ニュース&コラムニュース&コラム

TOP大野事務所コラム「退職代行」の次は「休職代行」?

「退職代行」の次は「休職代行」?

こんにちは。大野事務所幕張オフィスの高田です。

 

最近では「退職代行サービス」がすっかり市民権を得た感があります。今この記事をお読み頂いている皆様の中にも、実際に代行業者とやり取りをしたことのある経営者や人事労務担当者の方々が多くいらっしゃることと思います。

 

ところが、最近はさらに一歩進んで、「休職代行サービス」なるものまで登場しています。
「メンタル不調のため休職したいけど、自分からは言い出せない」「メールやLINEのやり取りさえ苦痛」・・・そんな従業員の代わりに休職の意思を会社へ伝達するサービスです。
経営者の皆様の中には、「そんなことも自分の口で言えないのか」「だから今時の若者は・・・」と思われる方もいらっしゃることでしょう。ですが、筆者としては、この現象を「だから今どきの若者は・・・」で片付けようとするのではなく、これからの時代の労務問題として捉えるべきであると考えています。

 

1.なぜ「休職代行」が生まれたのか

 

「退職代行」が広まった背景には、会社に退職を申し出ることさえ心理的に難しいと感じている労働者が、このサービスが普及する以前から(特に若い年代層を中心に)潜在的に多くいた上に、現実的に増えているという実態があるように思われます。利用料金(2~3万円程度が相場)は決して安くないと筆者は思いますが、実際にこのサービスを利用する方々にとっては、それだけの料金を支払ってでも退職の意思表示を誰かに代わってもらいたいという心境なのでしょう。

 

これまでの「退職代行」の方は、退職が実現してしまえば会社との関係は終了しますので、ある意味ではシンプルなサービスだといえます。一方、「休職代行」の方は、少なくとも休職期間中は会社との関係が継続しますし、復職の可能性があることも考慮すると、会社との関係を壊してしまうわけにもいきません。具体的には、「診断書の提出」「休職期間の確認」「定期的な経過報告」「休職延長の手続き」「復職時期の調整」といったやり取りが、従業員と会社との間で生じます。裏を返せば、これらの手続きを従業員自らが行わなければならないとすれば、休職の手続きは、退職以上に心理的ハードルが高いといえるのかもしれません。

 

実際に代行業者のホームページには、「会社からの電話の着信で動悸がする」「社名を見るだけで吐き気がする」・・・といった利用者の声が紹介されています。このような状況にまで追い込まれてしまった従業員にとっては、休職代行は高い料金を支払ってでも利用する価値のあるサービスなのだと思われます。

 

2.休職は労働者の当然の権利か

 

労働基準法には、休職制度を義務付ける規定はありません。すなわち、休職制度は法律上の要請に基づいて設けているものではなく、あくまでも企業が就業規則において任意かつ独自に定めている制度です。したがって、「休職を認める要件」「休職期間の長さ」「休職期間中の賃金等の取り扱い」「休職期間中に休職者が行うべき手続き」などは、企業ごとに異なります。

 

ですので、従業員本人から、あるいは代行業者を通じて「休職したい」との申し出を受けたからといって、必ずしも本人の希望通りに認めなければならないものではありません。とりわけ「休職を認める要件」については、就業規則により「傷病により欠勤が1か月を超えたとき」といった形式要件が課されている場合もあれば、「試用期間中の者には認めない」といった除外規定が設けられている場合もあります。そもそも休職の制度趣旨自体が、一定の期間療養することによって再び勤務が可能になる見込みがある場合に認めるものであるということが前提のはずです。

 

本人や代行業者が、これらの就業規則の定めや制度趣旨をよく理解した上で、その定めに則って休職を申し出てきているとは限りませんので、休職を認めるとしても本人の希望日とは異なる日から認めるべき場合もあれば、そもそも休職を認められない旨を伝えなければならない場面もあるでしょう。もっとも、医師が労務不能と診断しているにもかかわらず出勤を強要すれば、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)を問われる可能性があります。とはいえ、企業側としては、休職の申し出を受けたからといって直ちに承認するのではなく、診断内容や就業規則に基づいて適切に対処する必要があるということです。

 

3.休職代行業者から連絡を受けたら

 

それでは、実際に休職代行業者から連絡を受けた場合に、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。
退職代行業者への対応に関して、「そのような業者は違法だから無視しても大丈夫」といった声を時々聞きますが、本人の使者として退職や休職の意思を伝達してきているだけであれば違法とはいえませんので、無視して取り合わないというのはやはりよろしくありません。

 

まずは、次の3点について確認する必要があります。
① 本人の意思なのか
② 現に傷病の状態にあるのか(医師の診断書はあるのか)
③ 就業規則上の休職要件を満たしているのか

 

以上を確認した上で、休職を認める場合には実際の休職期間(開始日や期限)や休職期間中の手続き等について、休職を認めない場合にはその根拠・理由について、代行業者へ回答することになります。なお、もし代行業者が、休職意思の「伝達」に留まらず、未払賃金・損害賠償の請求や特別休暇の付与といった「交渉」を含めてきている場合には、いわゆる非弁行為に当たり違法である可能性がありますので、弁護士資格の確認を求めるのがよいでしょう。

 

4.まとめ

 

退職代行に続き、休職代行という新たなサービスが登場しています。今後、メンタル不調者の増加やこのサービスの認知度の向上によって、利用者がさらに増加する可能性があります。重要なのは、サービスそのものや利用者を批判することではなく、その背景にある従業員の心理状態を理解し、職場環境の問題として捉えようとする姿勢です。

 

このサービスを利用した従業員は、「つらい」「きつい」というたったそれだけのことを、会社(上司)に訴えたり相談したりできなかったということです。そもそも、普段から従業員が安心して何でも相談できる職場環境が醸成されていれば、このようなサービスを利用する人は滅多に現れないのではないかと思います。

 

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2026.10.21 大野事務所コラム
「退職代行」の次は「休職代行」?
2026.10.11 大野事務所コラム
過半数代表者の選出
2026.10.01 大野事務所コラム
サテライトオフィス・在宅勤務における最低賃金の考え方
2026.09.30 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【労災保険の基礎知識―業務災害と通勤災害について(後編:通勤災害と主な保険給付の種類と概要)】
2026.09.21 大野事務所コラム
熱中症はどこから労災になる?
2026.09.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【カスタマーハラスメントを原因とする労災】
2026.09.12 ニュース
働き方・休み方改革取組事例について、定期健康診断等の診断項目の一部変更について
2026.09.11 大野事務所コラム
定年後の65歳までの継続雇用と雇止め
2026.09.01 大野事務所コラム
「大丈夫です。」は本当に大丈夫か?―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊽
2026.08.26 これまでの情報配信メール
令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について・熱中症対策事例について
2026.08.21 大野事務所コラム
年末年始手当は賞与?
2026.08.12 これまでの情報配信メール
基本手当日額および高年齢雇用継続給付金等の支給限度額変更、育児休業給付の申請手続きの見直し、産業医の辞任等に関する報告の義務化について
2026.08.11 大野事務所コラム
熱中症対策を改めて確認しましょう
2026.08.01 大野事務所コラム
賃金未払いに伴う遅延利息(遅延損害金)を考える
2026.07.28 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【労災保険の基礎知識―業務災害と通勤災害について(前編:業務災害)】
2026.07.28 これまでの情報配信メール
カスハラ対策および求職者等セクハラ対策の義務化について
2026.07.21 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【採用面接時に応募者の健康状態を確認しても問題はないか】
2026.07.21 大野事務所コラム
飲み会での事故は労災になるのか ~裁決例から見る「業務性」の判断~
2026.07.11 大野事務所コラム
業務災害による休業の最初の3日間に所定休日が含まれる場合の労基法上の休業補償の考え方は?
2026.07.10 これまでの情報配信メール
労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます
2026.07.01 ニュース
「ビジネスと人権」セミナー開催のご案内【2026年7月29日(水)】
2026.07.01 ニュース
当事務所スタッフが労務行政主催セミナーに登壇いたします【2026年7月29日(水)】
2026.07.01 大野事務所コラム
学ぶことを棄てる⁉ ―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊼
2026.06.30 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【健康診断について】
2026.06.26 これまでの情報配信メール
令和8年度の算定基礎届の提出について、熱中症の予防対策について
2026.06.21 大野事務所コラム
退職給付金って何?
2026.06.12 これまでの情報配信メール
同一労働同一賃金に関する施行規則と告示の改正、 特定在留カード等交付申請について
2026.06.11 大野事務所コラム
同一労働同一賃金関連の法改正動向
2026.06.01 大野事務所コラム
懲戒処分における併科と二重処罰を考える
2026.05.29 これまでの情報配信メール
社会保険適用拡大特設サイトリニューアル・保険料調整制度のご案内(令和8年10月施行)
2026.05.28 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【1か月単位の変形労働時間制の基本と運用上の留意点(後編:運用上の留意点)】
2026.05.21 大野事務所コラム
労災裁決例から読む~出来事は単体で評価されていない~
2026.05.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【私傷病休職の発令】
2026.05.14 これまでの情報配信メール
労働保険年度更新に係るお知らせ・通勤手当等の非課税限度額の改正について
2026.05.11 大野事務所コラム
【令和8年度地方労働行政運営方針】
2026.05.01 大野事務所コラム
対話と議論の違い―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊻
2026.04.27 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【1か月単位の変形労働時間制の基本と運用上の留意点(前編:制度の概要と導入のポイント)】
2026.04.25 これまでの情報配信メール
治療と就業の両立支援指針について
2026.04.21 大野事務所コラム
月給制における賃金支払基礎日数
2026.04.15 これまでの情報配信メール
障害者の法定雇用率引上げ・国民年金第1号被保険者の育児期間に係る国民年金保険料免除制度・法人の役員の被保険者資格の取扱いについて
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop