定年後の65歳までの継続雇用と雇止め
こんにちは、大野事務所の土岐です。
今回は、日々のご相談事例の中から、高年齢者雇用安定法(以下、高齢法)で定められている「65歳までの雇用を確保する義務」と有期雇用契約の契約期間満了による雇用契約の終了(雇止め)との関係について採り上げます。
1.高齢法9条の確認
高齢法第9条は、事業主に対し、①定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の廃止のいずれかの措置により、65歳までの雇用を確保する義務を課しています。
これに違反すると行政から指導や勧告を受けたり、会社名を公表されたりすることがあります。多くの企業では①または②を採用されている例が多いと思われますところ、②に関しては、高齢法により「個々の労働契約の内容」までを直接決めているわけではありません。雇止めの場面では、その運用が法律の趣旨に反していれば違法と判断され、問題になります。
2.経過措置終了後の現状
以前は労使協定を結ぶことにより、継続雇用の対象者を一定の基準で絞り込むことが認められていましたが、この仕組みは2025年3月31日で終了しました。現在は原則として、希望する方全員が65歳までの継続雇用の対象です。
そのため、更新基準自体を設けることは問題ありませんが、その基準が実質的に契約更新希望者を排除するためのものである場合には、法律の趣旨に反すると判断されるリスクがある点に注意が必要です。
3.継続雇用しないことができるのはどんな場合か
この点、厚生労働省のQ&A(Q1-1)では、継続雇用制度は希望者全員を対象とする必要があるとしたうえで、「心身の故障で業務に耐えられない」「勤務状況が著しく不良で職責を果たせない」など、就業規則の解雇事由・退職事由(年齢によるものを除く)に該当する場合には、継続雇用しないことができるとされています。
3.1年ごとの契約更新をする場合の具体的な要件
なお、定年後の再雇用を1年ごとの契約更新という形にすること自体は認められています。ただし、Q&A(Q1-4)では、次の2点が必要とされています。
|
(1)65歳を下回る上限年齢を設定しないこと (2)65歳までは、原則として契約が更新されること(ただし、先ほどの解雇事由・退職事由に該当するなど、客観的に合理的な理由がある場合は、更新しないことも認められる) |
つまり、「原則は更新、例外的に解雇事由・退職事由に該当すれば更新しない」ということとなっており、この例外の範囲を広げることはできない、という点がポイントといえます。
4.通常の解雇・雇止めと基本的に考え方は同じ
就業規則の解雇事由・退職事由に該当する場合であっても、それだけで自動的に契約を終了できるわけではなく、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が求められます。この考え方は、通常の解雇や、期間満了時の雇止めの場合と基本的に同じです。
働く中で実際に健康面やパフォーマンスに問題が出てきて契約を更新しないと判断したというケースについても、その理由が就業規則の解雇事由・退職事由に照らして妥当と考えられる場合には、更新しないこと自体は可能と考えられます。ただし、争いになった場合には会社側と労働者側の主張が対立し、結論は個別の事情によって変わりますので、「この理由であれば必ず問題ない」と一律に言えるものではない、という点には注意が必要です。
この点、本コラム執筆時点における最近の判例(森ビルゴルフリゾート事件 東京地裁令和7年5月30日)では、労働契約法第19条第1項第2号(※)による労働契約の更新について、解雇事由または退職事由に該当しない限り、定年後の再雇用の上限まで契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があること、会社からの再雇用契約の更新の拒否は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないことから、労働契約上の権利を有する地位にあるとして、雇止めは無効としています。
(※)労働者が有期労働契約の締結の申込みをした場合に使用者による当該申込みを拒絶することに客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすとされる定めです。本条第2号はいわゆる「合理的期待」と言われるものです。
おわりに
以上の通り、定年後の継続雇用制度における雇止めは慎重な対応が求められます。トラブルを未然に防ぐためには、雇止めの場面になって初めてその理由を説明するのではなく、日頃から求める水準(業務遂行能力、勤務態度、健康状態など)を本人に明確に示し、面談や評価の記録を継続的に残しつつ、解雇・退職事由との整合性についても整理しておくことが重要と考えます。評価の根拠が曖昧なまま更新を重ねてしまうと、いざ更新を見送る段階になって、なぜ今回に限って基準を満たさないと判断したのかを合理的に説明することが難しくなり、争いに発展してしまうリスクが高まるおそれがあると思われます。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者雇用確保措置関係)
執筆者:土岐
土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在は主にアドバイザリー業務に従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2026.09.11 大野事務所コラム
- 定年後の65歳までの継続雇用と雇止め
- 2026.09.01 大野事務所コラム
- 「大丈夫です。」は本当に大丈夫か?―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊽
- 2026.08.26 これまでの情報配信メール
- 令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について・熱中症対策事例について
- 2026.08.21 大野事務所コラム
- 年末年始手当は賞与?
- 2026.08.12 これまでの情報配信メール
- 基本手当日額および高年齢雇用継続給付金等の支給限度額変更、育児休業給付の申請手続きの見直し、産業医の辞任等に関する報告の義務化について
- 2026.08.11 大野事務所コラム
- 熱中症対策を改めて確認しましょう
- 2026.08.01 大野事務所コラム
- 賃金未払いに伴う遅延利息(遅延損害金)を考える
- 2026.07.28 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【労災保険の基礎知識―業務災害と通勤災害について(前編:業務災害)】
- 2026.07.28 これまでの情報配信メール
- カスハラ対策および求職者等セクハラ対策の義務化について
- 2026.07.21 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【採用面接時に応募者の健康状態を確認しても問題はないか】
- 2026.07.21 大野事務所コラム
- 飲み会での事故は労災になるのか ~裁決例から見る「業務性」の判断~
- 2026.07.11 大野事務所コラム
- 業務災害による休業の最初の3日間に所定休日が含まれる場合の労基法上の休業補償の考え方は?
- 2026.07.10 これまでの情報配信メール
- 労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます
- 2026.07.01 ニュース
- 「ビジネスと人権」セミナー開催のご案内【2026年7月29日(水)】
- 2026.07.01 ニュース
- 当事務所スタッフが労務行政主催セミナーに登壇いたします【2026年7月29日(水)】
- 2026.07.01 大野事務所コラム
- 学ぶことを棄てる⁉ ―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊼
- 2026.06.30 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【健康診断について】
- 2026.06.26 これまでの情報配信メール
- 令和8年度の算定基礎届の提出について、熱中症の予防対策について
- 2026.06.21 大野事務所コラム
- 退職給付金って何?
- 2026.06.12 これまでの情報配信メール
- 同一労働同一賃金に関する施行規則と告示の改正、 特定在留カード等交付申請について
- 2026.06.11 大野事務所コラム
- 同一労働同一賃金関連の法改正動向
- 2026.06.01 大野事務所コラム
- 懲戒処分における併科と二重処罰を考える
- 2026.05.29 これまでの情報配信メール
- 社会保険適用拡大特設サイトリニューアル・保険料調整制度のご案内(令和8年10月施行)
- 2026.05.28 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【1か月単位の変形労働時間制の基本と運用上の留意点(後編:運用上の留意点)】
- 2026.05.21 大野事務所コラム
- 労災裁決例から読む~出来事は単体で評価されていない~
- 2026.05.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【私傷病休職の発令】
- 2026.05.14 これまでの情報配信メール
- 労働保険年度更新に係るお知らせ・通勤手当等の非課税限度額の改正について
- 2026.05.11 大野事務所コラム
- 【令和8年度地方労働行政運営方針】
- 2026.05.01 大野事務所コラム
- 対話と議論の違い―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊻
- 2026.04.25 これまでの情報配信メール
- 治療と就業の両立支援指針について
- 2026.04.21 大野事務所コラム
- 月給制における賃金支払基礎日数
- 2026.04.15 これまでの情報配信メール
- 障害者の法定雇用率引上げ・国民年金第1号被保険者の育児期間に係る国民年金保険料免除制度・法人の役員の被保険者資格の取扱いについて
- 2026.04.11 大野事務所コラム
- 2026年度法改正の動向(その2)
- 2026.04.01 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【在宅勤務の労務管理について】
- 2026.04.01 大野事務所コラム
- 月給日給者の平均賃金額を考える
- 2026.03.26 これまでの情報配信メール
- 健康保険・厚生年金保険における現物給与価額の改正について・雇用保険料率、労災保険率について
- 2026.03.21 大野事務所コラム
- 労災裁決例から読む「叱責」と「パワハラ」の境界線
- 2026.03.19 ニュース
- 2026春季大野事務所定例セミナーを開催いたしました
- 2026.03.17 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【会社のSNS対策とモニタリング】
ニュース&コラム