シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第14回)
本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに同社の了解を得て転載するものです。なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。
〇経営労務監査
人材マネジメントの継続的改善のための効果的なチェックの手法として「経営労務監査」という手法をご紹介したい。経営および人材マネジメントの適切な運営のためには不断のチェックが不可欠であるが、その効果的なチェック手法として経営労務監査では、人材マネジメントの整備、運用状況の確認、評価を行う。
1.「経営労務監査」の視点と構成
経営労務監査は、企業とそこで働く人々が共に成長して行くことを基本的な視点として、経営戦略と人材マネジメントとが効果的に連動しているか否かをチェックする手法である。
全体の構成は、「労務コンプライアンス監査(人材マネジメントの諸制度、規程類の整備状況や労働法令への適応状況等をチェック)」、「人材ポートフォリオ監査(人材配置の適切性に関する状況等をチェック)」を2本の柱とし、これに従業員の職務遂行についての「従業員意識調査」を加えた3部で構成する。
2.労務コンプライアンス監査
組織的経営では、経営者や社員が変わっても、仕組みがうまく機能するようなルール作りが求められる。将来にわたって継続的かつ効果的に機能していく人材マネジメントの仕組みが必要になる。この仕組み作りは、その骨格となる組織、職務分掌、職務権限体制の確立と人材マネジメントの制度、規程・協定・法定帳簿などの整備を通して行われる。人材戦略の立案にあたっては、まず、現時点における人材マネジメントの仕組みを正確に認識し、解決すべき課題を把握するために、これらの整備状況などをチェックする。これが労務コンプライアンス監査である。
労務コンプライアンス監査では、会社の基本戦略、人事の基本方針を確認した上で、制度運用上の問題点や違法とはならないまでも、リスクが大きく望ましくないと考えられる点などの洗い出しを行う。その狙いは、会社が経営目的を達成するために行う事業活動について、裏付けとなる制度や規程(経営執行規程と労働遂行規程)のチェックを行うことで、組織的経営のための人材マネジメントの適正状況を確認することにある。適正でなければ持続できない。
労務コンプライアンス監査では、以下の基本的な10種の規程を一定の基準に基づき評価し監査報告書を作り提言を行う。
①組織規程、②組織図、③職務分掌、④職務権限、⑤職務記述書、⑥就業規則(賃金、退職金など付属規程を含む)、⑦労働者名簿 ⑧賃金台帳、⑨労使協定(人事労務関連のもの)⑩労働協約(組合がある場合)
3.人材ポートフォリオ監査(+従業員意識調査)
会社は、一定の経営目的のために、「ヒト」「モノ」「カネ」の経営資源を投下し、事業活動を展開する。このうち「ヒト」という経営資源の会社組織での活用状況が、その経営目的・経営計画に照らして適切かどうかをチェックしていく作業が「人材ポートフォリオ監査」である。
経営システムは、業種特性、市場や競争のルールによって異なるし、組織の運営方法も異なる。組織運営について、例えばスポーツの野球、サッカー、ゴルフを参考に考えてみると、ゲーム特性とルールの違いから、それぞれの特徴が整理できる。野球は、一定の守備範囲と定まった役割(投手、内野手、外野手、打撃など)があり、役割範囲が比較的明確に定められた伝統的な階層組織、製造業などが近い。サッカーは、広範囲な攻守ミックスで機動的なポジショニングでの組織運営であり、状況に対応した小集団活動のサービス業、小売業の運営が近い。ゴルフは、個人(キャディのサポートを伴い)の力量と道具の活用で、さまざまな自然条件下(平地、山岳、リンクス)で攻略・実行・成果をあげるもので、研究開発、企画、コンサルティングなどが近い。
また、雇用との関係で組織構造を考えると、正社員中心の同質的な階層組織から、非正規を含む多様な雇用形態へとミックスした組織へと変わり、組織構造が就業形態と密接な関係があることが分る。これは市場の変化が仕事・雇用の変化をもたらした結果である。このような雇用管理の構成要素相互の関連を整理しておくことも大切である。
いずれにせよ、人材ポートフォリオ監査では、業界特性と会社ステージを前提に、組織の特徴や職制の階層はどうか、編成は部制か、事業部制か、持株会社のカンパニー制かなど、まず組織全体を大まかに概観して把握する。そのうえで、組織図と人員配置データから業務の効率性を評価するために、人員、人件費、労働時間、売上、生産性などを客観的な数値指標で労務諸表を作成する。これらは人材バランスシートと労務プロセスシートからなり、前者は一定時点での保有人材の構成を表し、後者は一定期間内の人材の異動と結果を表す。これに加えて従業員の意識調査を行い、主観的な雇用満足度を調査し、客観的数値での労務の効率性との相関を検討することができる。人材ポートフォリオ監査は、優れた業績と成長をもたらすための、人材配置の最適化の諸条件の探求を試みる手法でもある。
以上
※次回(最終回)掲載日は、11月9日を予定しております。
シリーズ
本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに、同社の了解を得て転載したものです。
ガバナンスと内部統制およびコンプライアンスの意味と位置づけを確認し、会社の成長、価値の向上に貢献する「経営労務」について、15回にわたり本コラムにて連載させていただきました。
なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。
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