社会保険(健康保険、厚生年金保険)における報酬と賞与
こんにちは。大野事務所の深田です。
早くも7月に入り、企業や社労士事務所の社会保険実務においては、算定基礎届のシーズンに突入していますね。やや個人的なことを記しますが、私は大野事務所入所前に勤めていた社労士事務所で社労士業務に初めて従事するようになり、それが2002年のことです。その事務所での私のメイン業務は、社会保険(健康保険、厚生年金保険)の手続きでした。
社会保険手続き業務における年間の山場は、何と言っても算定基礎届です。その事務所に入った当時は、5月~7月までの3ヶ月間の報酬を8月10日までに届け出ることになっていました(翌2003年から現在の4月~6月での算定に変わりました。「総報酬制」が導入されたタイミングです)。
その頃は今と違って電子申請がないのはもちろんのこと、磁気媒体での届出もほとんど普及していませんでしたので、ドットプリンタを使って紙の算定基礎届にひたすら印字していきます(1枚につき被保険者5名)。そして、算定基礎届1枚1枚に事業主印と社労士印を押印し、賃金台帳とともに紙袋に詰めて(←このあたり、個人情報保護の点で隔世の感がありますが)、社会保険事務所(現在の年金事務所)や健康保険組合に持ち込んでいました。
さて、算定や月変そして資格取得時の報酬決定など社会保険上の報酬を定める場面はいくつかありますが、それぞれ要件に沿って報酬月額を計算して届け出を行ううえでは、被保険者が月々で実際に受け取った(あるいは受け取ることとなる)報酬の実態を適正に反映させるのが趣旨だという点を意識すると、様々なルールも理解しやすいのではないでしょうか。
今年の算定・月変については、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務を導入したことによる通勤手当の支給方法変更に係る月変要件該当有無の検証であったり、一時帰休が実施された場合の算定・月変であったり(7月1日時点で一時帰休の状態が解消しているか否かによって、低額な休業手当が支払われた月の報酬を含める・含めないが変わる。低額な休業手当が3か月継続して支払われた場合に月変の確認をする。など)、昨年までとはまた違った点に留意が必要となる企業も少なくないのではないかと思われます。
ところで、報酬月額の計算にあたっては、事業所から支給されている金銭が社会保険上の報酬に該当するのか否かということが前提としてあるわけです。この点に関しては、事業所に勤めているからこそ得られる金銭については恩恵的あるいは実費弁償的なものを除いて多くは報酬に該当し、支給が臨時的といった理由で報酬に当たらないケースは極めて限定的であるといえます。支給された金銭が社会保険の対象賃金に該当するか否かの判断がファーストステップ、そして次のステップとして当該金銭が「報酬」と「賞与」(3か月を超える期間ごとに支払われるもの)のいずれに当たるのかという判断を行うことになるわけです。
この判断において、ファーストステップの段階で対象から漏らしてしまいがちなのが一時金の類でして、例えば社長賞や資格取得祝い金といったものです。確かに純然たる労働の対価とはやや異なりますし、社会保険料を引かれてしまっては支給の意味合いが薄れてしまうといったご意見もお気持ち的には分からなくもないところではあります。しかしながら、「事業所に勤めているからこそ得られる金銭」ということからしますと、頻繁に支給されるものではないにしても大入袋のような今回限りの特別支給ということでもなければ社会保険の対象、そして一時金であることから賞与として賞与支払届を提出することとなります。ちなみに、2003年の総報酬制導入によって被保険者ごとの賞与額の届け出が必要となり、賞与に対する保険料が年金給付に反映されるようになりました。
マスクが欠かせない生活の中で初めて迎える夏となり、熱中症リスクも高まることでしょう。皆様、健康管理には十分に留意され、夏を乗り越えてまいりましょう。
執筆者:深田
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.03.27 大野事務所コラム
- 小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
- 2024.03.21 ニュース
- 春季大野事務所定例セミナーを開催しました
- 2024.03.20 大野事務所コラム
- 退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
- 2024.03.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
- 2024.03.21 これまでの情報配信メール
- 協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
- 2024.03.26 これまでの情報配信メール
- 「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
- 2024.03.13 大野事務所コラム
- 雇用保険法の改正動向
- 2024.03.07 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
- 2024.03.06 大野事務所コラム
- 有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
- 2024.02.28 これまでの情報配信メール
- 建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
- 2024.02.28 大野事務所コラム
- バトンタッチ
- 2024.02.21 大野事務所コラム
- 被扶養者の認定は審査請求の対象!?
- 2024.02.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
- 2024.02.14 大野事務所コラム
- フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
- 2024.02.16 これまでの情報配信メール
- 令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等
- 2024.02.09 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【固定残業代の計算方法と運用上の留意点】
- 2024.02.07 大野事務所コラム
- ラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛
- 2024.01.31 大野事務所コラム
- 歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?
- 2024.01.24 大野事務所コラム
- 育児・介護休業法の改正動向
- 2024.01.19 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈前編〉】
- 2024.01.17 大野事務所コラム
- 労働保険の対象となる賃金を考える
- 2024.01.10 大野事務所コラム
- なぜ学ぶのか?
- 2023.12.21 ニュース
- 年末年始休業のお知らせ
- 2023.12.20 大野事務所コラム
- 審査請求制度の概説③
- 2023.12.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【テレワークと事業場外みなし労働時間制】
- 2024.01.17 これまでの情報配信メール
- 令和6年4月からの労働条件明示事項の改正 改正に応じた募集時等に明示すべき事項の追加について
- 2023.12.13 これまでの情報配信メール
- 裁量労働制の省令・告示の改正、人手不足に対する企業の動向調査について
- 2023.12.13 大野事務所コラム
- 在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?
- 2023.12.12 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?】
- 2023.12.06 大野事務所コラム
- そもそも行動とは??―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉚
- 2023.11.29 大野事務所コラム
- 事業場外労働の協定は締結しない方がよい?
- 2023.11.28 これまでの情報配信メール
- 多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて、副業者の就業実態に関する調査について
- 2023.11.22 大野事務所コラム
- 公的年金制度の改正と確定拠出年金
- 2023.11.17 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【試用期間中の解雇・本採用拒否は容易にできるのか】
- 2023.11.15 大野事務所コラム
- 出来高払制(歩合給制、請負給制)給与における割増賃金を考える
- 2023.11.09 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【労働条件明示ルールの改正(2024年4月施行)】
- 2023.11.11 これまでの情報配信メール
- 過重労働解消キャンペーン、資格取得時の本人確認事務について
- 2023.11.08 大野事務所コラム
- 相手の立場に立って考える
- 2023.11.01 大野事務所コラム
- 審査請求制度の概説②
- 2023.10.26 これまでの情報配信メール
- 年収の壁・支援強化パッケージ、令和5年年末調整変更点について