TOP大野事務所コラム管理職昇格時の随時改定(月額変更届)

管理職昇格時の随時改定(月額変更届)

こんにちは。大野事務所の高田です。

 

今年もそろそろ、社会保険の定時決定(算定基礎届)の時期がやって来ました。
この時期になると毎年思い出すことがありまして、それは、管理職に昇格した人の随時改定(月額変更届)の取り扱いに関してです。筆者の勝手な想像では、企業で社会保険の事務を担当している方や専門家である社労士の方でも、この取り扱いを知らない、あるいは知っていても対応できていないことが意外と多いのではないかと思っています。実は筆者自身も、過去に正しく処理できていたのかと問われると、正直にいって自信がありません。
ということで、今回はこの話をしたいと思います。

 

1.管理職に昇格した場合の随時改定

 

管理職に昇格すると、基本給や役職手当などの固定的賃金が増額されることが一般的です。この場合、固定的賃金が増額した月(昇格月)から起算した3ヶ月の給与の平均を求め、従前の標準報酬月額等級と比較して2等級以上の変動がある場合には、随時改定に該当することになります。【図1】

 

2.残業手当は含めなければならない

 

ここまでは何ということもない処理なのですが、問題はここからです。
残業手当が翌月払いの会社では、管理職に昇格した月(例では4月)のみ、昇格する前の月の残業手当が支給されることがあります。この場合、昇格月以後の3ヶ月の給与の平均を求める際に、この残業手当は当然含めて計算することになります。先ほどの例では、4月に支給された残業手当を含めて平均を求めた結果、7月以降の標準報酬月額は530,000円に改定されます。【図2】

 

さて、ここでちょっとした違和感を覚えませんでしょうか?
昇格後の給与が500,000円であるのに対して、標準報酬月額がそれよりも高い530,000円となってしまいました。管理職に昇格した後は残業手当が支給されないわけですが、昇格月にのみ支給された前月分の残業手当が影響して、このようなアンバランスな状態が起こってしまうわけです。このアンバランスを解消するために、昇格月(例では4月)に支払われた残業手当を除いて平均を求めるのが妥当なのでは?という気がしなくもありませんが、この点、行政は次のような方法を示しています。

 

3.正しい取り扱い方法

 

正しい取り扱い方法は、「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集」において、Q&A形式で示されています。

 


問1ー2
(従業員から役員になるなど)身分変更が行われた結果、基本給が上がり(又は下がり)、(超過勤務)手当が廃止(又は新設)された場合で、各々の固定的賃金の変動が実際に支給される給与への反映月が異なる場合において、起算月はどのように取り扱うのか。

 

(答) 身分変更が行われた結果、複数の固定的賃金の変動が生じ、各々の固定的賃金の変動が実際に支給される給与へ反映する月が異なる場合は、変動後の各々の固定的賃金が給与に実績として反映された月をそれぞれ起算月とする。
(例) 役員昇格による昇給と役員昇格による残業手当の廃止(昇給月の翌月反映)
→昇給に係る随時改定は昇給月が起算月となり、手当廃止による随時改定は反映月(昇給月の翌月)を起算月として別の随時改定としてとらえる。


 

特に注意して見て頂きたいのは、太字の部分です。つまり、ここで示されているのは、昇格月(例では4月)を起算月としたいわゆる上がり月変(等級が上がる随時改定)に該当するかどうかを見たうえで、引き続き、残業手当が支給されなくなる翌月(例では5月)を起算月としたいわゆる下がり月変(等級が下がる随時改定)に該当するかどうかを見るということです。いわば、昇格によって一旦上がり月変に該当したとしても、残業手当が支給されなくなることによってすぐに下がり月変に該当すれば、本来の適正な標準報酬月額に戻るでしょうという理屈です。一見理に適っているようではあるものの、実際に試算してみると、上がり月変の後に下がり月変にも該当して適正な標準報酬月額に戻るケースは限られているということが分かります。

 

【図2】の例で確認してみます。
この例では、4月~6月の給与の平均額は、4月の残業手当:90,000円を含めて計算した結果530,000円となり、7月以降の標準報酬月額は530,000円に改定されました。残業手当が支給されなくなる5月を起算月とする5月~7月の給与の平均額は500,000円ですが、従前の等級は標準報酬月額:530,000円に応じた等級になることから、1等級しか変動しないために随時改定には該当しません。つまり、この例では、530,000円に上がりっぱなしということになってしまいます。

 

よくよく考えてみれば当然の話であり、残業手当が支給されなくなる5月~7月の給与の平均額が、1ヶ月分の残業手当を含む4月~6月の給与の平均額よりも2等級分も下がるというのは、この残業手当がよほど高額であった場合に限られます。【図3】

 

4.まとめ

 

以上のような試算をしてみると、行政が示している事例集に基づく方法よりも、4月の残業手当を除いて平均を求める方が実は妥当なのではないか?という気が再びしてしまうのですが、それはあくまでも筆者個人の感想でして、実際には行政が示している方法に準拠する必要があります。とはいえ、これは社会保険の実務に携わっていらっしゃる方には共感して頂けるものと思いますが、「残業手当が支払われなくなる月」(例では5月)を下がり月変の起算月として捉えるのは、随時改定の処理としてはなかなか困難なところがあるのも事実です。

 

執筆者:高田

 

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

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