TOP大野事務所コラム人事労務分野における書面の電子化

人事労務分野における書面の電子化

 

パートナー社員の野田です。近年、保存書類を電子化・ペーパーレス化するに留まらず、契約書や社内文書の作成自体の電子化が進んでおりますので、今回は人事労務分野における書面・文書の電子化について触れます。

 

ご存知の通り20194月からは、労働条件の明示(労基法15条)が書面(紙)に限らず、FAX、電子メール、SNS等でもできるようになりました(本人が希望した場合などの一定の要件を満たした場合に限ります)。この影響か、電子化に関するご相談を受けることも多くなりましたが、そもそも人事労務分野において何をどこまで書面で作成する必要があるのでしょうか。法定帳簿や管理簿等は必ず書面(紙)で整備しなければならないものか、確認します。

 

労働者名簿(労基法107条)と賃金台帳(労基法108条)については、「事業場ごとに各労働者について調製すること」と規定されておりますが、以前より磁気ディスク等による調製が認められております(平7.310基収94号)。

次に退職証明書はどうでしょうか。労基法22条では「労働者が証明書を請求した場合においては、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない」と規定されておりますが、書面で交付とはされておりませんので電子ファイル等で交付したとしても問題なさそうです。

労基法関係の勤怠管理簿(始業・終業時刻、休憩時間等の記録)や年休管理簿などについては、記録があれば良く、その方法としては必ずしも書面である必要はありません。健康診断個人票(安衛法66条の3)も同様で記録の保存が求められているに過ぎません。

 

ここまで来るとお気づきでしょうが、条文等に「書面」というワードがあるか否かがポイントとなり、労基法15条以外で「書面」というワードが出てくるものとして労使協定があります。労基法36条でも「書面による協定」と規定されていることから書面作成が求められますが、やはり紙で締結しなければならないものでしょうか。調べてみましたが、これに関する行政通達等は見当たりません。

 

なおe-文書法では、法令により書面での保存が義務付けられていた法定保存文書を電磁的記録で保存することを容認しているとのことですが、e-文書法の適用要件(見読性、完全性、機密性、検索性)は各府省の府省令により定められており、一様ではありません。

 

行政資料(※)によると見読性の要件を満たしている場合、労基法109条関係の書類(雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類)の電磁的記録による保存が可能とのことですが、労使協定類を電子化(電子サイン化)して良いものか今一つ定かではありません。この点について監督署等に確認すると、「紙でなくても良い」という回答がある一方、「紙での労使協定でなければ無効」という回答もあり、見解が統一されておりません。

 

e-文書法によって電磁的記録による保存が可能となった規定

untitled (bm-c.jp)

 

法改正により契約書や請求書・領収書等の電子化(電子サイン化)が進むなか、一部の書類だけが紙で作成することを強いられるのは明らかに時代遅れでありナンセンスですので、紙での労使協定でなければ無効という行政見解に対しては改善を求めたい点であります。個人的には、現状でも電子文書・電子サインによる労使協定の締結も有効だと考えますが、皆様はどうお考えでしょうか。

 

【首相官邸HPより】

「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(2法を総称して、「e-文書法」と呼んでいます。)が平成1741日から施行されています。本法は民間事業者等に対して法令で課せられている書面(紙)による保存等に代わり、電磁的記録による保存等を行うことを容認する法律となっています。

 

執筆者:野田

野田 好伸

野田 好伸 特定社会保険労務士

代表社員

コンサルタントになりたいという漠然とした想いがありましたが、大学で法律を専攻していたこともあり、士業に興味を持ち始めました。学生時代のバイト先からご紹介頂いた縁で社労士事務所に就職し、今に至っています。
現在はアドバイザーとして活動しておりますが、法律や制度解説に留まるのではなく、自身の見解をしっかりと伝えられる相談役であることを心掛け、日々の業務に励んでおります。

その他のコラム

過去のニュース

ニュースリリース

2024.04.17 大野事務所コラム
「場」がもたらすもの
2024.04.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【年5日の年次有給休暇の取得が義務付けられています】【2024年4月から建設業に適用される「時間外労働の上限規制」とは】
2024.04.10 大野事務所コラム
取締役の労働者性
2024.04.08 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【算定基礎届(定時決定)とその留意点(前編)】
2024.04.03 大野事務所コラム
兼務出向時の労働時間の集計、36協定の適用と特別条項の発動はどう考える?
2024.03.27 大野事務所コラム
小さなことからコツコツと―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉜
2024.03.21 ニュース
春季大野事務所定例セミナーを開催しました
2024.03.20 大野事務所コラム
退職者にも年休を5日取得させる義務があるのか?
2024.03.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!】
2024.03.21 これまでの情報配信メール
協会けんぽの健康保険料率および介護保険料率、雇用保険料率、労災保険率、マイナンバーカードと保険証の一体化について
2024.03.26 これまでの情報配信メール
「ビジネスと人権」早わかりガイド、カスタマーハラスメント防止対策企業事例について
2024.03.13 大野事務所コラム
雇用保険法の改正動向
2024.03.07 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【専門業務型裁量労働制導入の留意点(2024年4月法改正)】
2024.03.06 大野事務所コラム
有期雇用者に対する更新上限の設定と60歳定年を考える
2024.02.28 これまでの情報配信メール
建設業、トラック等運転者、医師の時間外労働の上限規制適用・令和6年度の年金額改定について
2024.02.28 大野事務所コラム
バトンタッチ
2024.02.21 大野事務所コラム
被扶養者の認定は審査請求の対象!?
2024.02.16 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈後編〉】
2024.02.14 大野事務所コラム
フレックスタイム制の適用時に一部休業が生じた場合の休業手当の考え方は?
2024.02.16 これまでの情報配信メール
令和6年能登半島地震に伴う労働基準法や労働契約法等に関するQ&A 等
2024.02.09 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【固定残業代の計算方法と運用上の留意点】
2024.02.07 大野事務所コラム
ラーメンを食べるには注文しなければならない―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉛
2024.01.31 大野事務所コラム
歩合給の割増賃金を固定残業代方式にすることは可能か?
2024.01.24 大野事務所コラム
育児・介護休業法の改正動向
2024.01.19 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【派遣労働者の受入れ期間の制限〈前編〉】
2024.01.17 大野事務所コラム
労働保険の対象となる賃金を考える
2024.01.10 大野事務所コラム
なぜ学ぶのか?
2023.12.21 ニュース
年末年始休業のお知らせ
2023.12.20 大野事務所コラム
審査請求制度の概説③
2023.12.15 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【テレワークと事業場外みなし労働時間制】
2024.01.17 これまでの情報配信メール
令和6年4月からの労働条件明示事項の改正  改正に応じた募集時等に明示すべき事項の追加について
2023.12.13 これまでの情報配信メール
裁量労働制の省令・告示の改正、人手不足に対する企業の動向調査について
2023.12.13 大野事務所コラム
在宅勤務中にPCが故障した場合等の勤怠をどう考える?在宅勤務ならば復職可とする診断書が提出された場合の対応は?
2023.12.12 ニュース
『workforce Biz』に寄稿しました【研修、自己学習の時間、接待の飲食、ゴルフ、忘年会や歓送迎会は労働時間となるのか?】
2023.12.06 大野事務所コラム
そもそも行動とは??―「人と人との関係性」から人事労務を考える㉚
2023.11.29 大野事務所コラム
事業場外労働の協定は締結しない方がよい?
2023.11.28 これまでの情報配信メール
多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて、副業者の就業実態に関する調査について
2023.11.22 大野事務所コラム
公的年金制度の改正と確定拠出年金
2023.11.17 ニュース
『月刊不動産』に寄稿しました【試用期間中の解雇・本採用拒否は容易にできるのか】
2023.11.15 大野事務所コラム
出来高払制(歩合給制、請負給制)給与における割増賃金を考える
HOME
事務所の特徴ABOUT US
業務内容BUSINESS
事務所紹介OFFICE
報酬基準PLAN
DOWNLOAD
CONTACT
pagetop