有期労働契約から無期労働契約への転換希望者は?
こんにちは、大野事務所の土岐です。
以前に無期転換ルールの特例に関するコラムを掲載しました。こちらに関連して、今回は厚生労働省が実施した「有期労働契約に関する実態調査(個人調査)」の中から、無期転換ルールに関する調査結果を採り上げます。
この「有期労働契約に関する実態調査(個人調査)」は、「無期転換ルールの施行後の有期契約労働者および契約期間の定めがある働き方から定めがない働き方に転換した無期契約労働者に関する就業の実態、契約形態の実態、無期転換ルールの活用状況等を把握すること」を目的として実施されたものです。令和3年1月15日から2月16日の期間に、「令和2年有期労働契約に関する実態調査」に回答した事業所で「有期契約労働者として働いている方」および「有期労働契約から無期労働契約に転換して働いている方」を対象に、対象者数10,016人(うち有効回答数は6,668人、有効回答率66.6%)に対して行われ、約20の問に回答するものとなっています。
さて、無期転換ルールに関する調査結果(いずれも全数)の中から、次の3つを見ていきましょう。
- ●無期転換ルールに関する知識の有無、内容
1.無期転換ルールについては何も知らない、聞いたことがない … 39.9%
2.無期転換ルールに関して知っている内容がある(知識の内容のうちどれか1つでも知っている※(注)) … 38.5%
- 3.無期転換ルールの内容はどれも知らないが、無期転換ルールという名称は聞いたことがある … 17.8%
- ※(注)調査結果では「無期転換ル-ルが適用されるのは、平成25年4月1日以降に開始(更新)された有期労働契約である」など、無期転換ルールに関する具体的な内容が複数回答として挙げられています。
「1. 無期転換ルールについては何も知らない、聞いたことがない」が約4割という結果には驚きました。「3. 無期転換ルールの内容はどれも知らないが、無期転換ルールという名称は聞いたことがある」と合わせると、「無期転換ルールの内容を知らない」とする回答は約6割と読み取れます。筆者の感覚的には「有期労働契約が5年を超えて更新された場合に、有期労働契約者からの申込によって無期労働契約に転換する」ことは大多数の方々がご存知なのではと思っていましたが、それほどでもないようです。
- ●無期転換の希望の有無
1.無期転換することを希望する … 18.9%
2.無期労働契約への転換は希望しない(有期労働契約を継続したい) … 22.6%
3.わからない … 53.6%
「1.無期転換することを希望する」と回答した割合は2割に満たない一方で、「2.無期労働契約への転換は希望しない(有期労働契約を継続したい)」と回答した割合は2割超という結果です。全数では「わからない」が53.6%を占めていましたので、無期転換申込権の取得が近いあるいは取得後の場合には、もう少し無期転換希望の有無が見えてくるのではないかと思いました。この点について「有期契約労働者の通算勤続年数別」で見てみますと、勤続3年~5年以内では無期転換を希望する割合が3割程度となる一方、5年超となると無期転換を希望する割合は1割程度まで落ち込んでいます(【資料1】)。このことから、無期転換ルールの活用についてあまり積極的に捉えられていないと読み取れるのではないかと思います。
<出典:厚生労働省 多様化する労働契約のルールに関する検討会第6回資料(抜粋)>
- ●無期転換を希望しない理由(最大3つ、複数回答)
- 1.高齢だから、定年後の再雇用者だから … 40.2%
- 2.現状に不満はないから … 30.2%
- 3.契約期間だけ無くなっても意味がないから … 20.5%
- 4.辞めにくくなるから(長く働くつもりはないから) … 15.9%
- 5.責任や残業等、負荷が高まりそうだから … 15.8%
回答の割合が高い上位5つは上記の通りです(資料2)。
まず、「1.高齢だから、定年後の再雇用者だから」について、この状況にある当事者の方々の回答と思われますが、約4割の方々が無期転換を希望しない理由として挙げている、という事実は参考になるのではないでしょうか。次に、「2.現状に不満はないから」に関しては、上記の無期転換の希望の有無と関連すると思われます。これまで反復継続して更新されてきたことを考えますと、有期であろうと無期であろうと不満はない、という結論に至るのでしょう。そして「3.契約期間だけ無くなっても意味がないから」に関しては、無期転換ルールの仕組みへの冷ややかなご意見といえるかと思います。続いて「4.辞めにくくなるから(長く働くつもりはないから)」および「5.責任や残業等、負荷が高まりそうだから」に関しては、ご本人の仕事に対する考え方が反映されているといえますでしょうか。
<出典:厚生労働省 多様化する労働契約のルールに関する検討会第6回資料(抜粋)>
今回は以上3つをご紹介しました。こちらの調査結果ではその他にも様々な結果がまとめられており、ボリュームのある内容ではありますがざっと目を通すだけでも数字で情報が整理されていますので、興味のある方はご覧いただければと思います。
ところで、無期転換ルールの対応に際して過去にお客様からよくご質問いただいたこととして、有期雇用契約の通算雇用年数(例えば5年など)の上限設定の状況が挙げられます。この点についても掲載されており、調査結果によれば「上限がある」の割合は52.5%と、うち割合の高い順に「3年超~5年以内(29.6%)」、「1年超~3年以内(25.6%)」、「10年超(18.6%)」という結果でした。無期転換を意識してのことと思われる「3年超~5年以内」とする割合が高い一方、どのような理由からなのかはわかりませんが(有期労働契約に関する定年の定めなどでしょうか)、「10年超」とする企業も一定数あるということです。
労働契約法に無期転換ルールが盛り込まれてから約8年が経過し、厚生労働省の「多様化する労働契約のルールに関する検討会」では無期転換ルールについて論点整理を行っているところです。今後、無期転換ルールは何かしらの制度改定があるものと思われますので、引き続き動向を見ていきたいと思います。
本日も最後までお読みいただきありがとうございました。
<参考URL>
■令和3年有期労働契約に関する実態調査(個人調査)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/172-3a.html
■厚生労働省 多様化する労働契約のルールに関する検討会 第7回資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_21121.html
執筆者:土岐

土岐 紀文 特定社会保険労務士
第3事業部 部長
23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。
現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。
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