在宅勤務者の所属事業場
パートナー社員の野田です。コロナ禍となってから1年が経過し、中小企業においても在宅勤務、テレワーク、リモートワークが定着しつつあるものと思われます。私が担当する企業様におきましては、今後も在宅勤務がメインとなることから、地方営業所を閉鎖したり、オフィス規模を縮小したりするなどの対応が進んでいるようです。そうしたなか、在宅勤務者の事業場はどのように考えれば良いのかといったご質問をお受けしますので、今回は在宅勤務者の所属事業場について取り上げます。
労基法関係届(就業規則届、36協定届)や安衛法関係報告(産業医選任報告、定期健康診断実施報告等)を行ううえで、各事業場の人数を把握する必要がありますが、労基法・安衛法では、一つの事業場であるか否かは、主として場所的観念(同一の場所か離れた場所かということ)によって決定すべきであり、同一の場所にあるものは原則として一つの事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とされています。
例外として、場所的に分散しているものであっても規模が著しく小さく、組織的な関連や事務能力等を勘案して一つの事業場という程度の独立性が無いものは、直近上位の機構と一括して一つの事業場として取り扱うこととしています。また安全衛生管理においては、同一の場所にあっても著しく労働の態様を異にする部門(例として工場内の診療所)がある場合には、その部門を主たる部門と切り離して別個の事業場として捉えることで適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場として捉えることとしています。
上記解釈を踏まえ在宅勤務者の事業場を考えていきます。
就業規則や雇用契約書により労働者各人の自宅を勤務地と決めたとしても、一つの事業場としての独立性は無いと判断できることから、直近上位の機構(事業場・組織)と一括することとなりますが、直近上位の機構がどこなのかという疑問が生じます。
実際の相談事例では、これまで地方営業所所属としていた営業職社員を、組織再編により本社営業部所属(管理を行う上司も本社所属となり、業務管理や勤怠管理を含むマネジメントを本社で一括して行う)にされるとのことでした。そうしますと、全国に散らばっていた営業職社員全てが本社所属ということになり、本社の労働者数が跳ね上がります。それにより衛生管理者の人数を増員したり、専属産業医が必要になったりするなど、本社ではこれまでとは異なる安全衛生管理体制の整備が必要になります。一方、地方営業所の労働者数は激減し、営業所によっては常用労働者数が10人未満となるなど、これまでの事業場規模とは大きく異なるものとなります。
当該企業様では、管理体制や指揮命令系統を本社に集約されるということで、在宅勤務者の直近上位の機構が本社となりましたが、管理体制や事務機能等を地方営業所に委ねた場合には、引き続き地方営業所に所属することとなります。
別の事例は、労働者数が50名以上ではありますが、全員が在宅勤務者という実態のなかで事業場が東京本社のみ(ワンルームのレンタルオフィスで常勤者は役員のみ)という状況です。このような運営実態ではありますが、労基法等の考えによれば、東京本社は50人超の事業場ということになり、産業医や衛生管理者の選任等が必要な事業場ということになります。現状では稀な事例だと思われますが、今後はこのような形態での事業場登録が増えていくことも想定されます。また全労働者が東京所属であることから、実際の勤務地であるご自宅が地方であったとしても東京都の最低賃金額が適用される点を見落としてはならず、地方在住の在宅勤務者をリクルートする場合には、その処遇決定に留意する必要があります。
新たな「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン(チェックリスト付)」も出ておりますが、テレワークが定着するなかで、これまでとは様子の異なる事業場の在り方とそれに伴う安全衛生管理体制の整備・対応が求められそうです。
執筆者:野田

野田 好伸 特定社会保険労務士
パートナー社員
コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。
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