出すことは必ずしもマストではありません。
その他、一覧にすると以下のような違いがあります。
|
|
議論 |
対話 |
|
目的 |
合意・決定 |
相互理解・信頼関係の構築 |
|
アプローチ |
主張・説得 |
問い・傾聴 |
|
態度 |
判断、評価 |
受容、保留 |
|
費やす時間 |
短期集中で効率的に |
時間をかけることを否定しない |
これらはどちらが優れているかということではなく、使う場面が異なっているということです。しかしながら、実は日常的にはこれらが混同され、整理されていないような気がします。
この点を整理することで、議論するより前にまず対話してみて、「お互いを知る」ということを行っておく。そうすれば、議論もより深まる結果につながるような気がします。早く判断しなければならないこともありますが、結論を急げばいいというものでもありません。
よくよく考えれば、先述したコーチライセンス取得のための講習も議論というよりは対話に近いものでした(時間は限られていましたが。)。議論はお互いのチームに持ち帰ってすればよい、ということなのかもしれません。
そして、議論をするには対話を通してお互いを知るということが大きな下地となるとすれば、まずは対話を繰り返すことで腹を割ることがとても大事なことは容易に想像がつきます。ただ、私自身はこの「腹を割る」つまり本音を出すということがあまり得意ではありません。
そんな中、とあるグループワーキングにおいて、「実はこういうの苦手なんですよね~。」と同じグループのメンバー(その日初めて知り合った方たちです)に告げたことがありました。それを聞いていたコーディネーターの先生が、「それが本音なんです!そう言えることが大事なんですよ。」と言われ、はっとした、という経験があります。
何気ない一言だったのですが、コーディネーターの方にそう指摘していただき、一歩踏み込めたような気がしましたし、対話ができたかな、と思えた瞬間でした(最後は対話の話になってしまいました…。)。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今泉 叔徳 特定社会保険労務士
パートナー社員
群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2026.05.01 大野事務所コラム
- 対話と議論の違い―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊻
- 2026.04.25 これまでの情報配信メール
- 治療と就業の両立支援指針について
- 2026.04.21 大野事務所コラム
- 月給制における賃金支払基礎日数
- 2026.04.15 これまでの情報配信メール
- 障害者の法定雇用率引上げ・国民年金第1号被保険者の育児期間に係る国民年金保険料免除制度・法人の役員の被保険者資格の取扱いについて
- 2026.04.11 大野事務所コラム
- 2026年度法改正の動向(その2)
- 2026.04.01 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【在宅勤務の労務管理について】
- 2026.04.01 大野事務所コラム
- 月給日給者の平均賃金額を考える
- 2026.03.26 これまでの情報配信メール
- 健康保険・厚生年金保険における現物給与価額の改正について・雇用保険料率、労災保険率について
- 2026.03.21 大野事務所コラム
- 労災裁決例から読む「叱責」と「パワハラ」の境界線
- 2026.03.19 ニュース
- 2026春季大野事務所定例セミナーを開催いたしました
- 2026.03.17 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【会社のSNS対策とモニタリング】
- 2026.03.15 これまでの情報配信メール
- 子ども・子育て支援金制度について・協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率について
- 2026.03.11 大野事務所コラム
- 社会保険に遡及加入した場合の遡及分の社会保険料は当然に給与から控除できるのか?
- 2026.03.09 ニュース
- 令和8年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント
- 2026.03.01 大野事務所コラム
- 「ビジネスと人権」はこれからの企業活動の下地―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊺
- 2026.02.26 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【給与からの控除に関する基本的なルールと留意点】
- 2026.02.21 これまでの情報配信メール
- 働く女性の健康管理について
- 2026.02.21 大野事務所コラム
- 食事手当は割増賃金の計算基礎に含める
- 2026.02.11 これまでの情報配信メール
- 令和8年度の年金額改定について等・労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律
- 2026.02.11 大野事務所コラム
- 2026年度法改正の動向
- 2026.02.01 大野事務所コラム
- フリーランス等へのハラスメント対策を考える
- 2026.01.21 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【定年後再雇用者の賃金】
- 2026.01.21 大野事務所コラム
- 新年のご挨拶とともに、精神障害と業務上疾病をめぐる裁決
- 2026.01.20 これまでの情報配信メール
- 令和7年賃金引上げ等の実態に関する調査について
- 2026.01.11 大野事務所コラム
- 転勤時に36協定の特別条項の発動回数は通算かリセットか?
- 2026.01.01 大野事務所コラム
- 負の影響の防止・軽減から情報開示まで―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊹
- 2025.12.23 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【割増賃金の計算方法】
- 2025.12.21 大野事務所コラム
- 介護休業給付金を93日分受給したい
- 2025.12.19 ニュース
- 年末年始休業のお知らせ
- 2025.12.11 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【育児短時間勤務制度について】
- 2025.12.11 大野事務所コラム
- マイナ保険証について
- 2025.12.08 これまでの情報配信メール
- 令和7年の年末調整について /育児休業等給付専用のコールセンターの開設について
- 2025.12.01 大野事務所コラム
- 社会保険「賞与に係る報酬」を考える
- 2025.11.25 これまでの情報配信メール
- 協会けんぽ 電子申請サービスについて / 来年度からの被扶養者認定について
- 2025.11.21 これまでの情報配信メール
- 教育訓練休暇給付金のご案内 、 日・オーストリア社会保障協定が本年12月1日に発効します
- 2025.11.21 これまでの情報配信メール
- 令和7年 年末調整のしかたについて
- 2025.11.21 これまでの情報配信メール
- 令和6年度の監督指導結果について
- 2025.11.21 大野事務所コラム
- 業務上の疾病
ニュース&コラム