育児休業中の社会保険料免除の要件が改正される予定です
こんにちは。大野事務所の深田です。
ご存知のとおり、育児・介護休業法に基づく3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業および育児休業に準ずる休業)を行っている被保険者については、健康保険の保険者および日本年金機構へ申し出ることで健康保険料および厚生年金保険料が免除される仕組みが設けられています。元々は子が1歳に達するまでの育児休業が保険料免除の対象だったのですが、育児・介護休業法で子が1歳6か月に達するまでの育児休業延長が認められたのを機に(2005年4月1日~)、最長で3歳に達するまでの育児休業等の期間が対象となりました。
ちなみに、この2005年の改正前までは、保険料免除の申出書を行政へ提出した日の属する月から保険料免除となり、届け出が育児休業開始日の属する月の翌月以降になってしまった場合には遡って保険料免除の適用を受けることができず、実務担当者泣かせのルールとなっていました。それが、届け出が遅れた場合であっても育児休業開始日が属する月から免除されるように改められ、この点は保険料免除対象期間が拡大したことと同じくらい歓迎されたものでした。
さて、とりわけ男性について育児休業の取得促進が叫ばれる中、すっかりお馴染みとなっているこの保険料免除の制度ですが、課題も露呈してきており、「月途中に短期間の育児休業を取得した場合に保険料が免除されない」ことや「賞与保険料が免除されることを要因として、賞与月に育休の取得が多いといった偏りが生じている可能性がある」といった点が指摘されていました。実際、私も昨年のうちに複数のお客様から「月末の1日だけ育児休業を取得したいと言っている社員がいて、どうやら保険料免除が念頭にあるようだ。そもそも1日だけの育児休業などOKなのか?」というご相談を受けました。
まず、「1日だけの育児休業」という点は、「休業」という文言からすれば連続した一定期間のお休みと考えるのが自然だとは思いますが、通達等を見ても休業の日数について何ら定めているものはありません。そのため、たとえ1日であっても労働日に対して育児休業として事業主に申し出がされたものであれば育児・介護休業法上の育児休業に当たる、つまりは法定あるいは労使協定の適用除外要件に該当しない限りは申し出を拒めないということになります。
次に、保険料免除との関係では、育児・介護休業法上の育児休業および育児休業に準ずる休業をしていることが前提となります。その上で、保険料が免除される期間は、「育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの期間」とされていることから、つまりは月末時点で育児休業等をしている場合に当月の保険料が(賞与の支給月であれば賞与に係る保険料も)免除されることとなります。
よって、たとえ1日であっても法律上の育児休業には該当し(そのような育児休業の申し出をすること自体、育児休業の趣旨からすれば大いに疑問はありますが)、さらには休業日が月末であれば保険料が免除されることとなります。かたや、育児休業の期間が1週間や2週間といった場合でも、休業期間が月途中であれば保険料は免除されません。
こうした状況を受け、2月5日に国会へ提出された健康保険法等の改正法案では、下記図表のとおり保険料免除の仕組みを改めることとされており、法案が成立すれば来年10月1日に施行される予定です。改正後も月末1日のみの育児休業等の場合に月次保険料が免除されることは変わりませんが、賞与の保険料免除は育児休業等の期間が1か月超であることが要件とされます。また、現行では保険料免除の対象外である月途中の育児休業等は、休業等日数が14日以上の場合に月次保険料が免除となるため、この点は新たな実務対応(育児休業等取得者申出書の提出)を要します。
執筆者:深田
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
過去のニュース
ニュースリリース
- 2024.04.24 大野事務所コラム
- 懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
- 2024.04.17 大野事務所コラム
- 「場」がもたらすもの
- 2024.04.10 大野事務所コラム
- 取締役の労働者性
- 2024.04.08 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
- 2024.04.03 大野事務所コラム
- 兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
- 2024.03.27 大野事務所コラム
- 小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
- 2024.03.21 ニュース
- 春季大野事務所定例セミナーを開催しました
- 2024.03.20 大野事務所コラム
- 退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
- 2024.03.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
- 2024.03.21 これまでの情報配信メール
- 協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
- 2024.03.26 これまでの情報配信メール
- 「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
- 2024.03.13 大野事務所コラム
- 雇用保険法の改正動向
- 2024.03.07 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
- 2024.03.06 大野事務所コラム
- 有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
- 2024.02.28 これまでの情報配信メール
- 建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
- 2024.02.28 大野事務所コラム
- バトンタッチ
- 2024.02.21 大野事務所コラム
- 被扶養者の認定は審査請求の対象!?
- 2024.02.16 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
- 2024.02.14 大野事務所コラム
- フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
- 2024.02.16 これまでの情報配信メール
- 令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等
- 2024.02.09 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【固定残業代の計算方法と運用上の留意点】
- 2024.02.07 大野事務所コラム
- ラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛
- 2024.01.31 大野事務所コラム
- 歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?
- 2024.01.24 大野事務所コラム
- 育児・介護休業法の改正動向
- 2024.01.19 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈前編〉】
- 2024.01.17 大野事務所コラム
- 労働保険の対象となる賃金を考える
- 2024.01.10 大野事務所コラム
- なぜ学ぶのか?
- 2023.12.21 ニュース
- 年末年始休業のお知らせ
- 2023.12.20 大野事務所コラム
- 審査請求制度の概説③
- 2023.12.15 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【テレワークと事業場外みなし労働時間制】
- 2024.01.17 これまでの情報配信メール
- 令和6年4月からの労働条件明示事項の改正 改正に応じた募集時等に明示すべき事項の追加について
- 2023.12.13 これまでの情報配信メール
- 裁量労働制の省令・告示の改正、人手不足に対する企業の動向調査について
- 2023.12.13 大野事務所コラム
- 在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?
- 2023.12.12 ニュース
- 『workforce Biz』に寄稿しました【研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?】
- 2023.12.06 大野事務所コラム
- そもそも行動とは??―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉚
- 2023.11.29 大野事務所コラム
- 事業場外労働の協定は締結しない方がよい?
- 2023.11.28 これまでの情報配信メール
- 多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて、副業者の就業実態に関する調査について
- 2023.11.22 大野事務所コラム
- 公的年金制度の改正と確定拠出年金
- 2023.11.17 ニュース
- 『月刊不動産』に寄稿しました【試用期間中の解雇・本採用拒否は容易にできるのか】