最低賃金の引き上げと賃上げを考える
代表社員の野田です。
2017年度の東京都の最低賃金額は958円でしたが、2022年度は1,072円となっています。東京都に関しては5年間で114円の引上げとなりましたが、近年の急激な引上げを受け、賃金額設定に問題がないか確認される企業様が増えていることから、今回は最低賃金の対象となる賃金や計算方法について確認します。
○最低賃金の対象となる賃金
最低賃金法第3条にて「最低賃金額は、時間によって定めるものとする」としています。加えて同法第4条3項では算入しない賃金について規定しており、以下のものが除外されます。
- ①所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外・休日・深夜割増賃金)
- ②精皆勤手当、通勤手当、家族手当
- ③臨時に支払われる賃金、1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(結婚手当、賞与など)
対象となる賃金は所定労働時間に対し支給するものであり、所定外労働時間に対し支給する賃金(割増賃金)や臨時の手当、賞与などは除外されます。よって、固定残業・みなし残業手当や基本給等に含まれるみなし残業相当額については、毎月定額で支給する場合でも計算対象から除外します。
近年、選択制確定拠出年金を導入される企業様が増えていますが、毎月掛金を拠出する方については、拠出額を除いた賃金で算出する必要があります。月給200,000円の方が毎月40,000円の掛金を拠出すると対象額は160,000円となります。月平均所定労働時間数が160時間である場合、時給額は1,000円となり、最低賃金額1,072円(東京都)を下回ってしまいます。
○最低賃金の計算方法・計算式
最低賃金(時給)は支給形態ごとに以下の式により算出します。
①時間給制の場合
時間給 ≧ 最低賃金額(時間額)
②日給制の場合
日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
③月給制の場合
月給 ÷ 1箇月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
- ④出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合
歩合給÷支給月の総労働時間数 ≧ 最低賃金額(時間額)
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金(歩合給)の総額を、当該賃金計算期間に出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除して時間当たりの金額に換算し、最低賃金額(時間額)と比較します。
⑤上記①~④の組み合わせの場合
基本給が月給制で、各種手当が日給制などの場合は、それぞれ上記③、②の式により時間額に換算し、それを合計したものと最低賃金額(時間額)を比較します。月給160,000円(月平均労働時間数160時間)と歩合給30,000円(総労働時間数が200時間)が支給された場合は以下となります。
月給:160,000円 ÷ 160時間 = 1,000円
歩合給:30,000円 ÷ 200時間 = 150円
1,000円 + 150円 = 1,150円 ≧ 東京都2022年最低賃金額(1,072円)
上記の通りですが、歩合給が0円の月に関しては最低賃金額を下回るものとなります。
また、運行手当、特殊作業手当、在宅勤務手当などのように、特定の作業・業務に従事した日にのみ支給される手当(日額)がある場合も留意しなければなりません。日額手当については上記②の式により時給額を算出しますが、事例の月給160,000円(月平均労働時間数160時間)のように時給換算1,000円である場合、手当支給日については最低賃金額を上回るとしても、手当不支給日については最低賃金額を下回るものとなります。
○おわりに
現在(2023年度)の地域別最低賃金額は、全国平均で961円となっていますが、2025年度を念頭に平均1,000円以上を目指すとのことですので、今年もそれなりにアップするものと思われます。冒頭で5年間の引上げが114円とお伝えしましたが、これを月額(月160時間)換算すると、月額153,280円(958円×160時間)の給与額が18,240円(114円×160時間)引き上げられ、月額171,520円(1,072円×160時間)に変更したことになります。
また、賃金構造基本統計調査によれば、2000年の大学初任給は196,900円でしたが、2022年の大学初任給は225,400円となっており、22年間で28,500円のアップとなります。これを年平均に換算すると毎年1,295円アップしたことになりますが月160時間で割り戻した場合、毎年時給額で8円のアップということになります。
なお、OECD(経済協力開発機構)が公表している平均年収に関するデータによれば、2000年からの20年間でアメリカやアイスランドでは約25%上昇、ルクセンブルクやスイスでは約15%上昇、韓国では40%以上も上昇しているのに対し、日本はわずか0.4%の上昇に留まっています。その結果、OECD加盟国35か国中の順位は2000年時点で17位でしたが、2021年には23位(韓国は19位)となっています。
最低賃金額の引き上げは、正規・非正規の格差是正の意味合いが強いところではありますが、燃料費・光熱費の高騰、食糧費の値上げが始まっている状況下において月給者のベースアップは必要不可欠であると考えます。これまでのように何もせずにいると、OECD加盟国中で最下位となる日がやってくるかもしれません。
執筆者:野田
野田 好伸 特定社会保険労務士
代表社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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