職場における熱中症対策の強化
こんにちは。大野事務所の深田です。
今期の通常国会では、5年に一度の年金改革に向けた審議を予定していたこともあり、それ以外の労働関係法案は比較的絞られていたわけですが、実際には肝心の年金改革法案がなかなか提出されず、令和7年5月16日にようやく「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」として提出されました。
それに先行すること同年5月8日には、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」が成立しました。同法案による改正事項で実務上の影響が大きいものとしては、いわゆるストレスチェックの実施に関して、現在は当分の間努力義務となっている常用労働者数50人未満の事業場についても義務化される点が挙げられます(施行日は、改正法公布の日(令和7年5月14日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日です)。
そして、さらに遡ること同年4月15日には、「労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が公布されました。これにより、熱中症を生ずるおそれのある作業(WBGT(湿球黒球温度)28度または気温31度以上の作業場において行われる作業で、継続して1時間以上または1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれるもの)を行う際に事業者が講ずべき措置が定められ、改正省令は今月から施行されています。
【暑さ指数(WBGT)湿球黒球温度とは(「熱中症予防情報サイト(環境省))】
近年は熱中症による救急搬送事案がテレビ報道などで頻繁に取り上げられてもいたところ、職場での対策をも要する段階に至ったということで、時代の変化を強く感じる改正内容だといえます。
【救急搬送人員の推移(「熱中症予防情報サイト(環境省))】
職場における熱中症による死亡災害が一定数で推移する状況にあり、その原因のほとんどが「初期症状の放置・対応の遅れ」とされており、改正省令の施行通達(基発0520第6号 令和7年5月20日)では、改正の趣旨を以下のとおり示しています。
職場における熱中症による労働災害は、近年の気候変動の影響から、夏期において気温の高い日が続く中、ここ数年は増加傾向にあり、令和6年における休業4日以上の死傷災害は、1,195人と調査開始以来最多となっている。特に、死亡災害については、3年連続で30人以上となっており、労働災害による死亡者数全体の約4%を占める状況にあるなど、その対策が重要となっている。熱中症による死亡災害の原因の多くは、初期症状の放置、対応の遅れによることから、熱中症の重症化を防止し、死亡災害に至らせないよう、熱中症による健康障害の疑いがある者の早期発見や重篤化を防ぐために事業者が講ずべき措置等について、新たな規定を設けるものである。 |
労働者の異変を早期に把握し重症化を防ぐのが対策の柱であり、対象となる作業を行う際の「報告体制の整備・周知」および「手順等の作成・周知」が事業者に義務付けられます(労働安全衛生規則第612条の2)。
【職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省)】
https://neccyusho.mhlw.go.jp/pdf/2025/r7_neccyusho_strengthening_leaflet.pdf
労働時間管理などもそうですが、労働者の生命に関わる領域に対する企業としての取り組みは、その重要性を増す一方です。最近では、実務対応を行う上で大いに参考となる情報を厚生労働省の特設サイトなどから入手できる環境となっていますので、そうしたリソースを活用しながら取り組みを着実に進めてまいりましょう。
執筆者:深田

深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
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