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バトンタッチ

こんにちは、大野事務所の鈴木です。

本日は、組織におけるバトンについて考える機会がありましたので、お話させて頂きます。

 

1.ポケットモンスター

 

唐突ですが、ポケットモンスターをご存知でしょうか?1作目の発売から間もなく30周年を迎える、言わずと知れた任天堂の人気ゲームシリーズの一つです。私にとっては1作目の発売が小学1年生、2作目の発売が小学4年生にあたる年で、特に2作目である金・銀は前作からの期待感や雑誌・テレビでの宣伝も相まって友人の間で話題となり、クリスマスプレゼントのをすぐに開けて、夢中でプレイしたことを鮮明に覚えています。

 

ポケモンはゲームから始まり、アニメ・カードゲーム・物販等にコンテンツが拡充されていますが、ゲーム内の遊び方は2つに大別されます。一つは「集める」。ゲーム内で様々なポケモンを捕まえてポケモン図鑑を完成させることを目的としています。もう一つは「戦う」。捕まえたポケモンを育てて、ポケモン同士を戦わせて対戦相手に勝利することを目的としています。ここでいう対戦相手はソフト内のCPUに限られず、通信システムを使って同じソフトを持つポケモンプレイヤー同士が対戦できます。作数を重ねるごとに、ポケモンの追加、技の追加・調整、やりこみ要素の追加が行われており、1作目は151匹だったポケモンも、2作目で251匹に増え、今では総勢1000匹を超える種類のポケモンが存在するようです。当時とはコレクションのやりがいも苦労も、文字通り桁違いといえます。

 

ポケモン対戦はポケモン同士を戦わせるもので、ルールがあります。まず手持ちの6匹を見せ合って、その中から3匹を選び、技を駆使して先に相手の3匹を倒した方が勝利します。1匹のポケモンにつき、技は4つしか覚えることができません。また1匹のポケモンにつき、持ち物を1つ持たせることができます。これ以外にも特性、天候、確率、個体差といった要素が織り交ぜられており、6匹の見せ合いからどの3匹を選ぶのか、そのポケモンにどんな技を覚えさせて、どんな持ち物を持たせるのか?といった戦略が、対戦を複雑なものにしていきます。相手に勝利するという目的のため、相手を上回る戦略を立て、実行することが、ポケモン対戦の醍醐味ともいえます。

 

 

2.バトンタッチ

 

さて、2作目で追加された技の一つにバトンタッチという技があります。その効果は「他の味方と交代し、かかっていた能力変化や補助効果を引き継ぐ」というもので、例えばかたくなるという技は防御力を50%アップさせる効果がありますが、通常の交代だとその効果は失われるところ、バトンタッチで交代すると防御力アップの効果を引き継いだまま交代ができるようになりました。この技の登場で、能力上昇の恩恵を引き継いだまま後続のポケモンに交代し、そのポケモンが相手の残りポケモンを全抜きする勝ち筋が生まれました。作数を重ねる中でバトンタッチに対抗する技の追加・調整が加えられましたが、どうやら界隈では今でも不変のセオリーとして好んで使われているようです。

 

私たちの界隈でバトンタッチといえば、育休の延長交代が思い出されます。育休は1歳~16ヶ月、16ヶ月~2歳と延長できる仕組みがありますが、2024/1/1生まれの子を例にとると、従来は1歳~16ヶ月に達する子に係る育休開始日は1歳の誕生日(2025/1/1)、16ヶ月~2歳に達する子に係る育休開始日は16ヶ月の誕生日応答日(2025/7/1)に限られており、配偶者と交代で育休取得する場合もこのタイミングに限定されていました。しかし一昨年の育児介護休業法の改正により、配偶者が育休取得していた場合には配偶者の育休終了日の翌日以前を開始日として育休取得が可能となりました。例えば配偶者が2025/3/31に育休終了予定の場合は2025/4/1以前、配偶者が2025/9/30に育休終了予定の場合は2025/10/1以前の、それぞれ任意のタイミングで育休取得が可能です。子を養育するという目的のため配偶者と代わって育休を開始することから、バトンタッチ育休と呼ばれたりします。

 

 

上図はバトンタッチ育休の典型例ですが、家族の形に合わせた柔軟な育休取得が可能です。

これらのバトンタッチには共通点があり、①その時点の状況・権利をそのまま引き継ぐこと ②先行は一旦役目を終えて託す状況にあること ③後続は期待を込めて託されること が挙げられます。言葉本来の意味を考えれば当たり前のことですが、先行の積み上げたものが不足していたり、後続の積み上げが不十分だったりすると、一連のプロセスは目的を遂行できなくなります。逆に先行や後続の不足をもう一方が補う(挽回する)こともあるでしょう。バトンタッチは連帯感を重視する日本人にとって親和性のある言葉だと感じます。

 

 

3.私たちのバトン

 

バトンタッチは気を遣う場面ですし、スピードも遅くなります。足が速い人が全部走れば一番早いのに、どうしてバトンタッチという一手間を加え、後続に託さなければいけないのでしょうか。言うまでもなく、そのバトンを手に握ったままずっと走り続けることが、ルール上認められないからに他なりません。

 

これは競技会のバトンリレーだけの話ではありません。学生時代まで遡らずとも私たちは現に、公私にわたる様々な組織・チームの中で、役割や仕事というバトンを託し、託されてきました。私たちのバトンも借り物であり、ずっと手に握り続けることはできません。年齢や状況といった自分にはどうしようもない事情により、ある日突然バトンを託し、託されることに気付きます。

 

バトンリレーではテークオーバーゾーンが区切られ、後続走者も準備しています。競技会の勝利を明確な目的として、その時点で最も足が速い4人が選抜され、利害関係も殆どないでしょう。しかし私たちのバトンは、利害関係(様々な要因でそれを引き受けたい、引き受けたくない)もあり、テークオーバーゾーンや後続の存在も曖昧で、目的すら定まっていないこともあります。より良いバトンリレーを作り上げるため、チームは目的を明確にし、これらの状況を整備した上で、メンバーにパフォーマンスを発揮してもらうこと、メンバーはいつでもバトンを託し、託されても大丈夫な状態にしておくことが重要です。

 

このバトンは、組織における問題を示唆してくれます。チームの状況的な要請があるのに「託されたくない」というのは、一番足が速い人が「リレーに出たくない」のと同様、それなりの理由があるのでしょう。一方チームに所属するメンバーは「リレーに出る」ことを目標として日々研鑽しなければいけませんが、それを妨げるものは何でしょうか。また、チームがメンバーの能力向上やモチベーション管理を、自己責任としてメンバー自身に任せきりにすれば、たとえ強豪チームでも個人プレーが色濃くなりインターハイ出場は困難となるでしょうし、逆に弱小チームでも人材の発掘と育成次第でインターハイに出場できるかもしれません。そもそも、後続走者たるメンバーはいるのでしょうか。あるいは、育っているでしょうか。スカウトの強化や育成のロードマップ策定、練習試合への登用など、人材活用にも方針と戦略をもたせ、メンバーと共有することが望ましいです。

 

たしかに「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」(岸見一郎・古賀史健著,『嫌われる勇気』,2013)ものの、馬は水を飲もうと、飼い主は水辺に連れていこうと努める必要があります。メンバーはバトンの出し手、受け手になることを意識した日常行動が求められ、チームはその日常行動を啓発・管理するマネジメントが要求されます。HRとしては後者を念頭に置いた施策立案が今後より一層重要となり、腕の見せ所として注目されることでしょう。

 

皆様にとって次のバトンタッチが、より良いものとなることを願っております。

 

 

執筆者:鈴木

鈴木 俊輔

鈴木 俊輔 特定社会保険労務士

第3事業部 グループリーダー

秋田県出身。明治大学文学部卒業。
新卒でガス会社に入社し、現場と本店を経験。その中で「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社労士を志し、この業界に入りました。

大野事務所に入所し約5年。社労士として研鑽を積む傍ら、副業で再エネ事業、BPO事業を営んでいます。前職や副業で培った経験と、先輩や上司から頂いた金言を大切に、お客様への価値提供と業務改善を常に意識しながら、日々仕事に取り組んでいます。

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