TOP大野事務所コラム年休付与の出勤率計算において休職期間は全労働日から除くべきか?

年休付与の出勤率計算において休職期間は全労働日から除くべきか?

こんにちは。大野事務所の高田です。

 

年次有給休暇(以下「年休」)の付与要件の1つである出勤率(全労働日の8割以上を出勤)を計算する際に、休職期間は全労働日(すなわち分母)から除外すべきなのでしょうか?

 

いわゆる年休の斉一的取り扱いにより、4月1日を付与日に設定している会社様は多いと思います。その関係で、3~4月の時期には、弊事務所の顧問先様からも、年休の付与に関するご質問が多く寄せられます。中でも特に多いのが、休業休職期間を出勤率計算上どのように取り扱えばよいのか?といったご質問です。

 

1.法律、通達の内容

 

「休業休職」に相当するもののうち労働基準法上明確に取り扱いが定められているのは、以下の3つの休業期間については出勤したものとみなす旨のみです。(第39条第10項)

 

① 業務上傷病による休業期間
② 育児・介護休業期間
③ 産前産後休業期間

 

裏を返せば、これら以外については労働基準法には定めがないわけですが、一部、以下のものについては通達等で取り扱いが示されています。

 

ア 年休を取得した日
  欠勤として取り扱うことは当を得ないため、出勤として取り扱う(昭22.9.13 発基第17号)
イ 使用者の責に帰すべき事由による休業
  事実上労働の義務が免除されているため、全労働日(分母)から除外すべき(昭33.2.13 基発第90号他)
ウ ストライキ期間
  労働者の勤怠評価の対象とするのは妥当でないため、全労働日(分母)から除外すべき(同上)
エ 生理休暇
  欠勤として取り扱う休暇として定め得るが、出勤として取り扱うことも差し支えない(昭23.7.31 基収第2675号)

 

2.休職については法律上の定めがない

 

そもそも休職というものは労働基準法上に定めがあるわけではありませんので、以上の考え方を踏まえつつ、当該休職の事由や性質に照らして個別に判断していくべきだといえます。それでは、休職には、一体どのような事由のものがあるのでしょうか?この点、休職は会社の任意の制度ですので、中には珍しい休職制度を設けている会社様もあるかもしれませんが、代表的なものは概ね以下の4つではないかと思います。

 

A 私傷病を理由としたもの
B 私傷病以外の本人都合によるもの
C 刑事罰等による不就労を理由としたもの
D 他社への出向等を理由としたもの

 

3.休職事由ごとの考察

 

A~Cの3つはあくまでも本人の都合によるものであり、実質的に一定期間まとめて欠勤扱いすることを目的としたものだといえますので、出勤率計算上も欠勤と同様に取り扱うのが妥当なのではないでしょうか。AとBについては、就業規則上は欠勤が一定期間に達すると休職が発令される仕組みになっていることが多く、休職があくまでも欠勤の延長線上に設けられている事実に照らしても、休職が発令されることによって欠勤よりも本人有利に取り扱うべき必然性はないものと考えます。ましてやCにいたっては、欠勤よりも有利に取り扱うのはかえって不合理というべきでしょう。

 

一方、Dに関しては会社の都合によるものですので、A~Cとは休職の性質が異なります。これについては、前述の「使用者の責に帰すべき事由による休業」に準じて、全労働日(分母)から除外して計算するのが妥当だと考えますが、そもそも当該出向事由の休職については事実上形骸化していることが多く、在籍出向の場合は休職を適用する例が殆どなく、一方の移籍出向の場合には出向先で年休を付与しますので、Dの休職時の出勤率を計算する場面自体が殆どないのではないかと想像します。

 

以上の通り見てきましたが、インターネットで調べると、「休職期間は全労働日(分母)から除く」とだけあっさりと解説したものが実に多いようです。筆者は「休職の事由や性質に照らして個別に判断すべき」だと考えますが、毎度個別に判断するのは担当者の負担になりますし、その取り扱いの是非をめぐって労働者と見解が相違する場合があるかもしれませんので、一番よいのは就業規則に取り扱いを明記しておくことではないでしょうか。

 

 

執筆者:高田

高田 弘人

高田 弘人 特定社会保険労務士

パートナー社員

岐阜県出身。一橋大学経済学部卒業。
大野事務所に入所するまでの約10年間、民間企業の人事労務部門に勤務していました。そのときの経験を基に、企業の人事労務担当者の目線で物事を考えることを大切にしています。クライアントが何を望み、何をお求めになっているのかを常に考え、ご満足いただけるサービスをご提供できる社労士でありたいと思っています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.07.24 大野事務所コラム
ナレッジは共有してこそ価値がある
2024.07.19 これまでの情報配信メール
仕事と介護の両立支援に向けた経営者向けガイドライン
2024.07.17 大野事務所コラム
通勤災害における通勤とは①
2024.07.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【振替休日と割増賃金】
2024.07.10 大野事務所コラム
これまでの(兼務)出向に関するコラムのご紹介
2024.07.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【歩合給に対しても割増賃金は必要か?】
2024.07.03 大野事務所コラム
CHANGE!!―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉞
2024.06.26 大野事務所コラム
出生時育児休業による社会保険料免除は1ヶ月分?2ヶ月分?
2024.06.19 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応(規程・労使協定編)
2024.06.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【社員への貸付金や立替金を給与で相殺できるか】
2024.06.12 大野事務所コラム
株式報酬制度を考える
2024.06.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【振替休日と代休の違い】
2024.06.05 大野事務所コラム
As is – To beは切り離せない
2024.05.29 大野事務所コラム
取締役の労働者性②
2024.05.22 大野事務所コラム
兼務出向時に出向元・先で異なる労働時間制度の場合、36協定上の時間外労働はどう考える?
2024.05.21 これまでの情報配信メール
社会保険適用拡大特設サイトのリニューアル・企業の配偶者手当の在り方の検討について
2024.05.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【法的に有効となる定額残業制とは】
2024.05.15 大野事務所コラム
カーネーションと飴(アメ)―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉝
2024.05.10 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(後編)】
2024.05.08 大野事務所コラム
在宅勤務手当を割増賃金の算定基礎から除外したい
2024.05.01 大野事務所コラム
改正育児・介護休業法への対応
2024.05.11 これまでの情報配信メール
労働保険年度更新に係るお知らせ、高年齢者・障害者雇用状況報告、労働者派遣事業報告等について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
令和4年労働基準監督年報等、特別休暇制度導入事例集について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
所得税、個人住民税の定額減税について
2024.04.30 これまでの情報配信メール
現物給与価額(食事)の改正、障害者の法定雇用率引上等について
2024.04.24 大野事務所コラム
懲戒処分における社内リニエンシー制度を考える
2024.04.17 大野事務所コラム
「場」がもたらすもの
2024.04.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられています】【2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは】
2024.04.10 大野事務所コラム
取締役の労働者性
2024.04.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
2024.04.03 大野事務所コラム
兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
2024.03.27 大野事務所コラム
小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
2024.03.21 ニュース
春季大野事務所定例セミナーを開催しました
2024.03.20 大野事務所コラム
退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
2024.03.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
2024.03.21 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
2024.03.26 これまでの情報配信メール
「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
2024.03.13 大野事務所コラム
雇用保険法の改正動向
2024.03.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
2024.03.06 大野事務所コラム
有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop