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労政審報告書~変化する時代の多様な働き方に向けて~が公表されました

こんにちは、大野事務所の土岐です。

 

今回は労働政策審議会の「報告書」のご紹介です。

 

厚生労働省の労働政策審議会労働政策基本部会は、先月(20234月)に「変化する時代の多様な働き方に向けて」と題する報告書を公表しました。こちらは「加速する社会・経済の変化の中での労働政策の課題~生産性と働きがいのある多様な働き方に向けて~」をテーマとして、2022年2月より 9 回にわたり、今後の労働政策の課題について、労働政策基本部会委員・有識者のプレゼンや、企業のヒアリングを交えながら議論を深めてきたもので、その成果についてまとめられたものです。

 

さて、報告書の概要は以下の通りです。

 

 

 

【資料出所:厚生労働省ホームページ(以下図表も同じ)】

 

 

概要ではありますがその内容等が掴みづらいところがあるかと思いますので、筆者が気になったポイントに絞って以下に紹介していきたいと思います(報告書の全文はこちらをご参照ください)。

 

■働き方の現状と課題について

(1)人材育成・リスキリング

 

概要では、「企業が成長していくためには人材投資・人材育成が重要」とされている通り、昨今では人材投資・育成に関して、人的資本の観点からも重要性が叫ばれているところです。この点、報告書では「人材投資を行った人材が社外に流出してしまう懸念などで人材投資を躊躇しないようにすることが必要。」と述べられていますが、社外流出の懸念はどうしても拭えず、ためらいが生じてしまうことは大いにあると思います。社外流出が起こらないようにするためには、個人の能力等を適正に評価し、報酬に反映する仕組みを整えるといったことは基本的なところといえますが、これに加えて、例えばキャリアパスのすり合わせや適正な業務の配分など、その会社で働きたいと思えるような施策を講じたり、日頃の信頼関係を構築したりすることが重要といえそうです。

 

また、「企業は変化に対応するため必要となるスキルを考え、労働者は変化を前向きに捉えることが重要」とされている点に関しては、まさに概要でまとめられている以下の通りかと思います。

 


  • ●企業は、経営戦略として、社会経済の変化に対応する必要性や、企業としてどう変わりたいのか、そのためにはどういった能力や技術が必要で、何を学ぶべきなのかといった具体像を労働者に説明することが必要。
  • ●新しいスキル取得による能力の向上や新しいことへの挑戦を適正に評価・処遇することが、社員のリスキリングにつながる。
  • ●リスキリングは、なぜ学ぶのか、学んだ上で自分がどんな仕事ができるようになるかといった目的意識が重要。

 

1点目に関しては、労使双方で、企業・個人のそれぞれが必要となるスキルを考え、両者間ですり合わせたうえで労働者がその求められるスキルを身に付け、業務に落とし込んでいくことが重要になると筆者は思います。なかなか簡単にはいかないと思いますが、細部まで検討を尽くし、その検討結果を基に、実行し続ける・やりきることが必要なのだと思います。

 

なお、3点目に関し、報告書の8ページでは、「企業がリスキリングの必要性を明確にし、積極的にリスキリングの機会を設けるとともに、経営者が自ら積極的に学んでメッセージを示すなど、労使でのコミュニケーションも重要となる」とされているところ、「独立行政法人情報処理推進機構(令和5(2023)年)DX 白書 2023』によると、IT分野に理解がある役員が3割以上とする企業を日米で比較すると2022年度調査では、日本が27.8%、米国が 60.9%であり、日本の経営者のITに対する理解が不十分であることがDXの取組の阻害要因になることが懸念されるとしている。」との脚注が述べられている点は気になります。なんとなくリスキリングしましょう、DX化しましょう、ということでは労働者側も目的意識や納得感が得られないと思いますので、目的を明確にしたうえで取り組んでいく必要がある、ということだと思います。

 

また、報告書の同ページにおいて、「労働者が従来とは異なる仕事のやり方に習熟し、課題解決ができるようになるには時間がかかる。変化に柔軟に対応できない労働者に対しては、企業は変化に対応する必要性を丁寧に説明し、マインドセットを作りながら、実践的な学習機会を創出するなどし、リスキリングの支援やスキル取得による評価の明確化等を働きかけていくことにより、こうした人材を増やしていくことが重要である。」と述べている点も参考になるのではないでしょうか。

 

(2)人事制度について

 

ジョブ型人事の動きについて、「日本においては、ホワイトカラーを中心とした職務と処遇の明確化といった観点からの導入の動きがある。」と述べられています。この点に関しては、参考資料集37ページにおいて、次の通り整理されています。

 

 

採用、人事権、業務・配置、評価、育成の5項目について、就社型(メンバーシップ型)と就職型(ジョブ型)の特徴の他、各企業の取組事例のポイントが整理されています。また、参考資料集の47ページ以降では、企業ヒアリング資料の抜粋が掲載されていますので、考え方の参考になるかもしれません。

 

 

■今後の労働政策の方向性について

(1) 企業に求められる対応

 

概要では、「中間管理職のマネジメント業務が大きく変化・増加(ワークライフバランスの確保、エンゲージメントの向上)。」とされている点、報告書ではテレワークの導入が進んだことに言及しており、「従来のような『目の前にいる部下』に対するマネジメントから、『在宅勤務をしている部下』に対し管理職が適切に業務の仕分け・分担を行うといった従来とは異なるマネジメントもあり、現場の管理職や中間管理職のマネジメント業務の質が大きく変化し、その負担も増加している。」と述べられています。

 

この点、参考資料集の32ページでは、テレワークで感じた課題として、次の通りまとめられています。これだけを見てみると、多くを課題に感じているのだなと思う点もあるのですが、実務レベルでは、「在宅勤務とすることに全く問題は感じていない」という声も一定数聞こえてくるのが印象的です。

 

 

なお、テレワークに関して、「テレワーク中に仕事をしていない(と思われる)従業員がおり、どのように対応したらよいか」とのご相談を頂くことが増えました。各社様個別の事情やそれぞれの案件ごとに様々背景がありますので一概にはいえませんが、個人的には、明らかにテレワークに向かない・できない従業員は出社してもらい(当該社員の上長もこれに合わせて必要に応じて出社する必要があるでしょう)、それ以外の従業員に関しては、仕事の成果の目標値を定め、後はその目標に向かって突き進んでもらう・信頼して任せる、という方法が有効なのではないかと考えています。テレワークに限ったことではありませんが、目標を定め、それを達成する経験、もしも達成できなかったとしても、どこに課題があったのか、この経験を次にどう活かすかといった今後の良い材料になるのではないでしょうかと筆者は考えています。

 

 

(2) 労働者に求められる対応

 

概要において「労働者自らが自律的にキャリア形成や学びを深めていくことが必要。」とされている点、頭では理解しているものの、学び続ける必要があることを再認識しましたので、肝に銘じておきたいと思います。

 

 

以上、これらの報告書は社会の動向や現状の課題、今後に向けた対応の方向性を示す資料となっています。報告書の内容に関する参考資料もスライドにまとめて公表されていますので、ご興味のある方はご一読いただければと思います。

 

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

<参考URL

■厚生労働省 労働政策審議会労働政策基本部会 報告書 ~変化する時代の多様な働き方に向けて~

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32734.html

 

執筆者:土岐

 

土岐 紀文

土岐 紀文 特定社会保険労務士

幕張第2事業部 グループリーダー

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。

現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

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