TOP大野事務所コラムオレンジゲーム―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑱

オレンジゲーム―「人と人との関係性」から人事労務を考える⑱

こんにちは。大野事務所の今泉です。桜の季節も終わりですね。

 

前回は「対立」もしくは「衝突」が起こる原因、また、これらの分類について書きました。そして、これらを収束させ積極的・建設的な効用を得るための手法として、コンフリクト・マネジメントというものが存在する、というところまで進みました。

 

ところで、コンフリクトが生じた場合、これに対処する方法としてはどのようなものがあるでしょうか。パッと思い浮かぶのが「訴訟」かもしれません。(民事)訴訟は当事者が紛争を裁判所に持ち込み、法律という規範に照らして裁判官の下した判断に強制力を与えることで白黒をはっきりさせることが特徴です。当事者は勝者と敗者という関係になるわけです。ですので、当事者間の関係改善、心理的な満足をもたらすとは限りません。あくまで訴訟の役割は当事者間の権利義務関係を明確にすることといえます。

これに対しては、訴訟には時間や費用がかかるという側面があること、また特に企業が訴えられた場合に、イメージダウンにつながるなど、メリットだけではありませんので、訴訟にならないようにするにはどうすればよいのか、ということも重要なマネジメントとなります。実際、そのようなご相談も多くお受けしています。

 

その様な大事に至る前に、あるいは訴訟を避けるために用いられたりするのが「仲裁」や「調停」などいわゆるADRと呼ばれる紛争解決手段です。第三者によって仲裁案や調停案が提示され、当事者はそれに従う、というところに特徴があります。これらは権威のある紛争解決機関によるもののみならず、日常的にも同様なことが行われていますね。例えば、職場における上司や先輩といった人たち、あるいは親などの身内もこのような「間を取り持つ」方法を取り、身近なコンフリクトに対応しているといえます。ただ、解決策は介入する第三者の力量や経験によるところも大きく、また当事者が最終解決案に関与できない、ということがあります。

これに対しては、第三者が介入するものの、解決案は当事者の話し合いから引き出すこととし、紛争解決プロセスに当事者を参加させる手法もあります。このようなものを特に「メディエーション」と呼ぶことがあります。メディエーションにおける第三者はメディエーターといい、当事者間の話し合いのコーディネーターに近い役割を果たすことが求められます。つまり、自らの見解や判断を行うのではなく、当事者の話し合いが十分に尽くされ、双方が納得できる解決案を作り上げられるよう支援する、ということとなります。

 

さらに「交渉」も思いつく手段ではないでしょうか。こちらは基本的に当事者間での話し合いのみで進められるものですが、いわゆる「駆け引き」というイメージが強いかもしれません。この場合の交渉は、自分の利益を優先し、いかにそれを獲得できるかという視点でお互いが主張を行うこととなります。結果として、訴訟と同じように勝者と敗者が明確になる場合もあるでしょう。

一方で、協調的なアプローチで進めるという交渉もあります。双方が得られる利益の最大化を目指すことを目的としたものです。自分の提案と相手のニーズが重なれば、お互いの納得度も高まり、信頼関係を構築できます。

 

また、「先送り」や「無視」というものも方法の一つといえるかもしれません。場合によっては、効果もあるかもしれませんが、基本的には望ましい方法とはいえないでしょう。

そして、最悪な方法が「闘争」です。暴力による解決ですね。

 

さて、コンフリクトに対処する代表的な方法を紹介してきましたが、ここで一つ問題を出しますので考えてみましょう。

2人の姉妹がいます。ここに1つだけのオレンジがあり、姉も妹もオレンジを欲しがっています。

 

姉と妹それぞれが満足できるには、オレンジをどのように与えればよいでしょうか?

 

オレンジを巡るコンフリクト(?)ですね。

「半分ずつにして与える」というのが、すぐに思いつく回答でしょう。公平という点では「半々」というのが導きやすい結果といえます。そうではなく、年上の姉に少し多めにあげる、あるいはその逆ということも考えられるかもしれません。ただ、姉妹がそれぞれ1個分を欲しがっていたとしたら、これらの方法で双方が満足することはありません。

そうであれば、少し変わった回答としては、姉妹双方でお金を出して、もう一つオレンジを買う、という方法もあるでしょう。

さらには、一方があきらめ、一方だけがオレンジを手にする(無視)、あるいはケンカで勝った方に与える(闘争)、などという回答もあるかもしれません。・・・これらで双方が満足することはなさそうですね。

 

それでは、実は次のような理由でオレンジを欲しがっていたとしたらどうでしょう。

姉はオレンジジュースを作りたくて、オレンジが欲しかった。

 

妹はマーマレードを作りたくて、オレンジが欲しかった。

 

このような情報が加わることで、別のオレンジの分け方も考えられそうです。なぜなら、オレンジジュースを作るにはオレンジの皮はいりませんし、マーマレードを作るには皮だけあれば十分だからです。

つまり、姉にはオレンジの実をあげ、妹にはオレンジの皮をあげる、という方法が考えられることになります。

 

このように、ただオレンジが欲しいという事実だけを知ることではなく、その理由などさらに深い情報にまで踏み込むことができたなら、当事者間でより満足度の高い解決策を得る、つまり、win-winの関係をもたらすことができる、という一例です(オレンジゲームと言われているそうです。)。

 

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

今泉 叔徳

今泉 叔徳 特定社会保険労務士

渋谷第1事業部 事業部長/ パートナー社員

群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。

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