TOP大野事務所コラム「労働者協同組合」という働き方

「労働者協同組合」という働き方

こんにちは。大野事務所の深田です。

 

早いもので、今年も残り一週間ほどとなりました。振り返ってみますと、今年は時間外労働上限規制の中小企業への適用や、賃金請求権の消滅時効期間延長が4月から行われたことに始まり、その他にも複数就業者に関するセーフティーネット整備の観点からの雇用保険法や労災保険法の改正、高齢者の就業機会確保のための高年齢者雇用安定法の改正などが通常国会で成立しました。

 

そうした中、先の臨時国会において、「労働者協同組合法」という法律が成立したことをご存知でしょうか。法律名からはイメージがつくようなつかないような、というところかもしれませんが、雇用関係を規律する既存の労働関係法令とは異質のものとなります。

 

既存の労働関係法令では、労働者として企業に雇用されることを前提とした保護が図られているわけですが、労働者協同組合法は、組合員が出資・運営して自ら働く「労働者協同組合」という非営利法人形態を法制化するものです。

 

介護や福祉、子育て支援といった事業を行っている非営利の組織は従来から存在していますが、生協や農協・漁協などと異なり法人の根拠となる法律がなかったため、任意団体として事業を行ってきたという経緯があります(認可を受けて企業組合やNPO法人といった形態をとっている組織もあります)。それが、今回の新法によって法人格を与えられることで、訪問介護や学童保育、地域産品の直売等による地域づくりなど地域の需要にマッチした事業が生まれ、ひいては多様な雇用機会の創出につながる効果が期待されています。この点は、同法の第1条(目的)において以下のとおり示されています。

 

「この法律は、各人が生活との調和を保ちつつその意欲及び能力に応じて就労する機会が必ずしも十分に確保されていない現状等を踏まえ、組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、及び組合員自らが事業に従事することを基本原理とする組織に関し、設立、管理その他必要な事項を定めること等により、多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とする。」

 

株式会社では、株主が出資し、企業(経営者)が経営し、雇用された労働者が働くということで、出資・経営・労働がいわば分離しているわけですが、労働者協同組合では、協同組合の組合員として自ら出資しつつ働き、また運営にも関わることとなります(かたや、組合員(組合の業務を執行する組合員など一部を除く)と労働契約を締結することを組合の要件として組合員の保護を図っていることも特徴的です)。この点は、同法の第3条(基本原理その他の基準及び運営の原則)第1項において以下のとおり示されています。

 

「組合は、次に掲げる基本原理に従い事業が行われることを通じて、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とするものでなければならない。

一 組合員が出資すること。

二 その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること。

三 組合員が組合の行う事業に従事すること。」

 

同法が定める労働者協同組合は、官庁の許可や認可を必要とせず3人以上の発起人により設立することが可能で、企業組合やNPO法人よりも手続きが簡便となっています。法律の施行日は、一部を除き公布日から2年以内の政令で定める日とされています。

 

非営利組織ということでは、私自身もプライベートでNPO法人の活動を目にする場面があります。以前に某NPO法人のイベントに参加させていただいた際には、組織としての強い思いとスタッフの方々の活力や行動力の高さを目の当たりにしました。労働者協同組合法の施行によって、新しい力が生まれてくることを期待しています。

 

さて、5月から5名体制でスタートした本コラムですが、おかげさまで連載を継続することができ、今年については今回分をもって最後となります。お読みくださった皆さまに改めて御礼申し上げます。来年も本コラムはもちろんのこと、ホームページを通じた情報発信に一層注力してまいります。本年もありがとうございました。

 

執筆者:深田

深田 俊彦

深田 俊彦 特定社会保険労務士

労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員

社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.04.17 大野事務所コラム
「場」がもたらすもの
2024.04.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられています】【2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは】
2024.04.10 大野事務所コラム
取締役の労働者性
2024.04.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
2024.04.03 大野事務所コラム
兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
2024.03.27 大野事務所コラム
小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
2024.03.21 ニュース
春季大野事務所定例セミナーを開催しました
2024.03.20 大野事務所コラム
退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
2024.03.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
2024.03.21 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
2024.03.26 これまでの情報配信メール
「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
2024.03.13 大野事務所コラム
雇用保険法の改正動向
2024.03.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
2024.03.06 大野事務所コラム
有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
2024.02.28 これまでの情報配信メール
建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
2024.02.28 大野事務所コラム
バトンタッチ
2024.02.21 大野事務所コラム
被扶養者の認定は審査請求の対象!?
2024.02.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
2024.02.14 大野事務所コラム
フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
2024.02.16 これまでの情報配信メール
令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等
2024.02.09 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【固定残業代の計算方法と運用上の留意点】
2024.02.07 大野事務所コラム
ラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛
2024.01.31 大野事務所コラム
歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?
2024.01.24 大野事務所コラム
育児・介護休業法の改正動向
2024.01.19 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈前編〉】
2024.01.17 大野事務所コラム
労働保険の対象となる賃金を考える
2024.01.10 大野事務所コラム
なぜ学ぶのか?
2023.12.21 ニュース
年末年始休業のお知らせ
2023.12.20 大野事務所コラム
審査請求制度の概説③
2023.12.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【テレワークと事業場外みなし労働時間制】
2024.01.17 これまでの情報配信メール
令和6年4月からの労働条件明示事項の改正  改正に応じた募集時等に明示すべき事項の追加について
2023.12.13 これまでの情報配信メール
裁量労働制の省令・告示の改正、人手不足に対する企業の動向調査について
2023.12.13 大野事務所コラム
在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?
2023.12.12 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?】
2023.12.06 大野事務所コラム
そもそも行動とは??―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉚
2023.11.29 大野事務所コラム
事業場外労働の協定は締結しない方がよい?
2023.11.28 これまでの情報配信メール
多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて、副業者の就業実態に関する調査について
2023.11.22 大野事務所コラム
公的年金制度の改正と確定拠出年金
2023.11.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【試用期間中の解雇・本採用拒否は容易にできるのか】
2023.11.15 大野事務所コラム
出来高払制(歩合給制、請負給制)給与における割増賃金を考える
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop