TOP大野事務所コラム【令和7年度地方労働行政運営方針】

【令和7年度地方労働行政運営方針】

こんにちは、大野事務所の土岐です。

 

今回は「令和7年度地方労働行政運営方針」を取り上げます。

 

地方労働行政運営方針とは

 

毎年厚生労働省が策定する「地方労働行政運営方針(以下、方針)」は、その年の労働行政の重点課題を示したものといえます。各都道府県労働局においては、「この運営方針を踏まえつつ、各局内の管内事情に即した重点課題・対応方針などを盛り込んだ行政運営方針を策定し、計画的な行政運営を図ること」とされており、労働基準監督署による調査や是正指導の現場にも影響を与えるものといえます。例えば、ある年に「長時間労働の是正」が重点課題に掲げられていれば、これに関連する調査や指導が強化される傾向にあります。

 

つまり、「今年の行政は、どこに目を光らせているのか」を知る手がかりとして、この方針は非常に参考になるといえます。企業としてもこの方針に目を通しておくことで、自社の労務リスクの早期察知、予防および改善につながるかもしれません。

 

令和7年度の方針

 

今年度のテーマは次の通りとなっており、それぞれについて課題と取組が述べられています。

第1 労働行政を取り巻く情勢

第2 総合労働行政機関としての施策の推進

第3 最低賃金・賃金の引上げに向けた支援、非正規雇用労働者への支援

第4 リ・スキリング、ジョブ型人事(職務給)の導入、労働移動の円滑化

第5 人手不足対策

第6 多様な人材の活躍促進と職場環境改善に向けた取組

 

以下に方針の内容をいくつかご紹介します。

 

第3―1-(2) 最低賃金制度の適切な運営

<抜粋>

経済動向や、地域の実情、これまでの地方最低賃金審議会の審議状況などを踏まえつつ、本省労働基準局賃金課と連携を図りながら、充実した審議が尽くせるよう地方最低賃金審議会の円滑な運営を図る。

また、最低賃金額の改正等については、使用者団体、労働者団体及び地方公共団体等の協力を得て、使用者・労働者等に周知徹底を図るとともに、最低賃金の履行確保上問題があると考えられる業種等に対して重点的に監督指導等を行う。

※下線は筆者追記(以下<抜粋>について同じ)

 

最低賃金については「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」(令和6年 11 22 日閣議決定)において、「…2020 年代に全国平均 1,500 円という高い目標の達成に向け、たゆまぬ努力を継続する」と明記されており、国を挙げた継続的な賃上げの姿勢が示されています。

多くの企業にとっては最低賃金の遵守はもちろんのこと、最低賃金を上回る賃金設定により人材獲得と定着に向けた動きを進めていることと思われますが、このような国を挙げた継続的な賃上げの姿勢を受けて、今後も労働基準監督署による最低賃金に関する監督指導は、引き続き重要なポイントとなることが見込まれます。

 

第3―1-(3) 同一労働同一賃金の遵守の徹底

<抜粋>

監督署による定期監督等において、同一労働同一賃金に関する確認を行い、短時間労働者、有期雇用労働者又は派遣労働者の待遇等の状況について企業から情報提供を受けることにより、雇均部(室)又は安定部等による効率的な報告徴収又は指導監督を行い、是正指導の実効性を高めるとともに、基本給・賞与について正社員との待遇差がある理由の説明が不十分な企業に対し、監督署から点検要請を集中的に実施することや、支援策の周知を行うことにより、企業の自主的な取組を促すことで、同一労働同一賃金の遵守徹底を図る。

 

昨年度は、労働基準監督署や労働局から、事業所に対しヒアリングシート形式での情報提供が求められるケースが多く見られました。これは、非正規労働者の待遇状況について把握・点検を行い、必要に応じて労働基準監督署と労働局が連携しながら、是正指導の実効性を高めるための取組みと思われます。そして今年度も、方針には上記抜粋の通り、「同一労働同一賃金の遵守徹底を図る」と明記されています。特に、基本給や賞与などにおいて正社員との待遇差についての説明が不十分な企業に対しては、監督署からの具体的な働きかけが強化される見込みです。

 

この流れを受けて、企業には自社内の待遇差を客観的に把握し、その合理性を説明できること、その合理性が説明できないと考えられる場合には自主的な改善に取り組むことがより強く求められることになると思われます。人材確保や定着の観点からも、「同一労働同一賃金」への対応は、これまで以上に重要なポイントになると考えられます。

 

第6―5-(1)-④ 長時間労働につながる取引環境の見直し

<抜粋>

大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への「しわ寄せ」防止については、例年 11 月に実施している「しわ寄せ防止キャンペーン月間」に、集中的な周知啓発を行うなど、引き続き、「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への『しわ寄せ』防止のための総合対策」に基づき、関係省庁と連携を図りつつ、その防止に努める。

働き方改革の推進に向けた中小企業における労働条件の確保・改善のため、監督指導の結果、下請中小企業等の労働基準関係法令違反の背景に、親事業者等の下請代金支払遅延等防止法(昭和 31 年法律第 120 号)等の違反が疑われる場合には、中小企業庁、公正取引委員会及び国土交通省に確実に通報する。

 

働き方改革の推進が企業規模を問わず求められるなかで、「しわ寄せ」の問題も注目すべきポイントです。これは、大企業や親事業者が自社の働き方改革を進める過程で、納期の短縮やコスト削減を中小の取引先に一方的に押しつけてしまうことで、結果として中小企業側の労働環境が悪化するという構造的な問題を指します。

 

この「しわ寄せ」に関しては令和元年6月に策定された「大企業・親事業者の働き方改革に伴う下請等中小事業者への『しわ寄せ』防止のための総合対策」に基づき、令和2年度以降の毎年度の方針に盛り込まれていますが、今年度も大企業・親事業者による中小事業者への不適切な負担の転嫁を防ぐ取り組みが継続される予定です。

 

なお、下請中小企業の労働基準関係法令違反の背景に、親事業者による「下請法」(下請代金支払遅延等防止法)等の違反が疑われる場合には、中小企業庁や公正取引委員会、国土交通省と連携して、確実に情報提供を行うこととしています。つまり、労働基準関係法令違反だけでなく、その背景にある取引慣行にも目を光らせているということです。大企業におかれましては、自社の働き方改革を進めるだけでなく、取引先との関係性にも十分に目を配る必要があるといえます。

 

その他

 

リ・スキリング、ジョブ型人事、高齢者等の多様な人材の活躍の促進、女性活躍の推進、総合的なハラスメント防止対策、安全で健康に働くことができる環境づくりおよびフリーランス等の就業環境の整備といった人事労務周りのトピックスに関し、方針ではそれぞれについて制度理解と周知を徹底するとされています。

 

厚生労働省が発行する各種リーフレットやパンフレットは、各種制度のポイントが図解や事例を交えてわかりやすくまとめられているものが多く、制度設計の検討や社員への説明資料として非常に有用です。情報も適宜更新されているため、最新の制度理解や事例の紹介資料も役立ちます。自社の取り組みを進める際には、まずこうした資料に目を通していただくことをお勧めします。

 

おわりに

 

令和7年度の方針は30ページほどの内容になりますので、ご興味のある方は以下URLより全文をご確認ください。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

 

参考URL

  • 厚生労働省 「令和7年度地方労働行政運営方針」の策定について

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56672.html

 

執筆者:土岐

 

土岐 紀文

土岐 紀文 特定社会保険労務士

第3事業部 部長

23歳のときに地元千葉の社労士事務所にて社労士業務の基礎を学び、その後大野事務所に入所しまして10数年になります。

現在はアドバイザリー業務を軸に、手続きおよび給与計算業務にも従事しています。お客様のご相談には法令等の解釈を踏まえたうえで、お客様それぞれに合った適切な運用ができるようなアドバイスを常に心がけております。

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