フリーランス(個人事業主)の労働者性
パートナー社員の野田です。今回は、フリーランスの労働者性について考察します。
数年前より、働き方改革の選択肢の一つとしてフリーランス(個人事業主)が注目を浴びておりますが、今回のコロナ禍においてもフリーランスに対する生活保障が問題となりました。また、ニュース等でタニタ社員の個人事業主制度が話題となったことも記憶に新しく使用者としては興味深いところです。
私もフリーランス契約(業務委託契約)に関するご相談をお受けすることがありますが、正直なところ、これまでは労基法第9条(労働者性)との関係であまりお勧めできないものとして回答してきました。というのも、フリーランス契約の対象とされている方のほとんどが、ご相談企業の現役労働者や退職者(定年退職者を含む)であり、新たにフリーランス(個人事業主)を迎い入れようというものではありません。そこで、フリーランス契約をご検討されている企業様に導入理由を聞いてみると、「社会保険料を削減したい」、「業績不振や成績不良の場合に解除できる」、「60歳以上の労働者が年金を減額されたくないため社会保険に加入したくないと言っている」など、脱法的なもの、将来トラブルに発展しそうなものなど様々です。
実態としても、企業が指揮命令のうえ当該指揮のもと、決められた場所、決められた時間に業務を行うという点で労働者と何ら変わりがなく契約形態が異なるだけであることから、このような状況下で労働者性を主張された場合、企業に勝ち目はありません。
以上を理解したうえで、タニタ社の個人事業主制度がどのように運用されているのかを見ていきます。報道等で確認できる範囲のものではありますが、タニタ社においては以下のようです。
・退職後3年間はタニタの仕事を補償する(契約期間は3年ごと)
・社員時代の給与・賞与をベースに「基本報酬」を決める
基本報酬には、社員時代に会社が負担していた社会保険料や通勤交通費、福利厚生費を含む
・就業時間に縛られることはなく、出退勤を自由に決められる
・基本業務に収まらない仕事は追加業務とし、成果に応じて別途報酬を受け取れる
・タニタ以外の仕事を請け負うことを自由とする
概要は以上のようですが、労働者との違いを明確にすることが肝要です。
また、上記以外の要素として「希望者のみ」としている点は評価できるのではないでしょうか。当事者間で真の合意形成がなされていなければ当該制度は成り立ちませんし、継続できませんので、会社が当該契約を強制しないことは非常に大きな意味合いがあると考えますが、事業者性(労働者非該当)について簡単に結論を出せないことに変わりはありません。近いうちにフリーランスの適正活用に向けたガイドラインが出されるようですので、その内容を注視したいと思います。
因みに、コロナ禍においてフリーランスが業務を遂行できない場合のタニタ社の生活保障はどうなっているのでしょうか。コロナ禍でのフリーランスの無収入問題等が取り上げられていましたが、報道を見ていても民間保険(失業保険に代わるもの)に加入している方はほとんど居ないようで、結局のところ給付金頼みという印象が否めません。労働者が雇用保険に加入して保険料を納付しているのに対し、フリーランスが保険料を納めることなく給付が受けられるというのは解せませんので、これを機にフリーランスについても労災保険や雇用保険を強制適用とすることも一案です。
コロナ禍で改めて感じたのは、災害時等では通常の保障制度だけではどうにもならず、特別会計において何らかの救済がされるということです。雇用調整助成金の上限日額8,330円が15,000円に変更したこと一つを取っても、もはや雇用保険制度では賄え切れず特別措置によるものですので、これからは5月12日のコラムでも取り上げましたベーシックインカムという考え方が良いのかもしれません。
執筆者:野田

野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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