TOP大野事務所コラム通勤災害における通勤とは①

通勤災害における通勤とは①

こんにちは。大野事務所の岩澤です。

 

労災保険の裁決例を調べていると、通勤災害に対する不服申し立てが読み易く、しかも面白いと感じます。通勤という日常的な行為の説明であるからなのか、裁決集という堅苦しい文章でも、くっきりと情景が浮かんでくるので、結構すらすらと読み進めることができます。また、通勤はプライベートと仕事を直結する行為なので、請求人のプライベート部分を垣間見ることができ、このことが通勤災害というカテゴリの裁決を面白くさせているのでしょうか。

 

ということで、今回は通勤災害の裁決をご紹介したいと思います。ですが、その前に労災保険における通勤災害で問題となる点(不服申し立てのポイント)はどのようなものなのか、それから説明をしたいと思います。

 

使用者の支配・管理下で発生する業務災害と、使用者の支配・管理下にないところで発生した通勤災害は、同じ労災保険の補償の範囲ですが、異なる次元で発生する災害です。使用者が予防する手段も責任もない通勤という過程で生ずる災害に対して、公的な制度として、しかも補償の費用については使用者が負担するという制度を設ける以上、制度保護の対象とする通勤の範囲は絞り込まれ、限定されています。この限定された枠組みの中におさまっているのか、それともはみ出してしまっているのか、この点が通勤災害で問題となる点、すなわち争点となっています。

 

◆労災保険における通勤の定義◆

では、限定された通勤の定義とはどのようなものなのでしょうか。労災保険法第7条第2項・第3項において、以下のように定められています。

 

通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする。

一 住居と就業の場所との間の往復

二 厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動

三 第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)

 

 

 

労働者が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、第一項第三号の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。

 

 

この条文を整理、分解し、それぞれ詳細な説明を加えると次のようにまとめられ、これが通勤災害の限定された定義の輪郭と言えます。それではひとつひとつ説明していきます。

 

◆就業に関し◆

就業に関しとは、移動行為が、業務との密接な関連をもっているのかということを指し、これはつまり、1.移動先または移動前の業務は本当に業務だったのか、2.移動は出勤といえるのか、3.移動は退勤といえるのか、ということに分けることができます。以下、これらについていくつかの事例をまとめます。

 

1.移動先または移動前の業務は本当に業務だったのか

 

≪業務とみなされる≫

・所定の就業日に所定の就業場所で所定の業務を行うこと

・事業主の命令によって物品を届けに行く場合

・全従業員参加で、これに参加すると出勤扱いされる会社主催の運動会

・事業主命令の得意先の打ち合わせ、接待

 

≪業務とみなされない≫

・参加任意の会社主催の運動会

・事業主命令であるが労働者が拘束されないような同僚との懇親会、送別会

・労働組合大会への参加

 

 

2.移動は出勤といえるのか

 

≪出勤といえる≫

・所定の就業日に所定の就業場所で所定の開始時刻を目指す場合の寝坊による遅刻、あるいはラッシュを避けるための早出

・就業場所内で行う労働組合の集会に参加するため、1時間30分ほど早く出勤した場合

・昼休み中に帰宅し、午後の業務に就くための出勤

・出勤の途中で忘れ物を取りに帰っている移動

 

≪出勤とは言えない≫

・午後から業務開始のところ、午前中の運動部の練習に参加するために朝から住居を出る

・路面凍結を予想して、8時間早く出勤した場合

・出勤途中、交通事故で遅刻しそうになったため、会社の許可を得て休暇を取り、帰宅する途中

 

 

3.移動は退勤といえるのか

 

≪退勤といえる≫

・所定就業時間終了前に早退する場合

・業務終了後、事業場施設内で1時間30分ほど、労働組合業務を行った後の退勤

・昼休みの間の帰宅

 

≪退勤とはいえない≫

・業務終了後、事業所施設内で3時間サークル活動を行った後の帰宅

・業務終了後、取引先とのスナックで飲食、及び歓談後の帰宅

 

 

 

 

◆住居と就業の場所との間の往復◆

次に住居および就業の場所とは、労災保険上どのように定義されているのかを説明します。

 

1.住居とは

通勤の始点または終点となる住居とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、「就業のための拠点となるところ」と解されています。この「拠点となる」がポイントで、家族と一緒に住む場所はもちろん、単身赴任先のアパートや、通勤や業務の都合上、別のアパートを借りている場合のその場所等も認められています。交通事情や自然現象等の不可抗力で一時的な宿泊先も住居と認められています。反対に、友人宅から直接出勤する場合のその友人宅は「拠点」となっていないので住居とは認められていません。また、住居と通勤経路の境界線についても争点となります。通勤経路については一般公衆が自由に通行できるかどうかがポイントとなり、通常は玄関又は門が境界とみなされ、庭付き一戸建ての場合は門、マンション、アパートの場合は玄関の扉の外が通勤経路と住居の境界線となります。

 

 

≪住居と認められる場所≫

・親族の看病のために寝泊まりしている病院

・通常は寄宿舎に寝泊まりしている労働者の家族が居住する自宅

・残業のため宿泊した上司の家

 

≪住居と認められない場所≫

・私的な理由により一時的に泊まっていた友人、知人宅

・学校からアルバイトに向かう場合の学校

 

 

2.就業の場所とは

就業の場所については、就業の場所内であれば「業務災害」、通勤経路に入っていれば「通勤災害」という感じで、「業務」か「通勤」かの災害の種類が争われるのがポイントです。つまり、就業の場所と通勤経路の境界線はどこなのかということがポイントとなります。また、外勤業務従事者が特定の区域の複数の就業場所を受け持っている場合、就業場所間の移動は通勤にはならず、「業務中」と判断されます。つまり自宅から最初の就業場所までの移動、最後の就業の場所から自宅までの移動が通勤であり、その間にある就業場所間の移動は「業務中」ということになります。

 

 

≪就業場所での被災と判断されるケース≫

・退社時のタイムレコーダーを打刻後、会社内の階段を降りる際の被災

・会社が入っている共用ビルの共用施設部分での被災

 

≪就業場所でなく通勤途上での被災と判断されるケース≫

・会社が入っている共用ビルのビル関係者以外の不特定多数が利用する共用施設部分での被災

 

 

以上、今回はここまで。具体的な裁決の説明に入る前に、ポイントを掴んでいただきたく、労災保険における通勤の範囲を簡潔に説明しようと試みましたが、私の力量のせいか一回で終わることができませんでした。次回は残りの内容を説明します。

 

執筆者 岩澤

岩澤 健

岩澤 健 特定社会保険労務士

第1事業部 グループリーダー

社労士とは全く関係のない職を転々としておりましたが、最後に務めた会社が大野事務所の顧問先というご縁で入所することになりました。それからは、何もわからないまま全力で目の前の仕事に励んできました。
入所してから十数年、現在では「無理せず、楽しく、元気よく」をモットーに日々の業務と向き合っています。

数年前から、子供と一緒に始めた空手にドはまりしており、50歳までに黒帯になるという野望があります。
押忍!!

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