専属産業医の「専属」とは
こんにちは。大野事務所の深田です。
今回は産業医の選任について触れたいと思います。2019年4月に施行された改正労働安全衛生法により、産業医の独立性・中立性の強化、権限強化、連携強化などが定められ、企業の安全衛生管理体制を確立する上で産業医との関係性がますます重要となったところです。
産業医は、常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任を要することとなるわけですが、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場または特定業務(有害な業務)に常時500人以上の労働者を従事させる事業場では、「その事業場に専属の者を選任すること」(労働安全衛生規則第13条第1項第3号)とされています。
さて、この「専属」ですが、実は「専属」の定義を示した通達等はないのです。ただ、「専ら属する」という言葉からは、複数の事業場を掛け持ちしても良いということにはならなさそうです。この点に関連するものとして、「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することについて」(基発第214号 平成9年3月31日)という通達があります。この通達では、「特に、構内下請事業場等においては、労働態様の類似性等を勘案すると、元請事業場の指導援助の下に産業保健活動を行うことが効率的又は効果的な場合もある。」とした上で、元請事業場等に選任されている専属の産業医が当該元請事業場の下請事業場等の産業医を兼務することを一定の要件下で認めています。このように専属産業医が他の事業場の非専属産業医を兼務することは、元請と下請との関係を前提とした上で一定の要件に該当する場合に限り認められる極めて例外的なものであり、基本的には言葉どおり一つの事業場に属していることを要するといえます。
では、一つの事業場に属するとして、その産業医には常駐してもらわないといけないのでしょうか。この点も特に示されたものはなく、専属としか言っていない以上は、例えば週5日いてもらうことであったり雇用契約であったりということが絶対条件というわけではないと考えられます。この点、某労働基準監督官から以前に伺ったご見解を参考までに紹介します。
「フルタイム勤務の直接雇用であればもちろん疑義も生じないであろうが、反対に週3日だったら4日だったらといった場合のはっきりとした線引きはなく、業務委託契約でも構わない。あとは解釈の問題になるであろうが、週1~2日程度の場合にグレーと見るか黒と見るかは見解の分かれるところと思われ、個人的には指導対象とまでは言えないと考える。」
なお、安全委員会や衛生委員会の議長は、「総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者」とされていますが、総括安全衛生管理者以外の者が議長となる場合の「当該事業場において・・・統括管理するもの」の意味合いとしては、当該事業場に属する者であることがもちろん望ましいものの、事業の実施を把握できるのであれば同一企業の別事業場に属する者であっても可と解されています。
執筆者:深田
深田 俊彦 特定社会保険労務士
労務相談室長 管理事業部長/パートナー社員
社会人1年目のときの上司が元労働基準監督官だったことが、労働分野へ関心を寄せるきっかけとなりました。
日頃からスピード感を持って分かりやすくまとめ、分かりやすく伝えることを心掛けています。また、母の「人間は物事が調子良く進んでいるときに感謝の気持ちを忘れがちである」という言葉を、日常生活でも仕事の上でも大切にしています。
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