ニュース&コラムニュース&コラム

TOP大野事務所コラム育児休業終了時月変は奥が深い

育児休業終了時月変は奥が深い

【2026年4月30日更新】

 

こんにちは。大野事務所幕張オフィスの高田と申します。

複数メンバーによる持ち回りで担当することになりました本コラムですが、筆者の場合は、日常の労務相談や労働社会保険手続きの実務において直面した、身近なトピックを採り上げていきたいと考えています。

 

今回は、(通称)育児休業終了時月変は実に奥が深いということについて、実例を交えながらご紹介したいと思います。

 

  1. 1.育児休業終了時月変とは

 

育児休業終了時月変というのは、育児休業(以下「育休」)から復帰した場合に、復帰日(育休終了日の翌日)が属する月以後3か月間に受けた報酬の平均額に基づいて、4か月目の標準報酬月額(以下「標報」)を改定できる制度のことです。育休から復帰する際の標報は、女性であれば産休に入る前のものであることが多いのですが、復帰後は残業が減ったり時短勤務をしたりして産休前よりも給与が下がることがよくありますので、通常の月変よりも改定の適用を受けられやすくし、育児期間中の保険料負担を少しでも軽減しようとしたのが当制度のねらいとするところです。したがって、通常の月変と比較して、①1等級差でも改定可能、②1か月でも支払基礎日数が17日以上あれば改定可能(パートや短時間労働者の場合は異なる)、③届け出るか否かは被保険者の任意、といった点が当制度の特徴になっています。

 

2.育児休業終了時月変の実例

 

さて、我々社労士または会社の事務担当者は、育休からの復帰者が復帰から3ヶ月経過したところで、この育児休業終了時月変に該当するかどうかを検証します。そして、標報が1等級でも下がる場合には、当然届け出るべきものとして取り扱っていることが多いのではないでしょうか。つまり、届け出ない方がよい可能性について、普通は殆ど考えることはないのではないかと推察します。

 

以下、実例を挙げて考察してみます。

 

現行標報:30万円、復帰日:5月20日として、この方の5月~7月の給与が、5月:10万円、6月:30万円、7月:26万円だったとします。
5月は基礎日数が少ない関係で平均から除外されますので、6月と7月の平均から改定後標報は28万円と導き出され、従前よりも1等級下がることから、この場合は育児休業終了時月変(8月月変)の届け出を進めるのが是と判断されるのではないでしょうか。【図1】

図1

 

3.届け出をする場合としない場合とでの保険料の比較

 

ところが、ここで着目すべきは、6月と7月の給与の変動(減額)です。この原因について会社に確認したところ、7月からは育児短時間勤務の適用を受けており、基本給を時間短縮相応分減額改定したことが判明しました。

 

そうすると、7月は固定的賃金の変動月に当たりますので、7月~9月の平均に基づき10月の月変に該当する可能性が出てきます。もし仮に、8月と9月も7月と同額の26万円を受け取ることになれば、7月~9月平均から導き出される標報は26万円になることが予想されます。

 

しかし、ここで当初検証した育児休業終了時月変を届け出て、8月から標報28万円に改定されていたとすればどうなるでしょうか。この場合は、10月月変として導き出された26万円とは1等級差しか生じないために月変には該当せず、従前の28万円の標報が継続されることになります。

 

つまり、この事例についてまとめますと、
 A 育児休業終了時月変を届け出た場合には、8月から28万円となり当面継続する

 B 育児休業終了時月変を届け出ない場合には、8月と9月は30万円のままだが、10月から26万円となり当面継続する

となります。【図2】

 

図2

A、Bいずれにせよ、いつまでこの標報が継続するのかによっても状況は変わりますが、仮に翌年の8月までこのまま改定が行われないとした場合の今年8月から来年8月までの13ヶ月分の社会保険料(2026年4月現在協会けんぽ東京支部の健康保険料と厚生年金保険料の被保険者分合計で試算)を比較すると、Aの合計は516,516円、Bの合計は490,974円となり、Bの方が25,542円下がることが判りました。

 

4.給付を含めての比較

 

それでは、育児休業終了時月変を届け出ないBの方が得なのかというと、必ずしもそうだと短絡的に結論付けられないのがこの手続きの難しいところです。もし仮にAとBの状態が1年続いた後に次の子の出産のために出産手当金を受給することになれば、出産手当金の額は過去1年間の平均標報に基づきますので、標報が高い方が受給できる手当金も高いという結果になります。ざっくりと、出産手当金を98日分受給した場合の平均標報の2万円の差は、43,512円(20,000÷30×2/3×98)との試算結果となりました。そうすると、社会保険料と出産手当金の両方を合わせて総合的に考えると、Aを選択した方が保険料は高くなるものの、出産手当金がそれ以上に増えるので結果的にはAの方がお得という結果となりました。

 

5.まとめ

 

いかがでしたでしょうか。このような先々のことは、育児休業終了時月変を届け出る時点では誰にも(本人でさえも)分からないではないかとのご批判を受けそうです。まさにその通りです。

ただ筆者が申し上げたかったのは、育児休業終了時月変の計算結果において、1等級でも下がった場合には常に届け出た方がよいと短絡的に考えるのではなく、今回ご説明したような諸々の観点も踏まえた考察が必要であるということなのです。

 

出産・育児関連の手続きは非常に奥深く、筆者のように長年この仕事をしていても、次から次へと新たな事例に直面しては勉強させて頂いている日々です。今後も、このコラムの中で幾つかの事例をご紹介したいと思っています。

 

なお、今回のAとBの比較に際して、標報が下がらない方が将来の受取年金の計算上有利になるのではないかと思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、子が3歳までの養育期間中においては、申し出によりいわゆる養育期間特例の適用を受けられますので、標報が下がることによる将来の受取年金の減額はないという前提で考察しています。

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2026.09.12 ニュース
働き方・休み方改革取組事例について、定期健康診断等の診断項目の一部変更について
2026.09.11 大野事務所コラム
定年後の65歳までの継続雇用と雇止め
2026.09.01 大野事務所コラム
「大丈夫です。」は本当に大丈夫か?―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊽
2026.08.26 これまでの情報配信メール
令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について・熱中症対策事例について
2026.08.21 大野事務所コラム
年末年始手当は賞与?
2026.08.12 これまでの情報配信メール
基本手当日額および高年齢雇用継続給付金等の支給限度額変更、育児休業給付の申請手続きの見直し、産業医の辞任等に関する報告の義務化について
2026.08.11 大野事務所コラム
熱中症対策を改めて確認しましょう
2026.08.01 大野事務所コラム
賃金未払いに伴う遅延利息(遅延損害金)を考える
2026.07.28 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【労災保険の基礎知識―業務災害と通勤災害について(前編:業務災害)】
2026.07.28 これまでの情報配信メール
カスハラ対策および求職者等セクハラ対策の義務化について
2026.07.21 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【採用面接時に応募者の健康状態を確認しても問題はないか】
2026.07.21 大野事務所コラム
飲み会での事故は労災になるのか ~裁決例から見る「業務性」の判断~
2026.07.11 大野事務所コラム
業務災害による休業の最初の3日間に所定休日が含まれる場合の労基法上の休業補償の考え方は?
2026.07.10 これまでの情報配信メール
労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます
2026.07.01 ニュース
「ビジネスと人権」セミナー開催のご案内【2026年7月29日(水)】
2026.07.01 ニュース
当事務所スタッフが労務行政主催セミナーに登壇いたします【2026年7月29日(水)】
2026.07.01 大野事務所コラム
学ぶことを棄てる⁉ ―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊼
2026.06.30 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【健康診断について】
2026.06.26 これまでの情報配信メール
令和8年度の算定基礎届の提出について、熱中症の予防対策について
2026.06.21 大野事務所コラム
退職給付金って何?
2026.06.12 これまでの情報配信メール
同一労働同一賃金に関する施行規則と告示の改正、 特定在留カード等交付申請について
2026.06.11 大野事務所コラム
同一労働同一賃金関連の法改正動向
2026.06.01 大野事務所コラム
懲戒処分における併科と二重処罰を考える
2026.05.29 これまでの情報配信メール
社会保険適用拡大特設サイトリニューアル・保険料調整制度のご案内(令和8年10月施行)
2026.05.28 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【1か月単位の変形労働時間制の基本と運用上の留意点(後編:運用上の留意点)】
2026.05.21 大野事務所コラム
労災裁決例から読む~出来事は単体で評価されていない~
2026.05.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【私傷病休職の発令】
2026.05.14 これまでの情報配信メール
労働保険年度更新に係るお知らせ・通勤手当等の非課税限度額の改正について
2026.05.11 大野事務所コラム
【令和8年度地方労働行政運営方針】
2026.05.01 大野事務所コラム
対話と議論の違い―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊻
2026.04.27 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【1か月単位の変形労働時間制の基本と運用上の留意点(前編:制度の概要と導入のポイント)】
2026.04.25 これまでの情報配信メール
治療と就業の両立支援指針について
2026.04.21 大野事務所コラム
月給制における賃金支払基礎日数
2026.04.15 これまでの情報配信メール
障害者の法定雇用率引上げ・国民年金第1号被保険者の育児期間に係る国民年金保険料免除制度・法人の役員の被保険者資格の取扱いについて
2026.04.11 大野事務所コラム
2026年度法改正の動向(その2)
2026.04.01 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【在宅勤務の労務管理について】
2026.04.01 大野事務所コラム
月給日給者の平均賃金額を考える
2026.03.26 これまでの情報配信メール
健康保険・厚生年金保険における現物給与価額の改正について・雇用保険料率、労災保険率について
2026.03.21 大野事務所コラム
労災裁決例から読む「叱責」と「パワハラ」の境界線
2026.03.19 ニュース
2026春季大野事務所定例セミナーを開催いたしました
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop