賃金未払いに伴う遅延利息(遅延損害金)を考える
大野事務所の野田です。
この度の令和8年熊本地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
皆様の安全と被災地の一日も早い復興をお祈り申し上げます。
賃金請求権の消滅時効期間が3年となってから、早いもので6年が経過しました。毎年のように過去分の未払い賃金に関する相談を受けますが、そのたびに話題にあがるのが遅延利息(遅延損害金)です。実務上、遅延利息を支払うケースは少ない、むしろ稀と言えますが、今回は遅延利息の法的位置づけや意味合いについて確認します。
1.賃金請求権の消滅時効期間(労基法115条)
民法改正により、2020年4月1日以降に支払期日が到来する賃金請求権の消滅時効期間を、従来の2年から5年に延長しつつ、当分の間その期間は3年とされており、2026年時点においても3年となっています。
2.在職中と退職後で利率が異なる
労働基準法第24条により、賃金は「全額・毎月・一定期日払い」が原則となっており、支払期日を過ぎた場合、民事上の債務不履行となります。このときに発生するのが遅延利息であり、利率は以下のように整理されます。
在職中 ➡ 年3%(令和8年4月1日~令和11年3月31日の民事上の法定利率)
退職後 ➡ 年14.6%(賃金の支払の確保等に関する法律)
退職後の高い利率は、使用者に対して速やかな清算を促す政策的な意味合いを有しており、いわば制裁的性格を持つ点が特徴といえます。在職中は、あくまで一般の金銭債務と同様の扱いとなり低い利率が適用されますが、退職後は生活基盤を失った労働者保護の観点から、強いペナルティが企業側に課される構造となっています。同じ未払い賃金であっても、退職を境に利率が約5倍に跳ね上がる点は、実務家として押さえておくべきポイントといえます。
3.具体的事例
例えば、3月31日支払予定の賃金10,000円が、実際には5月31日に支払われ、当該労働者が4月30日に退職していたケースを見てみます。この場合の遅延期間・日数は「本来の支払日の翌日から実際の支払日の前日まで(本ケースでは4月1日から5月30日まで)」となり、これを在職中と退職後に分けます。
在職中の期間(4月1日〜4月30日の30日間) ➡ 年3%
退職後の期間(5月1日〜5月30日の30日間) ➡ 年14.6%
遅延利息の計算式は「未払賃金額 × 利率 × 遅延日数 ÷ 365日(閏年366日)」となるため、以下となります。
在職中 : 10,000円 × 3% × 30日 ÷ 365日 = 24.6575円(約25円)
退職後 : 10,000円 × 14.6% × 30日 ÷ 365日 = 119.999円(約120円)
このケースでは、145円の遅延利息が発生することとなります。
金額自体は小さいと感じるかもしれませんが、未払い賃金額が高額であったり、支給対象件数が多かったり、支払時期が異なったりする場合には軽視できません。

4.まとめ
実務上のポイントとしては、遅延利息は自動的には支払われないという点です。法的には当然に発生するものですが、企業・使用者が自主的に支払わない限り労働者からの請求が必須となります。なお、支払い遅延の原因が残業時間の有無など賃金の認定争いによる場合でも、最終的に未払いが確定すれば遡って利息が発生する点にも注意が必要です。
知人弁護士の話では、これまでは未払い賃金請求時に遅延利息を請求されることはほとんどなかったようですが、昨今はAIを活用して労働者自身が残業代や慰謝料を請求する「AIセルフ訴訟」が増加しているとのことです。今後は請求額が少額のため弁護士に依頼することがなかったような少額訴訟が増える可能性があり、請求期間の延長(5年)と共に遅延利息の支払いが当然となる時代がやってくるかもしれません。
執筆者:野田
野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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