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降給に関する規定整備を考える

代表社員の野田です。昨年(2024年)中はジョブ型人事制度(等級・給与)の導入を予定・検討されている企業様から、降格ルールや給与の減額幅に関するご相談を受けることが重なったため、降格降給に関する裁判例を見ていたところ、今後企業として対応が必要になるのではないかと思わせる裁判例がありましたので紹介いたします。既にご存知の方もいらっしゃると思いますが、日本HP事件(東京地判令5..9)になります。

 

  • ●日本HP事件(東京地判令5..9)の概要

会社(以下「Y社」)が能力不足等を理由に、社員Xを管理職(マーケティングマネージャー)から一般職に降格のうえ給与額を降給しましたが、原告である社員Xは、降格の合理的理由がないこと、また降給に関する合意や就業規則上の根拠規定がないことから、当該降格降給が無効であると主張し、減額された給与額を請求しました。

 

  • ●給与規程・説明資料の内容と周知状況

Y社社員給与規程では、「職務または職務レベルの変更により、現行給与が変更後の職務レベルの給与レンジ上限を超える場合には降給を実施する。」と規定されておりました。また、管理職に適用される降給規程では、「職務または職務レベルの変更により、給与レンジが下方に位置する新職務に異動した場合は、降給を実施することがある。その場合、新給与は、新職務に対応する給与レンジ内で決定する。」と規定されていました。

更に、社員用説明資料では、「管理職かつ非営業職」の者が、「一般職かつ非営業職」に変更となった場合の月額基本給の変換式(変更前の月例基本給×12÷125%÷18)などが示され、社内イントラネットで公開していました。また、Y社は毎年、全正規社員を対象に人事制度の説明会を開催しており、説明資料と共に録音版を対象社員にメールで送信していました。

 

  • ●判決のポイント

Y社の給与規程および降給規程では、職務等の変更に伴い降給があり得る旨が記載されているものの、職務等の具体的な内容、給与レンジ、異動の基準等について規定されておりませんでした。一方、社員説明資料では、職務ごとの月次基本給、固定賞与の割合、賞与の計算方法、管理職から一般職に変更となった場合の変換式などが具体的に定められていましたが、これは給与体系を社員向けに分かりやすく整理した資料であって、職務内容等が明記されている状況にありませんでした。

また、給与規程・降給規程には、社員説明資料への委任がなされていないこと(委任規定がないこと)、さらに、社員説明資料を行政に届け出ていないことから、当該説明資料は就業規則には該当しないものとしました。

会社が労働条件である給与を労働者に不利益に変更するには、会社と労働者との合意または就業規則等の明確な根拠に基づいてなされる必要があるところ、後者には該当しないことから、社員Xの同意のない降格降給は無効であると判断しています。

なお、本件降格では、社員説明資料にある変換式の額を超えて減額していたようですが、変換式の通りであったとしても結果は変わらなかったものと思われます。

 

  • ●おわりに

職務レベルや等級を降格し、これにより給与が減額される場合、労働者の同意を得る(労契法第8条)または就業規則等の規定に基づいてなされる(労契法第9条、第10条)必要がありますが、就業規則等の規定に基づいて降給する場合は、合理的な理由が無ければ無効と判断されます。

本件では、職務の異動の基準等(降格基準)が規定されていないことが重要視されましたが、その前提には、委任規定がなく、また届出がなされていない社員説明資料は就業規則の一部に該当しないということがあります。本件以外にも、降格、降給することがあるといった規定だけでは不十分であり、降格降給該当事由、賃金減額の幅、職務等級の場合は職務と等級の関連などの明示が必要であり、根拠規定がない、不十分であるなどの理由で降給が否定された裁判例もあります。一方、「人事制度の変更に関する説明会において、前記各事項(賃金テーブル、昇給テーブル、人事評価の方法及び考課基準等)が記載された資料に基づき説明が行われ、その内容が従業員に周知されていることを考慮すれば、就業規則中に減給事由、減給方法及び減給幅等の基準が明示されていないことをもって直ちに不合理であるとまでは認められない」とした昨年の裁判例【日本プライベートエクイティ事件(東京地判令6.3.29)】もありますので、裁判所の判断も確立されてはいないようです。

 

私が目にしている企業様の給与規程では、降格に関する基準等を具体的に明示していることはなく、Y社同様、社員説明資料にて、職務等級定義、昇降格の基本的な考え方、給与レンジなどを明示しているものがほとんどです。中小企業においては、社員説明資料すら存在しないといった実態ですので、本件がスタンダードな考え方だと言われてしまうと、降格降給について何をどこまで規定化すれば良いのか悩むばかりです。給与規程等に降格や減給に関する事由・基準等を直接規定しておくことが望ましいと言えますが、直接的な規定が無い場合でも説明資料等では明示しておく必要がありそうです。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

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