TOP大野事務所コラム通常の労働者への転換措置を定めていますか?

通常の労働者への転換措置を定めていますか?

こんにちは。大野事務所の深田です。

 

昨年はいわゆる同一労働同一賃金に関して、5件の最高裁判決が出されました。今回のコラムでは、大阪医科薬科大学事件(令和2.10.13最高裁三小判決)とメトロコマース事件(令和2.10.13最高裁三小判決)の判断で示された「その他の事情」に触れたいと思います。

 

いわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で待遇差がある場合(均衡待遇)の不合理性の判断にあたっては、以下の3点から検討されます。

1)職務内容(業務の内容+責任の程度)

2)職務内容・配置の変更範囲

3)その他の事情

 

大阪医科薬科大学事件では、アルバイト職員に賞与が支給されないことを不合理ではないと判断しましたが、その際に「登用制度」(アルバイト職員から契約職員および正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度。※契約職員には正職員の約80%の賞与を支給)の存在が「その他の事情」として考慮されています。判決文によれば、「前者(※アルバイト職員から契約職員への登用)については、アルバイト職員のうち、1年以上の勤続年数があり、所属長の推薦を受けた者が受験資格を有するものとされ、受験資格を有する者のうち35割程度の者が受験していた。平成25年から同27年までの各年においては1630名が受験し、うち519名が合格した。また、後者(※契約職員から正職員への登用)については、平成25年から同27年までの各年において713名が合格した。」とされています。

 

また、契約社員に退職金が支給されないことを不合理ではないと判断したメトロコマース事件(令和2.10.13最高裁三小判決)でも、同様に登用制度を「その他の事情」として考慮しています。判決文によれば、「原則として勤続1年以上の希望者全員に受験が認められていた。平成22年度から同26年度までの間においては、契約社員Aへの登用試験につき受験者合計134名のうち28名が、正社員への登用試験につき同105名のうち78名が、それぞれ合格した。」とされています。

 

判決文からも読み取れるとおり、単に登用制度があるというだけでなく、どの程度門戸が開かれていて、現にどの程度の登用実績があるのかが見られているといえます。そして、今回の判決では、この「その他の事情」も小さからぬ材料であったと考えられます。

 

さて、このような社員登用制度を設けることが企業の義務というわけではありませんが、パートタイム・有期雇用労働法(旧パートタイム労働法)第13条の「通常の労働者への転換」措置として掲げられている3つの選択肢の一つとして、「通常の労働者への転換のための試験制度を設けること」が謳われています。実際の条文は次のとおりです。

 

事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。

一 通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に周知すること。

二 通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に対して与えること。

三 一定の資格を有する短時間・有期雇用労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けることその他の通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。

 

この条文はパートタイム労働法時代からあるものでして、20084月から施行されている規定ですが、「次の各号のいずれかの措置を講じなければならない」とされているとおり義務規定です(ちなみに、正社員と同視すべきパートタイム労働者の待遇を差別的に取り扱うことの禁止規定(均等待遇)もこのときに施行され、パートタイム労働者の待遇の原則(均衡待遇)は20154月から規定されました)。現在はパートタイム・有期雇用労働法となっているため、パートタイム労働者のみならず有期雇用労働者も当該措置の対象となります。なお、話はやや逸れますが、パートタイム・有期雇用労働法となったことにより、パートタイム労働者に加えて有期雇用労働者に対する労働条件(昇給、退職手当、賞与の有無および相談窓口)の書面明示もお忘れのないようご注意ください。

 

本年4月からの中小企業へのパートタイム・有期雇用労働法適用を前にして、各企業では雇用区分ごとの業務内容などの整理、待遇の性質や趣旨・目的の整理に取り組まれていることと思いますが、パートタイム・有期雇用労働法13条の履行状況についても今一度確認されてはいかがでしょうか。

 

執筆者:深田

深田 俊彦

深田 俊彦 特定社会保険労務士

労務相談室長 管理事業部長/執行役員

社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2022.08.05 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【企業に求められている労働時間の把握・管理方法とは】
2022.08.03 大野事務所コラム
ホオポノポノ―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑳
2022.08.02 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【退職者やフリーランスに対する競業制限の限界】
2022.07.27 大野事務所コラム
シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第10回)
2022.07.26 これまでの情報配信メール
男女間賃金差異の情報公表、副業・兼業ガイライン改定
2022.07.20 大野事務所コラム
育児介護休業規程は必要か?
2022.07.13 大野事務所コラム
男女間の賃金差異の開示義務化
2022.07.11 これまでの情報配信メール
今後施行される人事労務に関する法改正情報等
2022.07.06 大野事務所コラム
シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第9回)
2022.06.29 大野事務所コラム
妊娠・出産・育児休業等を理由とする「不利益取扱い」と「ハラスメント」の違い
2022.06.27 これまでの情報配信メール
外国人労働者問題啓発月間・令和4年度の算定基礎届の記入方法等について
2022.06.22 大野事務所コラム
人材版伊藤レポート(2.0)
2022.06.15 大野事務所コラム
シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第8回)
2022.06.13 これまでの情報配信メール
月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率の引き上げおよび労働基準関係法令違反に係る公表事案
2022.06.08 大野事務所コラム
コンフリクトの解決モード―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑲
2022.06.01 大野事務所コラム
社会保険の適用拡大について
2022.05.26 ニュース
『労政時報』に寄稿しました【今国会で成立した労働関係法案】
2022.05.26 これまでの情報配信メール
「シフト制」労働者の雇用管理に関するリーフレット
2022.05.25 大野事務所コラム
シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第7回)
2022.05.20 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【内定取消しの法的性質と有効性】
2022.05.18 大野事務所コラム
「育児休業等中の保険料の免除要件の見直しに関するQ&A」が公開されました
2022.05.11 大野事務所コラム
パート有期法第13条・第14条への対応は出来ていますか
2022.05.11 これまでの情報配信メール
育児休業等中の保険料の免除要件の見直しに関するQ&A
2022.04.27 大野事務所コラム
シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第6回)
2022.04.26 これまでの情報配信メール
労働保険の年度更新および「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」について
2022.04.22 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【同一労働同一賃金とは】
2022.04.20 大野事務所コラム
「多様化する労働契約のルールに関する検討会報告書」が公表されました
2022.04.13 大野事務所コラム
オレンジゲーム―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑱
2022.04.12 これまでの情報配信メール
育児・介護休業法関連の資料および令和4年度の雇用保険料率の変更について
2022.04.06 大野事務所コラム
シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第5回)
2022.04.01 法改正情報
法改正情報(2022年1月1日以降施行)
2022.03.30 大野事務所コラム
大企業、中小企業の定義について
2022.03.28 これまでの情報配信メール
女性活躍推進法の改正および年金手帳の新規交付の終了について
2022.03.25 ニュース
『労政時報』に寄稿しました【令和4年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(下・社会保険関係編)】
2022.03.23 大野事務所コラム
新しい育児休業制度と改正法施行日との関係
2022.03.18 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【副業・兼業への企業対応】
2022.03.16 大野事務所コラム
シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第4回)
2022.03.11 これまでの情報配信メール
各保険における令和4年度の保険料率の変更について
2022.03.10 ニュース
『労政時報』に寄稿しました【令和4年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(上・労働関係編)】
2022.03.09 ニュース
春季大野事務所定例セミナーを開催しました
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop