TOP大野事務所コラム動機づけ要因と衛生要因 ― 「人と人との関係性」から人事労務を考える⑧

動機づけ要因と衛生要因 ― 「人と人との関係性」から人事労務を考える⑧

前回はいわゆるフィードバックがモチベーション向上にも効果的である、というお話をさせていただきましたが、よく「人事制度を改革してモチベーションをアップさせたい」とか「モチベーションを向上させるための賃金制度にしたい」、ということを耳にします。昨今取り沙汰されているジョブ型雇用もその文脈で語られたりしますよね。

 

そこで、今回は主なモチベーション理論について触れようと思います。個人的には社労士試験の受験を思い出します(モチベーション理論は社労士試験の「労務管理における一般常識」の試験範囲なのです。)。

 

そもそもモチベーションとは「動機づけ」のことを指しますが、動機づけを人間の欲求と結びつけ理論化したものに「マズローの欲求5段階説」といわれているものがあります。

 

あまりにも有名な見解であり、ネットなどでも細かく説明されていますので、ここではざっくりとまとめますと、『人間の欲求を次のように低次のものから高次のものまで5段階に分類し、低次の欲求が充足された場合、さらに高次の欲求の充足を求める、つまり、人間は自己実現に向かって絶えず成長する』とする理論です。

 

1.生理的欲求 :生きていくために必要な、基本的・本能的な欲求

2.安全欲求  :安全、健康的、経済的安定などを求める欲求

3.社会的欲求 :友人や家庭、集団等から受け入れられたい、という欲求

4.承認欲求  :集団の中で高く評価されたい、自分の能力を認められたい、という欲求

5.自己実現欲求:自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きていきたい、という欲求

自己実現理論ともいわれますが、このようなピラミッド型の図は有名です。

 

そしてもう一つ。

こちらも古典的な理論ですが、『モチベーションの要因には、とある要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるというものでなく、「満足」にかかわるものと「不満足」にかかわるものの二つの別の要因がある』、とする「ハーズバーグの二要因理論」と呼ばれているものがあります。

 

前者の要因は「動機づけ要因」、後者は「衛生要因」といわれています。

 

この理論ですが、人間が仕事に満足を感じるのは、人に信頼されるとか、その仕事自体に価値を見出すことができるときであり、不満を感じるのは、労働条件を含めた仕事環境に関わることに対してである、ということをエンジニアや経理担当者の調査から導き出し、体系化したものです。こちらもざっくりまとめると次のように整理できるでしょう。

 

〇動機づけ要因:高業績・功績の達成、他者からの評価、仕事内容の満足感、責任、昇進、成長

 ⇒ これが満たされれば『モチベーションを上げること』に対して有効

 

〇衛生要因  :経営方針、監督、対人関係、労働条件、給与待遇、福利厚生

 ⇒ これが満たされれば『モチベーションを下げないこと』に対して有効

 

なお、この理論と先のピラミッドとを照らし合わせてみると次のような相関関係となるといわれています。

社会的欲求の一部には、他者からの評価が含まれますので、ここが要因を分けるラインとなります。

 

今回のお話は少々お勉強のようになってしまいましたが、これらの理論を前提とすると、モチベーションを向上させるには仕事そのものや仕事を通して得ることができる何らかの充実が必要であり、少なくとも人事制度や賃金制度のようなハード面を整えることのみをもってモチベーションの向上は図れない、ということがいえそうです。その一方で、いわゆる「衛生要因」が満たされないと感じられてしまうと、社員の不満へとつながってしまい、モチベーションは低下することになってしまいます。

 

「動機付け要因」が満たされなくても不満にはなりませんが、満たされれば満足につながり(モチベーションの向上を図ることができ)、「衛生要因」が不足していると不満に感じるけれども、一定程度満たされてしまうと、どれだけ充実してもそれ以上は満足にはつながらない(モチベーションが向上することはない)、ということです。

 

今では当たり前のようなことかもしれませんが、このことを念頭に置いているのとそうでないのとでは人事労務管理の在り方が変わってくるのではないでしょうか。

 

今回の話題は以上です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

執筆者:今泉

今泉 叔徳

今泉 叔徳 特定社会保険労務士

パートナー社員

群馬県桐生市出身。東京都立大学法学部法律学科卒業。
人事労務関係の課題解決の糸口としてコミュニケーションや対話の充実があるのではないかと考え、これにまつわるテーマでコラムを書いてみようと思い立ちました。日頃の業務とはちょっと異なる分野の内容ですので、ぎこちない表現となってしまっていたりすることはご了承ください。
休日には地元の少年サッカーチームでコーチ(ボランティア)をやっていて、こども達との「コミュニケーション」を通じて、リフレッシュを図っています。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2025.06.23 ニュース
【急募!正規職員】 リクルート情報
2025.07.11 大野事務所コラム
事業所の移転等により労基署の管轄が変わる場合に、36協定届の再度の届け出が必要か?
2025.07.01 大野事務所コラム
人権方針の公開―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊶
2025.06.30 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【ハラスメント対策と企業が講ずべき措置】
2025.06.30 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【男性の育児休業と休業期間の経済的支援】
2025.07.10 これまでの情報配信メール
令和7年度の算定基礎届の提出について ・障害者のテレワーク雇用企業向け相談支援窓口について
2025.07.10 これまでの情報配信メール
年金制度改正法の概要について
2025.07.10 これまでの情報配信メール
令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
2025.06.21 大野事務所コラム
管理職昇格時の随時改定(月額変更届)
2025.06.11 大野事務所コラム
職場における熱中症対策の強化
2025.06.01 大野事務所コラム
年収の壁を考える
2025.05.21 大野事務所コラム
通勤中のけんかによる被災
2025.05.14 大野事務所コラム
【令和7年度地方労働行政運営方針】
2025.05.07 大野事務所コラム
JASTIの策定―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊵
2025.05.28 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【出向者の社会保険、労働保険の適用について】
2025.04.30 大野事務所コラム
産後パパ育休(出生時育児休業)のススメ
2025.07.10 これまでの情報配信メール
2025年度 新⼊社員の初任給調査 ・2024年度 賃上げと労使交渉に関する実態調査 について
2025.07.10 これまでの情報配信メール
令和6年度テレワーク人口実態調査について
2025.07.10 これまでの情報配信メール
フリーランス法に基づく指導について ・令和7年度「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーンについて
2025.05.14 これまでの情報配信メール
労働保険年度更新に係るお知らせについて ・職場における熱中症対策の強化について
2025.05.12 これまでの情報配信メール
健康経営ガイドブックについて ・健康経営における女性の健康課題に対する取り組み事例集について
2025.04.16 大野事務所コラム
社員の転勤拒否を考える
2025.04.23 大野事務所コラム
「経過措置」について
2025.04.24 これまでの情報配信メール
働きがいのある職場づくりのための支援ハンドブック、2025年度の雇用動向に関する企業の意識調査について
2025.05.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【フレックスタイム制の導入のポイントと運用上の留意点(後編)】
2025.04.11 これまでの情報配信メール
現物給与価額(食事)の改正、育児休業給付金の支給単位期間途中の退職、令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について
2025.04.08 これまでの情報配信メール
教育訓練等を受ける場合の基本手当給付制限解除・「教育訓練休暇給付金」の創設について
2025.04.02 大野事務所コラム
「通勤遂行性」と「通勤起因性」について
2025.03.26 大野事務所コラム
労働時間制度等に関する実態調査結果(速報値)
2025.04.01 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【フレックスタイム制の導入のポイントと運用上の留意点(中編)】
2025.03.20 これまでの情報配信メール
一般事業主行動計画の改正について 、くるみん認定・プラチナくるみん認定の認定基準改正について
2025.03.24 ニュース
『労政時報』に寄稿しました【令和7年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(下・社会保険関係編)】
2025.03.19 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【フリーランス新法の概要(後編)】
2025.03.19 大野事務所コラム
日本法の遵守=「ビジネスと人権」に対応?―「人と人との関係性」から人事労務を考える㊴
2025.03.19 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率・労災保険率について
2025.03.18 ニュース
2025春季大野事務所定例セミナーを開催いたしました
2025.03.10 ニュース
『労政時報』に寄稿しました【令和7年度施行 労働関係・社会保険改正のチェックポイント(上・労働関係編)】
2025.03.12 大野事務所コラム
私傷病休職をどのように規定すべきか
2025.03.05 大野事務所コラム
育児休業中に出向(出向解除)となった場合の育児休業給付金の取り扱い
2025.03.19 これまでの情報配信メール
育児時短就業給付金について・育児・介護と仕事の両立のための従業員研修特設ページについて
2025.02.26 大野事務所コラム
降給に関する規定整備を考える
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop