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TOP大野事務所コラムシリーズ 経営労務とコンプライアンス(第9回)

シリーズ 経営労務とコンプライアンス(第9回)

 

本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに同社の了解を得て転載するものです。なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。

 

〇社会的責任経営

会社成長と人材マネジメントについての一般的な理解を述べてきたが、会社への現代的要請について考えてみたい。

 

企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)という言葉は、すでに企業経営上も広く定着をみているが、その意味は「企業はその事業活動にあたって、法令等の遵守はもちろん、人権や労働等の分野、自然環境保全に対する配慮等、さまざまな利害関係者からなる社会全体に対して主体的に果たすべき責務を負う」というものである。

 

社会的な存在である企業が法令等を遵守すべきことは当然であり、いまや単なる法令遵守を超えて、企業活動から生ずる広範な結果にたいする責務があり、法令遵守(コンプライアンス)は企業が最低限果たすべき義務としてCSR経営を推進する上では前提条件となるものだといえる。

 

一方、2006年5月施行の会社法による法令等遵守体制の整備、同6月成立の金融商品取引法による上場企業の財務報告の信頼性確保のため内部統制報告書の提出義務など、企業は内部統制システムの確立を厳しく求められている。法令での整備を求められる内部統制システムとは、ある意味では経営管理システムそれ自体であり、従って企業が社会的責任を担う組織体として経営を行うにあたってのコアになるシステムと考えることもできよう。

 

さて、日本では、経済同友会が2003年を我国におけるCSR元年とし「第15回企業白書」で市場進化と企業の社会的責任を取り上げたのを始めとして、日本経済団体連合会も2004年2月「企業の社会的責任(CSR)推進にあたっての基本的考え方」を発表し、2007 年には「企業行動憲章・実行の手引き(第5版)」を公表している。

 

経済同友会は、その後も精力的に継続してCSRを取り上げ、2004年1月「日本企業のCSR:現状と課題」、2006年3月「企業の社会的責任に関する経営者意識調査」、2006年5月「日本企業のCSR:進捗と展望」、2007年5月「CSRイノベーション」、2008年5月「価値創造型CSRによる社会変革」、2009年4月「未来価値創造型CSRの展開」、2010年4月「日本企業のCSR:進化の軌跡」、2011年4月「グローバル時代のCSR」、2012年6月「社会益共創企業への進化」のレポートを公表している。その特徴は、市場の進化というコンセプトの下に、企業も環境に合わせて変革成長する中で、いわゆるCSR自体も固定的な観念にとどまることなく変化し、企業が成長するための経営の中心的な役割を果たすものであるとの認識であろう。

いわば、企業がCSR経営に取組むことは企業活動の持続可能性を確保し、企業価値として評価されるとするものであり、たとえば、企業の社会的責任経営をサポートするSRI(Socially Responsible Investment: 社会的責任投資)の動きなどとも関係してくるものである。SRIは投資先企業におけるCSRへの取組みを選択基準とする投資ファンドであり、年金運用機関でもSRIの考え方が広がっている。欧米ではSRIは投資基準のひとつの判断基準となっている。

 

現在、国境を超えた事業規模を有するグローバル企業が世界的に多数活動し大きな影響を与える時代となり、一つの国家・政府ではこのような企業をコントロールすることは不可能であり、国際的な貧困、テロ、環境破壊など地球規模の問題などを解決するうえでも企業の主体的な取組みが不可欠となってきている。なお、2010年に発表されたISO26000では、企業のみならずより広く利益を目的としない法人や組織(官公庁、教育機関、宗教団体、NPO、NGOなど)も含んだ「組織の社会的責任」として、組織体の活動すべてに「社会的責任」が生じるという視点でガイドラインを策定している。

 

CSRは労働CSRとして、雇用に対する企業の社会的責任としても認識されるようになってきている。少子高齢化を背景とする成熟社会での女性や高齢者の労働力の活用、保全という直接的契機を超えて、量のみでなく質的にも豊かな社会の形成が企業活動の根底に不可欠な条件であること、また「仕事と生活のバランス(WLB)」の取れた労働こそが健全な市民社会、ひいては質量をともなう活力ある経済社会を可能にするという認識が広がっているのだと考えられる。

このような背景をうけて、わが国においても、労働CSR、WLBの分野についても次のような施策が掲げられている。

 

*2008年3月「働く人を大切にするヒント~労働分野における企業の社会的責任~(厚生労働省)」⇒労働CSRの具体的取組み事項(①人材育成 ②キャリア形成支援 ③仕事と生活の調和 ④従業員の社会貢献 ⑤男女の均等推進 ⑥高齢者雇用 ⑦障害者雇用 ⑧若年者雇用 ⑨安全衛生 ⑩従業員の健康 ⑪社会報告・CSRレポート)

 なお、厚生労働省の「労働に関するCSR研究会報告書(2008年3月)」では、「労働に関するCSR自主点検チェック項目」を公表している。

 

*2007年12月「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章及び仕事と生活の調和推進のための行動指針(内閣府生活統括官・共生社会政策担当)」の策定⇒仕事と生活の調和が実現した社会に必要な条件(①就業による経済的自立が可能な社会 ②健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会 ③多様な働き方・生き方が選択できる社会)

 

*WLB関連労働法規⇒(①労働契約法第3条第3項 ②男女雇用均等法 ③育児介護休業法 ④次世代育児支援対策法)

 

なお、企業が労働CSRを促進するには、同時に労働者が主体的で多様な働き方を選択し、就業を通して生涯にわたってキャリア開発ができるようにサポートする社会的セーフティ-ネットが大切になる。このような社会的基盤が提供されることで、企業も個人もWLBを考慮した就業が可能になると考えられる。この点は、今後のダイバーシティー(多様性)を前提にした会社経営とその人材マネジメントにおいて組込むことが不可欠な観点となる。

 

以上

 

※次回(第10回)掲載日は、726日を予定しております。

シリーズ

シリーズ  

 

本コラムは、当事務所の代表社員である大野が、2012年に労働新聞に連載寄稿した記事をベースに、同社の了解を得て転載したものです。

ガバナンスと内部統制およびコンプライアンスの意味と位置づけを確認し、会社の成長、価値の向上に貢献する「経営労務」について、15回にわたり本コラムにて連載させていただきました。

なお、今回の転載にあたり、必要に応じ適宜原文の加筆・修正を行っております。

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