労働基準法における「労働者性」の判断基準
こんにちは、大野事務所の土岐です。
2021年も残すところあと僅かとなりました。皆様におかれましては年末の忙しい日々をお過ごしのことと思います。
さて、前回のコラムでは「副業・兼業における労働時間制度が異なる場合の労働時間の通算方法」に関して、一方はフレックスタイム制を適用し、他方は原則の労働時間制度を適用する場合の労働時間の通算の具体例について厚生労働省のQ&Aを用いて確認しました。
最近はお客様から副業・兼業の解禁・推進に向けたご相談をいただくことが増えてきたのですが、副業・兼業先も労働者となる場合の労働時間の通算のことを考えますと、労使双方(特に会社側)にとって労働時間の把握および給与計算への反映等、実務的にはとても煩雑で負担が大きいということ、また管理面の煩雑さを解消するための「管理モデル」に関しても、予め労働時間の上限を定める必要があるといった点などから導入がなかなか難しいということをお聞きします。また、副業・兼業先では労働時間の通算を要しない業務委託・請負等(以下、業務委託等)による契約形態としてもらいたい、というご意見をよく伺います。
さて、業務委託等と雇用の違いについてはきちんと整理をしておく必要があるわけですが、副業・兼業の場合に限らず、よくご質問をいただくところです。基本的な部分にはなりますが、今回は「労働基準法における『労働者性』の判断基準」について確認したいと思います。
業務委託等について簡単に述べますと、発注者が受注者に対して業務の完成を目的としているのが請負契約、業務の遂行を目的としているのが業務委託契約といえるでしょう。発注者から受注者への指揮命令などを行わない適正な業務委託等であればよいのですが、形式的に業務委託等の契約であったとしても、その実態が雇用契約と同視できる場合には、実態に基づいて雇用契約であり労働者であると判断され、労働基準法等が適用されることになり、諸問題が生じるわけです。
この点、労働基準法第9条では「労働者」を「事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しており、労働基準法の「労働者」に当たるか否か、すなわち「労働者性」は以下の2つの基準で判断されることとなる、としています(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(令和3年3月26日)」(以下、ガイドライン)参照)。
<労働基準法における「労働者性」の判断基準>
・労働が他人の指揮監督下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
・報酬が、「指揮監督下における労働」の対価として支払われているかどうか
<出典:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン 概要版(パンフレット)>
また、上記2点の詳細に関して、ガイドラインに「労働基準法における『労働者性』の判断基準(昭和60年12月19日労働基準法研究会報告)」を用いて示されています。以下にガイドラインの内容をまとめましたので、ご参照ください(画像をクリックすると拡大できます)。
スペースの関係上ここまでとさせていただきますが、ガイドラインでは上記に加えて「労働基準法における『労働者性』の実際の判断事例」や「労働組合法における『労働者性』の判断要素」についても述べられています。その他にもフリーランスを活用する場合の情報整理の参考になるものと思われますので、パンフレットと合わせて一度確認しておくとよろしいのではないかと思います。
さて、本コラムは今年については今回分をもって最後となります。お読みくださった皆様に改めて御礼申し上げます。
今年は労働法の分野においては実務への大きなインパクトがある法改正は少なかったように思いますが、来年は4月・10月の育児・介護休業法の改正のほか、育児休業中の社会保険料免除の仕組みの変更など、実務にも影響を与えると思われる改正がいくつか控えております。改正内容の理解や従業員の皆様への周知が重要になるものと思いますので、来年も本コラムの他、ホームページを通じた情報発信に一層注力してまいります。
本年もありがとうございました。
<参考URL>
■厚生労働省 フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
執筆者:土岐

土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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