シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第12回)
本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに同社の了解を得て転載するものです。なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。
〇内部統制
前回(8/17掲載)に引き続き、内部統制システムの主要な要素を掲げる。
方針を具体的に展開する仕組みが、P(計画)D(実行)C(評価)A(改善)サイクルである。このプロセスを繰り返すことで組織的経営を支えるが、成否のカギは内部統制にある。
内部統制は、会社の方針を伝える仕組みなので、それを実現するためのPDCAサイクルは、経営理念をベースに事業計画を立て、予算を作成、その予算と実績とを比較分析することによって次の改善アクションへとつなげていく。
予算は羅針盤であり、常に会社方針とのかい離を修正しながら経営活動をコントロールできる。この一連のPDCAの流れが全社的「トップマネジメントのPDCAサイクル」と呼ばれるもので、個別業務におけるPDCAサイクルへとつながり、個別業務におけるPDCAサイクルを回すことによって具体的なアクションが起こされる。PDCAサイクルは、各サイクルが別個に独立して存在するものではなく、経営理念から個別業務までを貫く一連の流れとなって、全体として会社の方針を実現していくものである。
7.内部統制のさらなる効果
内部統制というのは不正防止を越えて、もっと広い意味でのリスク管理の仕組みになりうる。何処にリスクがあるかを知るには、業務の組織的把握なしには困難である。リスク管理は重要な経営判断要素であり、上場会社の有価証券報告書には事業等のリスクという項目がある。外部環境・市場の動向等に係るリスクに始まり、特定の人物への依存、天災・災害・事故、特定の販売先・仕入先への依存、国・地方の法的規制など数多くがリスクとして認識されている。最近では、時間外労働や名ばかり管理職、セクハラ・パワハラなどの労務リスク、反社会的勢力との取引リスク、ネット社会の浸透とともに増大する風評リスクなど、より一層広い意味でのリスク管理戦略が必要である。
8.ポイントは組織における権限分散の確保
(1)組織単位での牽制機能
例えば、営業部門が品質リスクを軽視して売上至上主義に陥らないように、品質管理部が無謀な受注拡大を制御できることが重要である。このような牽制機能が発揮できるような組織設計が必要であり、品質低下に起因する不測のリスクを低減しなければならない。一般的な注意点として、次のような点が大切である。
①職務分掌及び職務権限を規程化して明確にする。
②主要な管理職は兼務にせず、個別に配置する。
従って、営業部長の品質管理、製造あるいは総務の部長兼務など組織のヨコの兼務は原則として認めない。部長が課長を兼務などタテの兼務は2階層程度までなら認める余地がある。
③組織上、ライン部門とスタッフ部門を明確にして、異質な職務を混在しない。職責の不明確化と恣意的活動の余地を拡大して組織の混乱の原因になることが多い。
④規模拡大のスピードと管理体制整備が著しく整合性を欠く場合、不正・誤謬が生じる可能性ばかりでなく、管理体制不備に起因する成長の阻害要因ともなるリスクを認識しなければならない。
(2)職務単位での牽制機能
同一の担当者のみが行う職務は、不正や誤謬の原因となるので、別の者が定期的にチェックする仕組や職務の分担が必要となる。このために、職務と権限を明確に規程化し、例えば、金銭の記帳職務と入出金職務は独立分担させるべきである。
(3)組織の責任者配置と内部監査実施
部門長が不在となっているケースがあるが、これでは組織的経営はできない。組織単位と予算を連動し責任と権限に基づいた経営のためには、責任者を配置して業務を執行することが不可欠である。
また、権限を委譲して経営するには、責任と権限が適切に執行されているか、内部監査を実施する必要がある。
(4)社内諸規程の整備
組織的経営には共有となるルール、規程類の策定と適切な運用が求められる。会社の規模、業種、業態で異なるが標準的区分を示す。①基本規程(定款、取締役会、監査役会、株式取扱など)、②組織規程(組織図、職務分掌、職務権限、稟議など)、③人事関係規程( 就業規則、給与、退職金、考課、旅費、慶弔見舞金、社宅など)、④業務関係規程(予算、経理、原価計算、販売、購買、外注、在庫、資産、関係会社、内部監査など)、⑤その他(規程管理規程など)
いずれにせよ、内部統制の不備は、労務リスク、経営コストを増大させる。
以上
※次回(第13回)掲載日は、9月28日を予定しております。
シリーズ
本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに、同社の了解を得て転載したものです。
ガバナンスと内部統制およびコンプライアンスの意味と位置づけを確認し、会社の成長、価値の向上に貢献する「経営労務」について、15回にわたり本コラムにて連載させていただきました。
なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。
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