シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第7回)
本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに同社の了解を得て転載するものです。なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。
〇人材マネジメントの視点
1.要員管理の視点
採用から、入社、配属、人材育成、退職に至るまでの時系列プロセスで、まさに人材戦略のベースとなる視点である。保有人材を棚卸して、人材データベースの構築と積極的な活用が欠かせない。
ポイントは人材のデータベースであり、企業ステージにマッチした最適人材を把握し活用するために欠かせない。必要な能力を持った人材の把握がすべての前提になる。内部に適切な人材が見当たらない場合には、時間をかけて内部育成するか外部調達するかを考えなければならない。当然のことのようだが、意外にこの基本が整備されていないことが多い。
2.就業条件管理の視点
就業時間や賃金・福利厚生などの就業条件管理は、従業員の労働条件を直接規律するもので、法的にも強く規制されており、日常業務ではもっとも重要な人材マネジメントである。
ポイントは、時短勤務、有期契約社員など雇用形態に柔軟性を持たせ、労働環境の変化に対応できることだ。在宅勤務・サテライトオフィスなど就業形態の多様化を含め、大規模災害やパンデミックなどBCP(事業の継続性)への対応だけでなく、語学教育や留学などグローバル環境への自主的取組への支援も欠かせない。人材は育てると同時に育つものでもある。
3.人間関係管理の視点
モチベーションの維持・向上など、職場の人間関係について、仕事の改善提案制度、従業員の相談窓口などを組織に組み込む視点が重要になる。
ポイントは、目標管理制度を活用したコミュニケーションの促進、ブラザー・メンター制度などの導入で協働意識を高め孤立感・疎外感を取り除くことや、企業風土診断や従業員意識調査で課題・問題点の早期発見に役立てることである。発見が早ければ、解決も早いものである。
4.組織管理の視点
経営の基本的機能である「営業」「管理」「製造」などへ、いかに人的資源を配分していくか、そのために、より具体的に組織構造や運営方法をどうするのかなどの組織編成からの視点である。
ポイントは、要員管理で述べた人材のデータベースを基に、人材ポ-トフォリオ(ゼネラリスト・スペシャリスト、総合職・一般職・専任職等区分)を作成して人材を洗い出し、現状を認識したうえで、経営上必要となる人材のタイプ分け、組合せの最適化を模索・実現することにつきる。マネジメント層の組織運営能力の開発に、この作業を並行して行わせることで、実践的人材配置技能の習得として活用することもできる。
5.人件費管理の視点
売上、付加価値のうち人材への配分割合や方法をどうするかという、人件費配分の仕組みに関する視点である。賃金制度は人材マネジメントの扇の要である。
ポイントは、過去の経営指標と人件費を分析し中長期的経営展望に連動した適正な人件費計画を立案することである。テクニカルには、業績に連動した賃金・賞与制度の導入など人件費への変動費部分の設定、退職金への確定拠出年金制度導入による長期的な人件費の固定費化リスクを避けることなども重要である。いずれにせよ可能な人件費総額の大枠を把握しない人材マネジメントは空論となる。
以下に、従業員数、平均賃金、付加価値率、労働分配率から必要売上高の簡易な算出方法を確認しておく。これらの数値は、既存企業であれば過去の実績から、また新規事業などでは統計数値の使用や望ましい数値を想定するなどして作成できる。現状の従業員数から、必要な売上高を把握しておくことは会社の現実の全体像を知るうえで大変有効である。
従業員数100人、1人年平均人件費600万円、付加価値率20%、労働分配率60%の場合の必要売上高を算出する(付加価値率=付加価値÷売上高)。
①人件費=従業員数×1人平均人件費=100人×600万円=6億円
②労働分配率=人件費÷付加価値⇒人件費=付加価値×労働分配率
※付加価値=人件費÷労働分配率=6億円÷60%=10億円
③必要売上高=付加価値÷付加価値率=10億円÷20%=50億円
従って、この会社(付加価値率20%)の場合、平均人件費年600万円の従業員を100人雇用するには、50億円の売上を確保する必要がある。なお、人件費が仮に給与水準の1.2倍ならば、この企業の給与水準は、年500万円(=600万円÷1.2)となる。
6.労使関係管理の視点
労働組合等との適切な意思疎通や望ましい企業風土の醸成などを通じて、労使関係を管理していく視点である。人材戦略には集団的労働力の効果的な活用が欠かせない。
ポイントは、労使協議会を常設するなどオープンな労使関係を形成することであり、社員のライフプラン支援、意見交換会・懇親会等の実施で企業へのロイヤルティを高める施策を含めて、良好な労使関係を構築・持続する努力に尽きる。この関係は一朝一夕にできるものではなく、誠意をもって地道な協議を積み重ねる以外にない。
これまで述べた6つの視点は、会社の成長に応じた組織運用に適用できる。
以上
※次回(第8回)掲載日は、6月15日を予定しております。
シリーズ
本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに、同社の了解を得て転載したものです。
ガバナンスと内部統制およびコンプライアンスの意味と位置づけを確認し、会社の成長、価値の向上に貢献する「経営労務」について、15回にわたり本コラムにて連載させていただきました。
なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。
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